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(詩)いいわけ

ぼくはきみに
さようならとは
言わなかった

ぼくはきみに
さようならを
言わなかった

ぼくはきみと
さようならを
交わさなかった

夜空を見上げると
満天の星が瞬いていた
きみが去っていった
夜だというのに

静かに風が
ぼくのほおをなでて
吹きすぎていった

きみはいまごろ
どのあたりを
旅しているだろうか

ふとぼくは
そんなふうに
本当に自然に
そんなふうに思えた
強がりや慰めや
気休めじゃなく
確かに
そんなふうに思えた


今ぼくはひとり
きみが好きだった
港の灯りを見ている
何も考えずぼんやりと
ただながめている

こうやって
きみと出会ったことも
きみともう二度と再び
会うことは
なくなってしまったと
いうことも

みんな
すべてしずかに
忘れてしまってもいいと
思うくらい
きれいな港の灯りを
ただながめている

昔この風景を愛していた
ひとりの少女がいたことを
ただしずかに
忘れてゆくように
そしてそのとなりで
ぼくが生きていたことさえ
みんな
忘れ去ってゆくように


ぼくはきみに
さようならとは
言わなかった

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