中学受験についての語り

吐き出したくなったので書く。
我が子を中学受験させようとしている方へのお願い。

私は中学受験をした。小3くらいの時に母親に「中学受験したいやんな?」って聞かれたのを覚えている。なんも考えず楽しく生きてきた子供に「中学受験」なんて言葉が理解できるはずがない。「テストを受けて、地元のみんなとは違う中学に行くねん」。そういう事じゃない。その選択の意味とか結果とか環境の変化について、そんな言葉一つで理解できるはずがない。
私は子供ながらに、これは私に「うん」と言って欲しいが為だけの質問だと理解していた。だから私は「うん」と答えた。母親を喜ばせる為だけである。そう言った事でどうなるかなんて考えてなかった。だけど今ならそれは半分正しく、半分間違いだったとわかる。母親は私に「うん」と言って欲しいからという理由だけで、私にその質問したんじゃない。将来的にもし私が中学受験した事に文句を言い始めたら、「お前だってしたいって言っただろ!」と反論できる様にする為だったのだ。母親はそういう人間である。母の愚痴を言い始めたら止まらないのでこの辺でやめる。
そして言われるがままに猛勉強が始まり、塾に通い始めた。友達と遊べる日もあったけど、ほぼ塾に通ってた記憶しかない。塾内のテストの順位は1位か2位なら良かったねと言ってくれたけど、3位なら冷たい目で見られて4位なんか取ったら厳しく怒られ夜中まで勉強させられた。木製の勉強机にストレスでシャーペンを刺しまくったから穴ボコだらけになったけど、常にテキストが乗っていたため親にはバレなかった。最近になって知った時には驚いていた。6年生になると学校の体育の授業は一人で教室で勉強する時間になった。親が学校に直談判して、そうするように言ったらしい。勉強させろ、怪我したらどうするんだと。言う親もドン引きだが、聞く学校も聞く学校である。
世界が全部右から左に回転する様な激しい眩暈がしょっちゅう起きたし、肩こりで何度も吐いた。文句を一言漏らせば殴られ椅子に縛られ家を閉め出された。ある日塾の先生にこう聞かれた。「勉強、好きでしょ?」。私は「はい」と答えた。大嘘である。理由は先生をがっかりさせたくなかったのが一つ。もう一つは、私がここでどう答えたかはいずれ母親に伝わる可能性があり、もし「嫌い」と答えた事が伝わったら、殴られるかもしれないと思ったからである。今でも不意に思い出しては後悔して、その時の私には「はい」以外の選択肢がなかったんだからと自分を励ましている。勉強なんか大嫌いだった。もっと友達と遊びたかった。
そうして3年間頑張ってきて、希望の学校に合格することができた。
小学校を卒業する前の日まで仲良く遊んでいた友達がいた。卒業後たまたまスーパーで出会って挨拶すると、「あ」と言って完全に無視されて逃げられた。意味が分からなかった。本当に何もしてない、会えてもなかったのだから。携帯なんかない時代に、頻繁に連絡する文化すらない。訳もわからず友達も失った。

さて、ここまで散々ネガティブな事を書いたが、私は中学受験自体を否定したいのではない。子供の将来にとっての大事な選択であるということは勿論理解している。良い学校に入れて良い職に就かせてあげたい、その一身で親は決断するのだろう。どうせ高校・大学を受験させるのだから、今の内から苦労させておこうとか、もしかしたら「あの家に負けたくない」なんて思いで我が子を中学受験させる人もいるかもしれない。理由は人それぞれだ。親だって人なのだから。
ただ将来子供に中学受験をさせようと思っている親に対して、言っておきたい事がある。貴方にとっての3年と、子供にとっての3年は尺度が違う。貴方のだってそうだが、子供の3年はより貴重だ。貴方が小学3年生の時、小学6年生達がずっと大人に見えたと思う。傍から見ても、3年生と6年生が同じだという人間はいないだろう。仮に親が36歳として3年/36歳は約8%だが、3年/12歳は25%だ。割合にして3倍以上である。その25%を、中学受験は犠牲にするのである。
だから、相応の覚悟を持って欲しい。そして何より、その貴重な3年を子供にとっての地獄にしないで欲しい。子供は常に親の顔色を見ている。親を喜ばせる為、又は親のご機嫌を取る為に、特に真剣に考えもせずに嘘をつく。だから全てが終わって振り返ってみた時に、嫌な思い出しか残らない3年間にならない様にしてあげて欲しいのだ。

偉そうに言ったが、私は独身貴族(死語)である。人の親の気持ちは正直よくわからない。貴方が人を一人産んで育てること自体、恐ろしく責任の重い決断だったのだろうと思う。私の言葉を「デカいガキの身勝手な自分語り」と取るか「当事者の体験談」と取るかは貴方次第だ。どう取られても私は怒らないし反論もしない。ただこの話がもし中学受験させようか迷っている両親の元に届いて、その決断の一助を担えれば、私はとても嬉しい。それだけである。

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