両親に捧げるクリスマス (#絶望のメリークリスマス)
両親揃って誕生日が12月24日という奇跡を、当の二人が自慢したい気持ちはよくわかる。
「偶然なのよ、偶然」
「運命だよな、ほんと」
うん、そうだね。
偶然同じ誕生日の人と出会って、恋に落ちたなんてすごい。
当然のように、付き合った記念日も結婚記念日も12月24日になったことは、二人の性格から何となく理解出来る。
だけどさ、娘の私の誕生日まで12月24日にしなくても良かったんじゃない?
小さい頃は、家族って全員誕生日が同じものなんだと思ってた。
だけどある程度大きくなったら……ね。
なんか色々想像しちゃってちょっと引いた。
だけど、まあ。それでもいいの。
私の両親は本当に仲がいい。愛し合ってる。
私もたっぷり愛を受けて育ったのだもの。
「メリークリスマス、さやか」
「お誕生日おめでとう、さやか」
「メリークリスマス、パパ。ママ。それから……結婚記念日と誕生日おめでとう」
「ありがとう、さやか」
「毎年みんなで祝えて嬉しいよ」
年に一度、この一日に凝縮された記念日やらお祝いで、めでたさの大渋滞が起きる。
両親にとって、ものすごく重要な一日になるから、二人の熱気が半端ない。
「さ、ケーキも食べたし。そろそろ寝る時間だぞ、さやか」
「そうね、早く寝ないと。サンタさんの鈴の音を聞き逃すわよ」
ほろ酔いの二人。もう小学六年生の私はサンタの正体に気づいている。だけど両親は一刻も早く私を眠らせたいのだ。
「おやすみなさい、パパとママ。素敵な夜を……」
私は自室に引き上げる。しっかりと戸を閉めて、直ぐに寝たふりをする。
しばらくすると両親がやってきて、こっそり私の部屋を覗く。
「ぐっすり眠ってるわ……」
そう囁いて隣の寝室に入っていく二人。
隣の部屋のドアが閉まる音を聞いて、いよいよ私は強く耳を塞ぐ。
ドタン、ガタン
クリスマスイブ。
それは、両親の愛が燃え上がる日。
サンタがやってくる前の地獄の時を、私は布団の中でクリスマスソングを口ずさんでやり過ごす。隣から漏れてくる両親の喘ぎ声を聞かないように。
早く終わってと祈りながら。
[完]
山根さん、小説で参加させていただきます。よろしくお願いします°・*:.。.☆
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