親身になって部分に関わる(Benesseさんとプロダクトデザイン)
「何を作るか」「どうやって作るか」そして「どう伝えるか」まで、できるだけ全体に関わる。
僕たちTENTにはそんなお仕事が増えてきました。
(これまでもそんなお話をここnoteで数多くしてきました☟)
一方で、実は僕たちもプロダクトデザイナーとして部分に関わるお仕事もやっています。
今日は、その具体例として。Benesseさんとのプロジェクトについてお話していたいと思います。
1. 教え方を考える小学生
TENT アオキ
わっしーさん、こんにちは。今日はよろしくお願いします。
Benesse わっしーさん
こんにちはー、よろしくお願いします。
ハルタ
わっしーさんとアオキさんって、もともと知り合いなんですよね。
アオキ
そうですね。直接会った回数はそれほど多くないんですけど、15年くらいの付き合いで。SNSでずっと繋がっていて。
(わっしーさんのInstagramはいつも上機嫌☟)
アオキ
正義が近い友人という感じで、すごくシンパシーを感じてます。だから今日みたいにお仕事という立場で会うと、ちょっとドギマギします。
アオキ
僕の勝手なイメージなんですけど「Benesseで働いてます。」って名刺を渡されてすぐ想像するものと、今わっしーさんがやってる「ハードウェア製品を作る」ってお仕事とは、かなりギャップがあると思うんですよ。
どういう経緯でこういうお仕事をすることになったんですか?
わっしーさん
もともと僕は「先生になりたい」あるいは「教育系の仕事に就きたい」って思っていて。
アオキ
学生の頃からですか?
わっしーさん
5、6年生の頃に「こんなふうに言ったら伝わるなあ」とか
アオキ
え、小学生が、ですか?
わっしーさん
そう。親が小学校の先生だったっていうのもあって「自分が先生になったらこういう言い方をしよう」とか「分数をひっくり返すときにはこういう図を描くとわかりやすい」とか。そんぐらい先生の仕事に憧れていたんです。
それで大学の頃は塾の講師もやって、教員免許も取ったし教育実習もしたけど、教育産業の方も見てみるかって。
Benesseを受けてみたところ、面接がすごくユニークで。パフォーマンス面接って言って「3分で自分を表現せよ」みたいな。
アオキ
えー!何をやってもいいからってやつですか。
わっしーさん
なんでもありなので、鍵盤持ってきてたり道着に着替える人もいましたよ。僕はラグビー部だったので、ラグビーの格好をして普段やってるトレーニングになぞらえて、思いとか反復がどうこうみたいなことを語って、アピールしました。
ハルタ
えええー!意外。
わっしーさん
そしたら最初は「あんた営業向きだから営業やんなさい」って言われて。
自治体の困りごとをどうツールで解決するかを考えてプレゼンテーションして周るようなお仕事でした。その中でも資料を作ることがクリエイティブで楽しかったんです。
でも「やっぱり立体物のクリエイティブもやりたいな」ってことで、異動の希望を出し続けて。4年後に今の部署に異動になりました。
アオキ
4年って、けっこう長いですよね。ガッツリやられてたんですね。
わっしーさん
そうですね。理不尽なこととか体力的なこともしっかり経験して。そうして最初に、小学校4年生の1学期向けに「空気について学ぶ」ための教材を担当することになって。
アオキ
いよいよ、モノづくりが始まった。
2. メッセージを物に落とし込む
わっしーさん
たとえば「空気とは見えないものである」「見えないけど押すと押し戻される力がある」なんていう届けたいメッセージを、どうやってモノに落とし込むのかを考えるんですけど
最初は本当に何もわからなくて、他社さんとか世の中にある玩具、たとえば空気鉄砲とかも参照しつつ、組み合わせてみたり。
わっしーさん
4年生の編集部の漫画でトムくんっていう犬のキャラクターがいるので「犬の形をしたスポンジをタンクにいれて加圧するとギューっと縮む」とか考えたり。
アオキ
そこから、ちょうど良い感じに潰れてくれるスポンジの工場を探すんですか?
わっしーさん
探すこともありますけど、ベネッセは長年のものづくりの歴史で、玩具や教材を作ってきた工場さんサプライヤーさんと繋がりがあるので。相談すると「こういう素材があるよ」とか「こういう方法があるよ」とかアイデアも出していただけるんです。
だから、私みたいに何も知らない状態からスタートしたとしても、子どもたちに何を学んでもらいたいのかの軸さえしっかりしていれば、実現はできます。
アオキ
その仕事に就いてから何年になりますか
わっしーさん
もう15年くらいになりますね。
アオキ
ベテラン!
ざっくり年間だと何プロジェクトくらいあるんですか。
わっしーさん
新規製品は5~6製品ですけど、流用や増産も含めるとひとり10~20製品くらいです。
アオキ
うわあ、とんでもなく多いですね。わっしーさんだけでもこれまでに100種類以上の製品を世に送り出したことになる。
わっしーさん
文具とかちょっとした物も、毎月か隔月であるので。『こどもちゃれんじ』は特に多いですね。
アオキ
そんなわっしーさんですが、なんでTENTに仕事を依頼することになったんですか?
3. 子ども向けだからこそ
わっしーさん
個人的にアオキさんを知っていたのでTENTさんのことはずっと見てて。製品もいくつも買って使ってて。
ずっと「お仕事を依頼したいなあ」って思ってはいたんです。ただ個人的な繋がりや好みをを会社の案件に入れるのって、勇気というか心の準備がいるので、なんか好きすぎて逆に依頼できないみたいなことが何年も続いてて。
アオキ
たしかに、友人と仕事するってなると、揉めたら嫌ですもんね。
わっしーさん
そう。それである時、『こどもちゃれんじイングリッシュ』っていう新しいプロジェクトが立ち上がって、新しいデザイナーさんを探そうってなったときに、今の上司から「鷲巣さん良いデザイナーさん知らない?」って言われたので。
「ついに来た!」って。すぐにTENTさんのホームページを社内で共有して、良いじゃん良いじゃんって盛り上がって。
最初にご一緒したのが『ティンカリングキット』のプロジェクトですね。
アオキ
このブロックを並べてAR(拡張現実)で見ると、ブロックの上をしまじろうが歩くっていう。プログラミングを学ぶための教材ですよね。
わっしーさん
はい。こちらからの最初のインプットとしては、それぞれのブロックの役割を説明して。じゃあそこにどういうアイコンを載せるのか、ブロックの配色をどうするのかっていう相談をしました。
アオキ
わっしーさんの企画書がすごく良くできていて。すでに詳細まで考えられていたので、正直「もうこのまま製品できてるじゃん!」って思いました。
だから、言われた通りの1案を描くことは簡単にできるんですけど、やっぱりやるからには、わっしーさんに驚いてもらいたいから。最初はとにかくいろんな方向性の案をたくさん出しましたね。
ケンケン
条件としては「金型が3種類で、6つの役割のブロックを作る」ってお話でした。
わっしーさん
うわあ、こんなのもありましたねー。
アオキ
結構、回答までは時間がかかってて。「たくさん方向性を示しすぎたかな?」と不安になってたんですけど、最終的にはわっしーさんから「この案で行きたいです!」って明確に回答がもらえました。
わっしーさん
個人的には「これが本命かな」というのはわりと早く決まっていたんですが、Benesseだと子どもに見せて反応を見つつっていうのがあったので、回答まで時間がかかってしまって。
シンプルな形なんだけど、カーブのところとか、色使い、シボの質感とか、細かいニュアンスの表現もお願いしたいなと思っていたので、形になって出てきたときには感動しました。
ハルタ
実はこちらも感動していて。シボを綺麗に出したり、ヒケ(成形時に出てしまう歪み)の対策とかが本当にすごい。そこは長年の付き合いのある工場さんだから可能だったんでしょうか。
わっしーさん
そこがBenesseらしいところで、工場さんが誇りだったりします。ぜんぜん資本が入ってるわけでもない協力工場さんなんですけど、ずっと付き合っているのでBenesseマインドが日頃から共有できていて。
「子どもたちにどういうものを届けたいのか」っていう目線がすごい。
ハルタ
なるほど。子ども向けだからこそ、安全とかの基準が高くなる。
わっしーさん
そうですね、安全性はもちろんですけど、それ以上に「子どもが初めてこれを手にするときにテンションが下がっちゃいけないよね」って。ちょっとした傷なんかも細かく見ています。
Benesseが一方的に工場を管理しているという感じではなくて。中国の工場の方もお子さんもいたり、家族のことを考えてやってくれているんです。
子どもたちのために良いものを作ろうよっていう思想が共有できている、ある意味ちょっと宗教的な感じで。
ハルタ
それがうまく作用しているんですね。長く付き合うからこそ。
わっしーさん
とはいえ、良い意味での緊張感は必要なので、別の工場さんとの相見積もりとかそういう面もないわけではないのですが。
ケンケン
ヒケ以外にも、こっちから何も言わなくても全てのディティールがどんどん良くなっていくんですよね。
ティンカリングキットってカメラで読み取って色を識別しないといけないので、このブロックについても厳密な色の管理が必要だったんですけど、最初の試作の時点でビタっと色が合ったものが出てきて。
他のお仕事ではこんな経験したことなかったのでビックリしました。
ハルタ
表面の触り心地もしっとりしてて。これって塗装してないんですよね?
わっしーさん
無塗装です。シボ(微細な凸凹)だけでできてますね。
色やシボの仕上げに関しても、やっぱり過去にも日本の厳しいプロダクトデザイナーの方々に関わっていただいているので。それで鍛えられているというのもあるかもしれないですね。
4. ありがとうから始まる対話
わっしーさん
実は工場が勝手に修正しちゃってたりとか、行き違いによるトラブルもよくあるんですけど、そのたびにきちんと原因を聞くようにしています。
聞いてみると、実はCADの担当者さんが工場にいて、その人が良かれと思って変更していたりとか。
ハルタ
悪気はないんですよね。
わっしーさん
そうそう、意図を知ると理解できる。だから「なるほどそれはありがとう、でも今回はこうしたいから」というように、対話をしっかりするようにしています。頭ごなしに言ってもあんまり良いことないですから。
アオキ
日本のデザイナーさんからよく聞く言葉として「海外の工場が勝手に形を変えた」ってのがあるんですけど、よくよく話を聞くと「良いものを作ろう」とはしてくれてるんですよね。国ごとの価値観が違うだけで。
アオキ
とはいえ何かあるたびに対話を重ねるというのは並大抵のことではないので、ベネッセさんのスタンスはすごいなと思いました。
次に、アルファベットブロックですが。こちらもさきほどのティンカリングブロックからそれほど時間が経過せずに始まった気がします。
わっしーさん
上質さとか元気いっぱいさを体現してくださったティンカリングキットの印象が社内でもすごく好評だったので、次もTENTさんにお願いしようということで始まりました。
アオキ
実はこれも、インプット段階でわっしーさんの企画書のクオリティがあまりにも高かったんで「もうできてるじゃん!」って思いました。
わっしーさん自身がすでに、自分の手で木のブロックを削って試作を作ってて。
ハルタ
もうサイズの検討まで終わってましたもんね。
わっしーさん
そうですね。大まかなサイズや手で持ってみた感じを確かめたくて、自分で試作をはじめてました。
でもそこから、文字を印刷で表現するのか、どうやったら手触りが面白くなるのかなど幅広く見てみたくて、TENTさんへ相談しました。
アオキ
これもまた、言われた通りの1案はすぐに思いつくんですよ。でも期待値を越えたくて、すごくたくさんのアイデアを提案しました。
そもそもブロックですらなくなってるものも提案したりして
わっしーさん
僕が「さすがだな」ってびっくりしたのは、文字の背景部分を波のようにする案です。手触りだけで文字とそうでない部分がハッキリわかるし、この横方向の線が楽譜の五線譜みたいに横のつながりも感じさせる。
ハルタ
このアルファベットブロック、英語の文字1つ1つのために、全て金型を起こしているんですよね。A~Zの大文字小文字だから、52種類の金型が使われている。
わっしーさん
僕も最初はびっくりしました。主担当者に「こだわり重視はわかるけど、そんなことしたらすごくお金がかかるよ。」って言いましたもん。結果的には様々な工夫をして、現実に落とし込むことができました。
ケンケン
製造する上で一番「すごいな!」と僕が思ったのが、文字のところ。凸になっている文字部分に、白い色が完全にピタッ!と全くズレずに印刷されている。
わっしーさん
ここねー!すごいですよね。僕はここは工場で立ち会わなかったので、どう実現しているか謎なんです。こんなこと普通はできないですよね。
アオキ
文字といえば、この英文字ってオリジナルで作ったものですよね。
わっしーさん
そっか、文字もオリジナルだったんですね。
ケンケン
そうですね。既存のフォントをベースにはしつつ、ブロックに入るようサイズ調整したり、Benesseさんの規定に沿うように細かな調整を行いました。
ハルタ
ちなみに僕は、この色に決定されたのもすごく意外でした。
アオキ
このときも、色のバリエーションもいっぱい提案しましたよね。
ケンケン
一回数多く出した上で「この製品は別のタッチペンと一緒に使うので、そのタッチペンとの色合わせも重視して欲しい」という要望をいただいて、さらにいくつもの色提案を行いました。
わっしーさん
これまでのベネッセって、赤と青と黄色!みたいな原色に近い色を採用してきたので、このアルファベットブロックの色はかなり勇気が必要だったんです。
これも、幼児の英語学習の先生とか、発達心理学の方とか、たくさんの方の意見を聞きつつ、最終的には担当者の思いで決断しましたね。
ケンケン
色を決定する時もそうなんですけど、ベネッセさんは担当者さんの思いがハッキリあるので、すごくやりやすかったです。
他のお仕事だとゆるっとしてて「TENTさんはどう思いますか」ってすぐ聞かれちゃうこともあるんですけど、ベネッセさんはいろんな場面で担当者さんが理由をハッキリ説明してくれる。
わっしーさん
ありがとうございます。それはもしかすると、中国の工場とコミュニケーションすることが多いからかもしれないです。
遠方だし文化も違う人とやりとりするには、全てをきちんと言語化して対話を重ねないといけない。その積み重ねが、TENTさんとのコミュニケーションにも良い結果を生んだのかも。
5. ふざけ合って親身になる
アオキ
ちなみに、いろんなデザイナーさんとお仕事をしているわっしーさんから見てTENTはどうでしたか。
わっしーさん
いや、もう好きすぎて、製品も個人的にいろいろ買っているし。
アオキ
とはいえ製品を使うのと実際にお仕事を一緒にやるのとでギャップはなかったのかなって。
わっしーさん
たしかに。実はご一緒する前には心配していたことがあったんです。
プロダクトデザイナーとしてのこだわりが強くて「そこは譲れない!」とか、検討すらしないで「これです!あとは決めてください」って感じになるのかなって思ってたんですけど
けっこうどころか、かなり親身になって寄り添ってくださって。変更にもすぐに応じてくれるし、こちらからお願いしなくても先回りして手触りがわかる試作を用意していただけたり。
アオキ
そうだったんですね!僕たちはいつも依頼主と一緒になって作るつもりでやっているので、そう思われてたのは意外でした。
わっしーさん
なんででしょうね。やっぱり、TENTさんのWebを見るとクールでスタイリッシュ、すごく削ぎ落とした感じのアウトプットが立ち並んでいるので、そう思っちゃうのかもしれないです。
でもね、TENTさんのWebも、下の方までスクロールしてけば、牛乳瓶や黒板消しやロボットやタッチドッグとか、ユーモアがあるものもいっぱいあるんですよね。
わっしーさん
僕は付き合いが長いのでユーモアの部分も知っているのですが、TENTさん=クールな削ぎ落とした格好よさ、みたいな印象は強いのかもしれないです。
とはいえ、初回の顔合わせの帰り道で、僕と一緒にいた女性担当者も「いやあ、人柄がすごくよかったね。これはよくなる予感がする」って言ってたんで。
ケンケン
ベネッセさんとのプロジェクトって、僕たちが試作を先回りして作ったり、提案をたくさんしたりっていう傾向が、たしかにより強く出てた気がして。
なんでだろう?って、今考えてたんですけど、たとえば、あるときにBenesseさんから試作か何か荷物が届いたんですよね。
開封したら、中にわっしーさんの手描きのすごく可愛いイラストが入ってたんです。あれはズルい。笑
ハルタ
そういえば、企画書にも手書き文字やイラストがたくさんあって、仕事中なのに、すごくホッコリしますよね。
アオキ
たしかに。何て言うんだろう。良い意味でふざけてる。
わっしーさん
会社員ってどんどんふざけられなくなってるけど、ふざけるって重要ですよね。
アオキ
ちゃんとやりつつ、ちょっとしたプラスの気遣いというかふざけ合う感じ。それがあるとお互いに親身になって、仕事ってすごくスムーズにいきますね。
これからも、ふざけたり真面目にやったり、何かご一緒できると嬉しいです。今日はありがとうございました。
わっしーさん
ありがとうございましたー!
<おまけのお知らせ>
新規ビジネスやブランドを立ち上げるなど、大きくて長いプロジェクトが多くなってきた最近のTENTですが、このBenesseさんとの取り組みのように担当者さんの思いを形にするべく、一部を担う関わり方も大好きです!
「TENTと一緒に何かやりたいけど、大きなスケールのものじゃないと声かけづらいなあ」なんてお悩み中の方、小さくて短いお声がけも大歓迎なので、お気軽にご連絡ください。
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