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世の中から始めない(WALL FOR ONE デザインのひみつ)

2023年11月ごろに発売された WALL FOR ONE(ウォールフォーワン)

発売直後から本当にたくさんの方にご愛用いただけております!ありがとうございます。

さて、そんな WALL FOR ONE  はどう生まれたのか。燕市にある光新産業さんへ伺って、お話ししてきました。

TENT アオキ
今日はよろしくお願いします。


光新産業 森井さん
よろしくお願いします。

写真左:光新産業 森井さん
写真右:TENTアオキ



1. 創業99年の責任感


アオキ

光新産業さんについて、ざっくり教えていただけますか?


森井さん
うちは1925年に創業して、今年で99年目になるんですけど


アオキ
99年目!来年は100年じゃないですか。何か予定されてるんですか?

森井さん
いやいや、とくに何も予定してませんけど。そうですね、会社名が変わったりしつつではありますが、創業からは長い会社ですね。

50年前くらいから、金型の設計製造とプレス加工を中心に、送風機、換気扇、ファンなどを中心に、いろいろなジャンルの製品を製造しています。

森井さん
ちょうど昨年から、自社がメーカーとなって工業用有圧換気扇を製造販売するようになりました。


アオキ
これまでは受注して製造する形だったんですか?


森井さん
そうですね。50年前から産業用換気扇の大手メーカーさんからのOEMとして製造を担当していたんですが、昨年からその事業を弊社が引き継ぐことになり。弊社がメーカーになったという形になります。


アオキ
なるほどー。ちなみに森井さんはどういったきっかけで入社されたんですか?


森井さん
父が光新産業の代表取締役なんですが、私は入社するつもりは全くなくて。

東京で医療系のコンサルティング会社へ2~3年くらい勤めた後にスタートアップを初期メンバーとして立ち上げて順調に働いていました。

アオキ
それで東京から新潟へ引っ越していきなり製造業に合流。なにかギャップとかありましたか?


森井さん
それは、やばいくらいめちゃくちゃありましたよ!地域的なギャップもありましたし、物を作る業界ってのが初めてなので。それまで私は情報やアイデアを提案する仕事でしたから。


森井さん
うちは金型からなので、作り始めるところからじゃないですか。最初は図面の見方もわからなくて、デスクで1日ずっと図面を見ているなんてこともありました。

アオキ
製造している製品ラインナップを確認する感じですか?


森井さん
いえ、カタログなどではなく、製品が分解された、1つ1つの部品の図面とその組み図を見ていく感じですね。

現場では部品番号で会話しているので、何についての会話なのか理解するためにも、部品全てを把握しないといけなくて。

 アオキ
いきなり高速道路に合流する感じですね。それは怖い。


森井さん
大変な合流ではあったんですけど、ちょうどその頃、入社三ヶ月目くらいにはTENTさんに連絡させていただいたんです。


2. 資料の外側を見るスタンス



アオキ
たしか「はじめての自社商品開発に協力してほしい」という趣旨のご連絡だったと思うんですけど、そもそもなぜ自社商品を始めようと思ったんですか?


森井さん
私が光新産業へ入社したのがちょうどコロナ渦で。世間の景気が落ち込む中、下請け的な受注に依存する会社形態だけでなく、新たに何か自社として直接販売できる製品を持ちたいと考えていました。

森井さん
すぐに利益が出るかどうかは置いておいて、まずは経験しておく必要があるだろうと思ったんです。

とはいえ何から手をつけたら良いのか本当に分からなかったので、起点になるような企画書を作ってから外部のプロダクトデザイナーさんに依頼しようと考えました。

森井さん
まずは社内でディスカッションして、ある機能を持ったゴミ箱の企画書を作って。それからTENTさんを含め何件かのデザイン会社さんを回りましたね。


アオキ
なるほどー。その中でもTENTに依頼しようと思ったのはなぜですか?


森井さん
他とぜんっぜん違ったんですよねTENTさんは。他の会社さんは私が見せた企画書を見て「この製品のデザインをすれば良いんですね」というスタンスだったんです。


アオキ
渡された資料をもとに要件定義をするための打ち合わせ。


森井さん
そうです。一方でTENTさんは、その資料の外側の、弊社がどんな会社なのか、どんな製造方法が得意か、そして私のこれまでの仕事や暮らしのことなんかにも興味をもって質問されてたんです。

森井さん
その上で、私の企画の懸念点とか「別の企画提案もありですか」なんて話もしてくれました。



3. 自分を起点にして世の中へ

アオキ
最初にいただいた企画書は、ざっくり言うと「家電としての新しいゴミ箱」というようなもので。それをもとにした初回提案がこちらですね。

森井さん
3年以上前ですよね、懐かしい。これをもとに弊社で実働試作を制作して、みなさん燕三条までお越しいただいて見ていただきましたね。


アオキ
実際に工場を見学させていただいた上で実働試作を見ましたね。しっかり作っていただけていたんですけど、この企画だとソフトウェアもハードウェアも必要で。

光新産業さんの自社内だけでなく外部に頼る部分がとても多い製品になり、開発費も製造費も莫大なものになってしまう気がしました。

「せっかくのはじめての自社商品なので、もうちょっとライトな、自社で製造できるものにしませんか?」ってお話した気がします。


森井さん
そうですね。実際に私も、他の案があるならそれでも良いと思っていたので、TENTさんに別プランの提案を依頼させていただきました。


アオキ
それから雑貨のような軽いアイテムをいくつも提案しました。コロナ渦だったこともあり、アルコール消毒やマスクに関連する案がたくさん出てますね。

森井さん
弊社の過去の技術を活かす意味でサーキュレーターの提案もありましたね。モーター入手性の問題で実現ができなくて申し訳なかったです。

アオキ
いえいえ。その後、あるユニークな除菌ウェットティッシュケース案が採用になり、たしかケンケンさんが主担当で試作がいくつも検討されました。


森井さん
ありましたね!金属で制作させていただきました。


アオキ
そんなある日、試作の改善を検討していたケンケンさんの表情がちょっと暗くなっていたので「ケンケン、今その仕事してて楽しい?」って聞いたら「ちょっと苦しいです」って。

やっぱり製品開発って途中でいろんな変更があるので「欲しくてたまらない!」っていう最初の楽しい気持ちを維持するのが難しくて「こういうのもアリだよね」くらいのスタンスになってしまうこともある。

でもそれって実は、危ないと思うんです。

アオキ
作業する人が楽しくなくて、製品も買ってもらえないなんて良くないことですから。すぐに森井さんに連絡して「いまの検討を止めて、別案を提案させてください」ってお願いしました。

そこから新しく数多くの提案を行い、その中から「消毒用アルコールボトルホルダーになる傘立て」の試作を進めることになりました。

森井さん
工場に当時の試作があるので、持ってきますよ。

これですね。

アオキ
わー!そう、こういう綺麗な試作をいくつも作っていただいたんですよね。

この試作が完成してから一ヶ月ほど使った後で、この案についても「やっぱりやめます!」ってお伝えすることに。本当に申し訳なかったです。


森井さん
その時は「え!?」って思いましたけど、たしかに今見るとピンと来ないですもんね。


アオキ
その当時の資料がこちらです。


アオキ
世間で盛り上がっている「感染症対策系アイテム」で何か出せないかって話からスタートして、この試作ができたわけですけど

アオキ
実際に事務所や家に置いて見たところ「店舗向けに使いやすそう」っていう結論に至ったんですね。

それはそれでアリだとは思いつつ、こういう「自分以外の誰か買ってくれる人を探す」っていう発想はキケン!って思いました。


アオキ
そもそものとっかかりが「世の中」。これが良くなかったんですね。

もっと切実に「自分の困りごと」を細かく見つめ直して

アオキ
自分は買うし、人にも自然にオススメできる製品を作りましょう!ということで、提案したのがこちらですね。

アオキ
機能の足し算ではなく、減らすことでより豊かに使えるようになる。

アオキ
熱意を込めて、またも大変更のお願いになったわけですけど、この時はどう思いました?



4. キラキラしたすごい熱量を


森井さん
未知の物を作るわけですから、こういうこともあり得ると思っていたので、すんなり受け入れられましたよ。

ただ正直それまでにコストがかかっていた部分もあるんで、会社にどう説明するかはかなり悩みました。


アオキ
そうですよね。


森井さん
正直、社長からは怒られましたよ。「すぐに利益を出せとは言わないけど、作るものくらい早く決めろ」って。

アオキ
いや本当、申し訳なかったです。


森井さん
最初に弊社から「世間のニーズに合致した商品」と言ってしまったが故に、それまでの提案はそこに沿ったものを出そうと頑張って捻り出した感じだったんですけど

この時からはアオキさんが吹っ切れて。キラキラしたすごい熱量を感じましたね。


アオキ
そういうのって伝わるんですね。この案については思いついた瞬間に興奮してしまって。

思いついた瞬間に描いたスケッチ

アオキ
休日の我が家で、子どもと一緒にこんな簡易試作もしてしまったんです。

家にあった段ボールで即興工作



アオキ
この簡易試作を家に置いて「今回こそは、絶対に良いものになる!」って確信しました。


森井さん
こちらとしては全てが初めてだったので、それまでの試作もこの時の提案も、楽しかったですよ。

森井さん
しかし、お会いしてからこの時までで1年かかってますね。


アオキ
量産するアイデアの確定までで1年。僕の経験から言ってもさすがに過去最長だったかもしれません。そしてさらにここからの構造検討にも時間がかかりましたね。


森井さん
ちょうどこの頃に弊社が新工場を立ち上げる時期に差し掛かったこともあり、試作検討のたびに何ヶ月もお待たせしてしまって、申し訳なかったです。


アオキ
いえいえ、全てはここまでに時間がかかりすぎたせいなので、こちらこそ申し訳ないです。

ここからの検討ですが、部材を少なくしたり、組み立てやすさと剛性との両立のために、かなり頻繁にやりとりをしていた気がします。

こんな構造スケッチを何枚も送付しながら試作を進めた
商品組み付け時のわかりやすさも考慮しつつ

森井さん
とくに、剛性に関してはかなり検討を重ねましたね。下の板を分厚くして低重心にして、溶接方法なども何種類も試しました。


5. 良さの芯を掘り起こす


森井さん
最初は複数の高さと天板サイズでシリーズ展開する予定でしたよね。


アオキ
はい。でもこの製品はこれまで世の中になかったものなのでじっくり説明する必要があると思って。少なくとも最初は1つのサイズに絞った方が良いと思いました。

家で使いながら、製品の高さや天板の面積などを何度も微調整して、収納としてもスタンディングデスクとしても使いやすいベストなサイズを見つけました。


森井さん
色についても当初は黒一色にする予定でしたよね。

アオキ
はい。黒だけにするつもりだったんですが、TENTのツジくんが「僕の家には黒い塊は置きたくないかもしれないです」って言ってくれて。

たしかに、大きめな製品なので部屋によっては黒だけだと重すぎちゃいますよね。そこから慌ててグレーを検討しましたね。

森井さん
結果的には圧倒的にグレーのほうが数多く買っていただけているので、2色にしていただけてよかったです。

アオキ
そうして製品も完成したんですけど、実はここからもかなり悩ましかったんですよ。


森井さん
そうなんですか?


アオキ
実際に使っていて良い製品だなと思ってはいたんですが、あまりにも汎用性が高いので「いつ誰がどう使うと良い製品なのか」が伝えにくくて。

まず悩んだのは名前ですね。

アオキ
ワゴンなのかスタンディングデスクなのか悩む中で、ある時こんな名前を思いつきました。


森井さん
「ウォール フォー ワン。この名前で行きましょう!」と言っていただけて、すぐに納得できました。


アオキ
ありがとうございます。とはいえまだ安心できなくて。家でも事務所でも毎日使いながら「WALL FOR ONE の良さの芯は何だろう?」って自問自答しました。

あれやこれや悩みながらも、まずは具体的な使用シーンをいくつも思い浮かべて、たくさんの小道具を用意して製品撮影に臨みました。

森井さん
私はこの撮影に途中から参加したんですけど「なるほど!こうやって使うのか、すごく良い。」って思いましたけどね。


アオキ
そうなんですよ!この撮影の時に僕もようやく安心できたんです。

アオキ
後で考えたらCHOPLATEフライパンジュウも同じでした。製品単体で見た時には「大丈夫かな」ってすごく不安になって。食べ物を乗せた時にグンと魅力が出る感じ。

それぞれの暮らしの中での名脇役になれれば良い。今回もそういう製品だって気づけたんですよね。

アオキ
とはいえまた悩むわけです。あんなふうにもこんなふうにも便利に使えるこの道具の魅力を一言で伝えるには、どんな言葉があるだろうって。

最初は「一枚の自由なワークスペース」それから「最小限の秘密基地」などなど考えつつ、どれもピンとこなくて。

ある日に家で「アイデアとかデザインとか」のまえがきを書かなくちゃいけなかったんですけど何も思いつかず行き詰まってて。

ふと思い立ってWALL FOR ONE で立って作業したらスルスルっと書けたんです。

アオキ
その時に「あ、WALL FOR ONE は僕にとって切り替えを作る道具なんだ!」って気づけて。最終的には「切り替えると、うまくいく」っていう言葉を見つけることができました。


森井さん
なるほど、様々な用途に当てはまりますね。


アオキ
この言葉一つで商品の印象がガラっと変わるわけでは決してないと思うんです。

でもこの言葉が見つかったことで、僕の中でプロジェクトが目指すべき本当のゴールがクリアになりました。


6. 一緒に育てていける製品


森井さん

最後まで考えを尽くしてくれて本当にありがたかったです。

今回は何から何までTENTさんにやっていただけて「うちは作ってるだけじゃねえか?」って思うんですけど、一歩目として最高の経験や学びをさせてもらったんで、次に続けていきたいと思います。

アオキ
お陰様で、発売直後から本当にたくさんの方にご愛用いただけている製品になったわけですけど、そんな今だからこそ話したい事などありますか?


森井さん
よく「実物の印象が良い」と言っていただけるので、もっと実物に触れていただく機会を増やしたいですね。取り扱いたいというお店さんがいましたら、気軽にご連絡いただけると嬉しいです。

森井さん
また「小さなPOP UP SHOPとして使いたい」という要望もいただくので、WALL FOR ONE を使ったマルシェイベントのようなものも、いつかやりたいですね。


アオキ
それ良いですね!有孔ボードに商品並べて、天面でレジしたりできますし。

森井さん
あとは、本当に汎用性が高すぎて使う方によって全く違う方向へ成長していく製品だと思うので、どう使っているのかご意見ご感想いただけると大変嬉しいです。


アオキ
たしかにです。フックなどのアクセサリーを含めてとても拡張性のある製品なので。

アオキ
使った上でのご要望などお寄せいただき、皆さんと一緒にこの製品を育てていけると嬉しいです!

ハッシュタグ #wallforone でSNSに書いていただいても嬉しいですし、こちらから気軽に質問やお問い合わせください。

今日はありがとうございました。


森井さん
ありがとうございました。

WALL FOR ONE は、新潟県燕市で職人の手によって一つ一つ製造されています。

切り替えると、うまくいく。

みなさんの暮らしでも、切り替えを生むお手伝いができると嬉しいです。






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