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屋上とフィクション

今日も彼女は勉強中。

熱心に恋愛漫画を読み込んでおられます。
我が家の押入れは恋愛漫画、学園もの、青春ものでいっぱいです。もう図書館レベルです。彼女は自分が作家であるのをいいことにこれらは全て経費として計上しております。まあ悪いことではないのでしょうけれど。でも家計をひっ迫させるほど買い込んだり、毎週毎週馬鹿でかいダンボールが届くのはちょっと勘弁して欲しいです。え?いやいや、僕は覗き見なんてしていません。彼女が「教材」を持って僕に質問してくるのです。そしてここは僕の仕事部屋です。

仕事部屋なんて言いますが自室です。仕事用の部屋を設けられるほど広い家ではありません。そもそも元は僕が一人で住んでいたんです。しかしいつからか住みついちゃったんです。あ、大家さんは知っています。その辺はご心配なく。


と、仕事を中断して嫌味を込めて書いていたら後ろから脚が飛んできた。


「俺、仕事中なの。ねえ、わかる?」
「別にいいだろフリーター」
「フリーランスだ」
「一緒だろ。謎の暗号書いてるだけじゃねえか。それほんとに仕事かよ」
全てのエンジニアを敵に回す発言だ。

「じゃあ君もフリーターだよ」
「……フリーターってさ、みっともない意味で使われるけどうちはいいと思うけどな」
「論点ずらすなよ作家先生」

「んでさ」
「はいはい、なんですか」
ズイっと突きつけられたページには屋上で告白するシーンが描かれていた。
「それが何か」
「屋上って、上がれんくね?」
「疑問てそれ?」
「うん、なんかさ、屋上多くない?こういうシーン」
「屋上には夢が詰まってんだよ。ほら、デパートの屋上に遊園地あるだろ」
「それ一緒か?」
「ワタナベと緑も雨の屋上で抱き合ってたじゃん」
「まあ、そうか。でも高校の屋上ってフィクションすぎない?」
フィクションで飯を食っている女が「フィクションすぎない?」はなかなかにギャグだ。

「上がれたよ、俺の高校」
「え?まじ?」
「まじ」
「合法?」
「合法」
「実在するんじゃ……」あ、興奮してるな。「ちなみにこういうことは?」
「あったかもしれないけれど、いつも誰かしらいたからね。部活の練習場とかにもなってたし。ダンス部とか」
「でも屋上に上がれたんじゃ」
「そうね」
「さすが、東京はちげえな」
「それ関係あんのか」
「広島にはないはず」
「いや、関係ないだろ」
「うちの学校はだめじゃった」

「あおは屋上で遊んだりしとった?」
「たまに行ってたかな。1年の時は、1年全員で先輩にしばかれに行ってた」
「ああ、部活ガチ勢あるある」
「あとは、そうだね。部活引退して、受験モードになってからかな。放課後勉強して、息抜きに友達とパーっと」
「え、激エモじゃん」
「今思えばね」
「友達いたんだ」
「ぶっ飛ばすぞ」

「どうなの、屋上」
「そんなに屋上興味あんの」
「だってフィクションじゃ思うとったんじゃ」

フィクションねえ。
フィクション。うーん。
フィクションか。うん?

ん?

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