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ゴロゴロ彼女の小説講座

「小説読まないよね、小説家なのに」

僕の部屋でゴロゴロ漫画を読んでいる彼女。紙でもタブレットでも。ジャンルは縦横無尽、なんでも読む。エログロサイコサスペンスからキュンキュン学園ものまでなんでも読む。最近のブームは「音楽だけが生きがいの男の子とアクティブな女の子の音楽×恋愛漫画」らしい。

「…それは野球選手に『野球選手なのに野球しないよね』って言ってるようなもんじゃね」
「……いや、違うでしょ。野球選手は野球するでしょ。それを言うなら、」
「練習ってことかい?」
「まあ、そうかな」
「ふむ」

やれやれ、と彼女は起き上がり自分の部屋に戻って行った。

不貞腐れた?いや、違うな、これは多分。

しばらくすると電子レンジほどの大きさのダンボールをヨタヨタ持ってきた。

段ボールの中には案の定、というか、大量の漫画が詰め込まれていた。小説じゃないんかい、と言おうとしたとき、あることに気がついた。やけにボロボロなのだ。中古?いや、中古じゃない。付箋が貼ってあるし、折り目もついてる。これはこいつがやったのか。

彼女はそのうち一冊を開いた。
開いた拍子に小さなメモ書きがはらりと落ちた。

開いたページには赤線と付箋。
落ちたメモにはびっしりとボールペンで何かが書き込まれている。

「うちは漫画で小説書いとるんじゃ」

そこから彼女の授業が始まった。

 いいかい?

 漫画と小説の大きな違いは構成要素。

 小説は基本、文字だけ。挿絵がある時もあるけどそれは例外。ぶっちゃけあんま変わらん。太字、イタリック、下線、ドット、改行、どれも文字の装飾という枠から出ない。基本縦書きで一方向だしね。強引に言えば、「文字オンリー」なの。

 じゃあ漫画は?まず、イラスト。これが最大の違い。そんでコマ割り、説明文、セリフ、吹き出し。要は自由度が高いの。自由度が高すぎる。それゆえに激ムズ。……そうね、例えばリズムや「間」が作りやすい。

 文字だけで、「間」を作るのってすげえだるい。むずい。

 でさ、ほら、見て、このシーン。1ページを大胆に上下分割。

 上がピアノを演奏している男の子。下が頬を赤くした女の子。彼女の視線の先には何もない。やばくない?空白だよ?けど、彼を見ているのがわかるでしょ?

 しかもセリフも音符も一切なし。

 女の子が惚れているのと、男の子が楽器に没頭しているのがわかる。1つのコマに二人を入れるよりこうした方が伝わるんだよ。

「男の子はピアノに夢中。恋愛なんか知らん。音楽さえあればいいタイプ」
「女の子は”何者”かになりたいけど何もない。表現できるもん持ってる彼に惹かれる」

 これ、文字だけで表現するのめっっちゃむずいんだよ。君も描く側だからわかるでしょ?

 うちはね、漫画を読んで、それを文字だけに落とし込んで”練習”しとるわけ。それに慣れると自分の文章にリズムが出やすい。フレーズの取捨選択がやりやすくなるし、漫画のシーンを思い出しながら描くから自然とそこにあった単語が出てくる。

 人によるけどね、媒体を変えると急に伸びたりするよ。音楽から書く人もいるし。うちは小説書くために小説読みまくらなくてもいい派。

らしいっすよ


「じゃ、受講料10万な」


だそうです。




というか、後で気づいたけど、彼女、同じ漫画2冊ずつ買っていました。

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