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会話と心理と無駄と説教と0.01mm以下。

「はいそこカットぉ!」

隣の暇人。原稿仕事が終わったのでやたら絡んでくる。いい加減にして欲しい。

「なんで、いいじゃんこれ」返事してしまう僕も僕。
「逆に聞くが、なぜこの場面でこの描写を入れる?」
「いや、なんでって聞かれても」
「いらんもん足すなぼけ」
「あ、だってさ、この前後会話続くから、”間”だよ、必要でしょ?」
「いらないね」

こいつ絶対友達いない。
てか、ずるいじゃん。お前プロじゃん。大人気ないじゃん。

でも聞き入ってしまう自分もいるもので、僕はドMなのかもしれない。

「会話シーンだけでも面白いもんは作れる。『セトウツミ』読め」とURLを送ってきた。

あ、これなんか聞いたことあるかも。

「まあ、綺麗ではある、そのいらんシーン」
「褒めるのもなんかきもいな」
「褒めてねーよ」
「どゆこと」
「なんかね、誰でも書けそうな、うーん、なんだろ、厚化粧?違うな。あ、中身スカスカだけどやたら豪華に見せるコンビニのでっかい天ぷら。いや、これもちょっと違うな。あ!あれじゃ、Xでやたらリポストされる格言。”人生楽しんだもん勝ち!”みたいなやつ。そんな感じ」

とてつもない悪口。

「薄っぺらで、空虚で、コンドームより薄い。0.01mm以下」

すげえ悪口。

「独りよがりで、自己満で、もうね、オOニー」

すげえ悪口。ここまでボロクソ言われるとむしろ清々しい。

「あおくん」
「はい」
「君は人よりちょっと書ける」
「ありがとうございます」
「でもそのせいで無駄が多い」
「と、言いますと」
「綺麗な言葉とリズム感を少しばかり理解しているから自分に酔っちゃってる」
「くっ」


正直自覚はあった。けどこうも、どストレートに言われると、恥ずい。


「君、エンジニアでしょう」
「ええ」
「ぷろぐらむ?って、全部に意味があるんでしょ」
「そうですね」
「余計なもん書くとエラーが起こったりアプリが重くなるんでしょ」
「はい」「いや、でも小説とは違うでしょ。無駄を入れないとただの説明文じゃないの?」
「うむ。いい質問である」

「答えてあげよう」

こいつなんでこんな偉そうなんだ、と思ったけど気にはなるので黙っておいた。

「君の言う無駄は無駄じゃない。必要な無駄なのだ」

うーん?わかるようなわからないような。

「前後だけでは無駄に見えるけど、全体を通すと重要な要素になっている、それが必要な”無駄”。具体的には伝わらないけど、読み手に刺さる潜在的な要素になっとるわけ。読み手は気づかないけどな」
「うん」
「今からちょっとキツく言うけどね」


…今までのは違うんかい。


「君のは、その場しのぎの”無駄”なの。その場しのぎ。とりあえず入れとけばそれっぽく見えるっしょ、ってのがビンビン伝わってくる」


……あーーーーーーーーーーーーー。


めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。確かにそうかも。


「小手先のテクだけじゃ相手はイかせられん」「AV見すぎの30代童貞の風俗デビューみたいな表現じゃ」


なんでこいつさっきからセックスで例えるんだよ。俺のことなんだと思ってんだよ。わかるけど。わかりやすいけど。……え?いつきって演技してんの?

「あ、うちは演技しとらん。そこは安心せえ、自信持ってええよ」

めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。なんでだろう。てかなんで伝わってんの。こわ。そんな顔に出てるの俺。てかなんでそんな偉そうなの。

「まあ、全部じゃないけど」「こっちの短編のここは良かった」あ、それ結構イケたと思ったやつだ。いや、そういう意味じゃないけど。……なんで自分で自分に弁解してんだろ。


***


「……言いすぎた、ごめん」
「急にしゅんってなるのきもいな。さっきの威勢どうした」
「いや、あおは仕事じゃないしなーって」
「関係ないでしょ」
「んー?なんか違う気がするけど、まあ、あおがいいなら」

「あー、じゃあ、最後に?ヒント的な?やつお伝えしやす」

「あおくん」
「はい」
「君は人よりちょっと書ける」
「ありがとうございます」
「でもそのせいで無駄が多い」
「と、言いますと」
「綺麗な言葉とリズム感を少しばかり理解しているから酔っちゃってる」

いつき

「このシーン”正座して聞いた”ってわざわざ書かなくても正座して聞いてそうって伝わるでしょ。普段は呼び捨てでラフに接してるから。無駄ってそんな感じ、です」

「逆に」

隣の暇人。原稿仕事が終わったのでやたら絡んでくる。いい加減にして欲しい。

いつき

「”隣の暇人”、これはよかった。この後に”やたら絡んでくる”ってあるから他人であることもわかるし、隣にいることもわかる。そこにあえて入れることでリズムが出てる」

なるほど。

それはそうと、毎回小説の話になるとすごい勢いでキツく言って後から小さくなって謝るの、かわいいんだよな。文章大好きなんだな。



本人には絶対言わないけど。この説教?が密かな楽しみだったりする。


歪んでんのか。






お気づきですか、今回ほぼ、会話と心の声の描写です。

あとがき

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