あお

24 | 広島弁くっちゃべる作家と2人暮らし

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  • 『「じゃ」へ。』

    小さな港町。 広島弁くっちゃべる作家と2人暮らし、その記録。

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「じゃ」へ。

まあ、端的にいうと喧嘩したんです。 冷戦です。主に僕が原因の。 彼女は小説家です。ググれば名前も作品もインタビュー記事もわんさかあるわけです。SNSには何万人もフォロワーいるし、その分だけワルグチもあって、ようは「ザ・成功者」で、「何者」であるんですよ。ついでに世間知らずで変なやつで、まさに「天才」。しかも顔、かわいいんすよ。 そんで、そういうのが同じ家にいる気持ち、わかります? 昼間はずっとゴロゴロしてるし、僕の仕事の邪魔するし、夜行性なもんだから夜中にずーーーっと

    • 僕には「いつき」と呼ぶことしかできない。

      今回もそんな気はしていた。 *** 年に3回はあった。 空の錠剤シートが増え、いつも以上に部屋を散らかしものをなくし、些細なことでイライラするようになっていた。 夜中、タイピング音ではなくうめき声が増えた。 下書きに赤ペンで修正を入れたりメモを書き込んで、それを見ながら何かに追われるかのようにキーボードを叩いていた。 時々耐えきれなくなったのか、紙をキッチンにバラ撒き散らした。 翌朝、起きると赤ペンだらけの何百枚ものコピー用紙の上で疲れ果てた彼女が横たわっていた

      • 隠れファンのあなたへ

        『「じゃ」へ。』は一旦おやすみです。 === 『「じゃ」へ。』をいつも読んでくださりありがとうございます。 昨日の「なんの意味もない口づけとハグ。」めちゃくちゃよかったです(自分で言う)よね。 こちら、1話完結式の長編です。 全部繋げると1つの物語になるように作っています。 1つ1つのボリュームは少なめで描きやすいのですが、ズレや矛盾が出やすい形式なので意外と神経使います。 2年で1059本公開していますが、ここ最近ようやく上手くなってきたなと実感しております。

        • なんの意味もない口づけとハグ。

          我が家の風呂場にはボトルが5本ある。 1本はボディーソープ。これは共用。 そしてそれぞれのシャンプーとリンスが2本ずつ。 彼女は金木犀の、僕はオレンジのような柑橘系。 電気を消して、薄暗くする。 互いにハダカを見られることに抵抗はないけれど、二人で入る時はなんとなく電気を消す。キッチンから漏れてくる灯りが狭い脱衣所を経由して微かに届く。 築50年の昔ながらの風呂場。タイル張り。青と白と黒の大小形状様々なタイルが不規則に散らばる。一人でもやや狭い洗い場で二人で入ると自

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          会話と心理と無駄と説教と0.01mm以下。

          「はいそこカットぉ!」 隣の暇人。原稿が終わったのでやたら絡んでくる。いい加減にして欲しい。 「なんで、いいじゃんこれ」返事してしまう僕も僕。 「逆に聞くが、なぜこの場面でこの描写を入れる?」 「いや、なんでって聞かれても」 「いらんもん足すなぼけ」 「あ、だってさ、この前後会話続くから、”間”だよ、必要でしょ?」 「いらないね」 こいつ絶対友達いない。 てか、ずるいじゃん。お前プロじゃん。大人気ないじゃん。 でも聞き入ってしまう自分もいるもので、僕はドMなのかもしれ

          会話と心理と無駄と説教と0.01mm以下。

          依存先。

          中学生だから、12,3年くらい前か。 「担任のセンセに依存してたんだ」 「依存?」 「彼女はね、なんでも話聞いてくれてたからそれに甘えてたんだよね」 「うん」 「アドバイスも、否定もしないし、ほどよくテキトーに聞いてくれてね」 「いい先生じゃないの」 「そう思うよ、でも気付いたら一線を越えてたんだよね。具体的に、こう、ってじゃなくて、なんかもう、これはダメだろって領域まで踏み込んじゃった気がしたんだ」 でもセンセはね、聞いてくれ続けてくれた。同じように気付いて

          依存先。

          ......傘は1本、アイスは4本760円

          こういう日はだいたい雨だった。 *** お向かいさんは真っ暗で、駅の方がかすかに明るい。 外廊下、塩ビの波板、雨を弾く。 下手くそな打楽器みたいだ。 とととととととと……………………..ダダダダダダダ…………………….っとっとっと…ダダダーーーざーーーーーーーとととーーーーーーダダダダダダ・・・・・・とととととととととととと……………………..ダダダダダダダダダダダダ…………………….っとっとっと…ダダダーーーーーーーーーーーダダダダダダ・・・・・・とととととととと

          ......傘は1本、アイスは4本760円

          ゴロゴロ彼女の小説講座

          「小説読まないよね、小説家なのに」 僕の部屋でゴロゴロ漫画を読んでいる彼女。紙でもタブレットでも。ジャンルは縦横無尽、なんでも読む。エログロサイコサスペンスからキュンキュン学園ものまでなんでも読む。最近のブームは「音楽だけが生きがいの男の子とアクティブな女の子の音楽×恋愛漫画」らしい。 「…それは野球選手に『野球選手なのに野球しないよね』って言ってるようなもんじゃね」 「……いや、違うでしょ。野球選手は野球するでしょ。それを言うなら、」 「練習ってことかい?」 「まあ、そ

          ゴロゴロ彼女の小説講座

          不謹慎だろうか。僕はその瞬間が一番愛おしい。

          「美談にするつもりは一切ないよ。でも”これ”があったから小説を書けたのも事実でさ。なんかいやんなっちゃうよ。まったくさ」 *** 青はいつもの1.5倍くらい。 銀色のシートはいつもと同じ。 オレンジのカプセル錠剤はいつもの倍はあった。 ……いつもより調子が悪いのかもしれないな、そう思った。 僕がゴミ出し担当なのには3つ理由があって、まず第一に彼女が分別を全くしないこと。そして自身のゴミ箱を漁られる(僕に分別される)ことに全く抵抗がなかったこと、そしてこれは後付けであ

          不謹慎だろうか。僕はその瞬間が一番愛おしい。

          構成も語彙も統一感もめちゃくちゃだけど

          「そんなん読んでるとつまらないもんになるよ」 『初心者向け小説の書き方』 「でも俺書き方わからん」 「書けてるじゃん」そう言って印刷された僕の短編を持ち出した。 「これさ、悲しいほど下手くそだけど」 「言葉選べよ」 「構成も語彙も統一感もめちゃくちゃだけど」 「ねえ」 「時々意味不明だけど」 「おい」 「うちは好きだよ」 特にこのシーンとか。 あおはさ、構成も語彙もキャラ作りも悲しいほど下手だけど。ちゃんと自分の型を持ってるんだよ。これマジだよ。あお、直接的な表現

          構成も語彙も統一感もめちゃくちゃだけど

          あお、指輪せえ、お出かけじゃ

          GW編1 *** 「あお、指輪せえ、お出かけじゃ」 時計は6。カーテンの隙間から朝陽が漏れる。最近、日の出が早くなった。急に春が終わって急に夏が来るわけじゃないんだなあ、なんて当たり前のことをぼんやり考えていたら叩き起こされた。 「まだ6時じゃん、てかどこいくの」 「東京」 「は?」 「東京に旅館とった。いくで」 「は?」 「ゴールデンウィークでな、夫婦割ってのがあったから」 「夫婦じゃないだろ。そもそもカップルでもないだろ」 「一緒に住んでんだから夫婦みたいなもんだ

          あお、指輪せえ、お出かけじゃ

          主人公がアパートで音楽ガンガン鳴らしてクレームが来る

          下品に笑っている彼女を見るのが好きだった。 その日もスマホを見ながらゲラゲラ笑っていた。 僕が何見てんのと聞くと、「うちの小説のレビュー」とXのコメント欄を嬉しそうに見せてきた。 「小説家ってそういうの見るの?」 「知らん。うち作家の友達おらん」 「傷つかないの?そういう、誹謗中傷?」 「うちにとっては娯楽じゃ」 コメント欄は実にバラエティに富んでいて、あふれんばかりの賞賛とあふれんばかりの酷評で溢れていた。見方を変えれば彼女はそれだけ「売れて」いる。ちょっとだけ胸がち

          主人公がアパートで音楽ガンガン鳴らしてクレームが来る

          屋上とフィクション

          今日も彼女は勉強中。 熱心に恋愛漫画を読み込んでおられます。 我が家の押入れは恋愛漫画、学園もの、青春ものでいっぱいです。もう図書館レベルです。彼女は自分が作家であるのをいいことにこれらは全て経費として計上しております。まあ悪いことではないのでしょうけれど。でも家計をひっ迫させるほど買い込んだり、毎週毎週馬鹿でかいダンボールが届くのはちょっと勘弁して欲しいです。え?いやいや、僕は覗き見なんてしていません。彼女が「教材」を持って僕に質問してくるのです。そしてここは僕の仕事部屋

          屋上とフィクション

          じゃんけん

          「見える。見えるでぇ。われはぐーを出す」 「じゃあ、乗ってやろうじゃないの。お望み通りぐーを出してやろう。どうだ、未来は変わったか」 「いーや、ぐーじゃ」 「ほお?」 いつもの謎のポーズで予言をする20代女と心理戦を持ちかける20代男。 心はまだまだ小学生。 儀式が終わり始まる決闘。 「じゃんけん・・・ぽん!」 チッと舌打ちして財布から小銭を出した。 「男なら女に奢るものじゃろ」「というか漢気じゃんけん知らんの?」とかぶつぶつ言いながら自販機のボタンを押す。散歩の休憩

          じゃんけん

          さつき雨

          5月。雨。風は強く、夜は2時。 「ねえ、あおい。起きてる??あおいー」 「...ん...ん?」 隣で寝ていた彼女が言った。 「私が死ぬって言ったらどうする?」 「自分でってこと?」 「そう」 「死にたいの?」 「もしも、だよ」 「……第一発見者にはなりたくないかな」 一瞬の沈黙の後、「ふふっ」と彼女は笑った。暗くて顔は見えないし。 「君は俺にどうして欲しいの?」 「……第一発見者にはしないであげる。だからさ・・・」 「...いいよ」 「……なんで?」 「君とな

          さつき雨

          金目鯛の唐揚げ

          「それどうしたの」 「大家さんにもらった」 赤くて目がでかい魚。多分、金目鯛。 「それ結構お値段するんじゃないの」 「そうなの?このでかい金魚が?」 「それ金目鯛だよ」 「ほお・・・」 多分、わかってないな。 港町に住んでるくせに。 「あお、これどうやって食うの?」 「煮付けが定番って聞くけど、君そういうのあんまり好きじゃないでしょ」 「うちは鮎の塩焼き派かな」 「……焼いて、塩かけたのが好きなんだね」 「うん、原始的でしょう」 スマホで『金目鯛 調理』とググると煮

          金目鯛の唐揚げ