青いひつじ

はじめまして、青いひつじです。 短編小説を中心に更新していきます。 (カクヨムでも、同…

青いひつじ

はじめまして、青いひつじです。 短編小説を中心に更新していきます。 (カクヨムでも、同名で活動しています) マイペースにコツコツと更新していきます。 フォロー、スキ嬉しいです。ありがとうございます。

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【短編小説】隣の家族

ブロック塀の穴から見えた隣の芝は、青ではなく枯れていた。 「みっちゃん!いってきまーす!」 扉の外から元気な声が聞こえてきた。 みっちゃんというのは、多分、彼女の母親の名前である。 しかし、本当の母親ではない。 彼女は、里子として隣の家族に迎えられており、血縁関係は一切ないのだそうだ。 なぜ、ただの隣人である私がこんなことを知っているのかというと、自分の母親が夕飯中によく噂しているからである。 「まぁ、あんな大声出して。 らんちゃん、いってらっしゃい」 「いってきま

    • 【短編小説】走っている

      みな、走っている。 なぜ走っているのかは、分からない。 青黒い空の帰り道。お店がぎっしりと詰まった賑やかな商店街に吸い込まれるように入っていく。 いつものコロッケとポテトサラダをぶら下げ歩いていたその時、地響きのような揺れと何かが迫ってくる音を感じた。   地震かと思い、歩みを止め振り返ると、人々が私の方に向かって走ってきていた。 その大群は奥にも続いているようで、何人いたかは分からないが、100人以上はいたと思う。 凄い勢いで走ってくるので、私も逃げるように走るしかな

      • 【短編小説】言葉にできない

        "本が好き"とは、どういうことでしょう。 本が"好き"とは、 本を読むのが好きなのか。 物語を書くのが好きなのか。 はたまた、本を読んでいる自分が好きなのか。 はたまた、物語を書いている自分が好きなのか。 もっと言えば、モノトーンの洋服に身を包み、黒縁の眼鏡をかけ、モダンなカフェで大して何かを書いているわけでもないのに果物マークのパソコンと、革製のカバーがついたノートを開き、コーヒーと共に休息風を装い本を読む自分が好きなのかもしれません。 "好き"とはどういうことか、そ

        • 【短編小説】ヒューマンエラー

          もうすぐで、この会社に勤めて20年になる。 長く同じ場所にいれば、あらゆるタイプのミスを見ることになる。 もちろん、私もたくさんのミスをおかしてきた。 機械とは違い、人間は全てのことを完璧にこなすことなどできない。 現代では、そんな人為的ミスのことを"ヒューマンエラー"というらしい。 そしてこの部署では現在、そのヒューマンエラーとやらが起きている。 パソコンのセキュリティ管理不足により、我々の機密情報が流出してしまったという内容だった。中には、各取引先に送る見積もりデータも

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        【短編小説】隣の家族

          【短編小説】影の話

          今日は、私の影の話をしようと思う。 私の影は話すことができる。 私の頭がおかしくなって、幻想を見ているわけではない。実際に会話することができる。 影が現れたのは、30歳の誕生日の夜だった。 はっきりと覚えている。 世界から逃げるように、ひとりベッドに沈んでいた夜だった。 「ねぇ」  少年の声がして、飛び起きると、かすかに見えた私の影がひとりでに動き出したのだ。 影は、その正体について教えてくれなかった。私に当てて欲しいと言った。 私は影と呼ぶことにした。正真正銘、影だ

          【短編小説】影の話

          【短編小説】エビ

          見上げると、ほとんど白に見えるほど晴れ渡った空の下。 私たちは、釣りをしていた。 「いや〜今日も暑いなぁ〜」 「今日は何が釣れますかね」 今日はイワナとヤマメを狙おうと、我々は川の上流までやってきた。 ゴツゴツした岩を通って、水が勢いよく下っていく。 私は、魚のいそうな場所を目掛け、ルアーを投げた。力強く竿先を跳ね上げてルアーを動かしていると早速、一匹の魚が引っかかった。 「お〜、早いですね。こりゃイワナですかね」 「あぁ、しかし小さいな。返すか」 川に戻そうとし

          【短編小説】エビ

          【短編小説】タンスの上のネックレス

          「美味しそうだね。いただきます」 「どうぞ召し上がれ」 今日も気持ちのいい朝である。 きれいな丸をした目玉焼きの横には、手作りのふわふわフォカッチャが重ねられ、小皿にオリーブオイルと塩が添えられている。 まずは、弾けんばかりの真っ赤なプチトマトと、水々しいレタスのサラダからいただこう。 「行ってきます」 「気をつけて。あ、襟足に糸が」 「ありがとう」 「髪伸びましたね。今度切らないと」 そう言うと襟足に手を伸ばし、その首元がきらりと光る。 結婚記念日に私がプレゼ

          【短編小説】タンスの上のネックレス

          【短編小説】情報収集能力

          自分の長所•短所というのは、就職面接において、ほとんどと言ってもいいほど聞かれる質問である。 どのような人間なのか、どのような能力があるのか、その能力を使いどのように貢献できるのか。 それを、美しく簡潔に、相手がその風景を想像できるように分かりやすく、説明しないといけない。 だから僕は、たった7行に収まってしまった自分の人生に落ち込んでいる暇などないのだ。 僕と接した人は、みんな僕のことを"優しそうな人"という。 きっと、何を聞かれても基本的に"なんでもいいよ。好きなもの

          【短編小説】情報収集能力

          【短編小説】探しているもの

          とても大きな雲が青い空に浮かぶ、昼下がりの公園。 私は今日も、とある物を探している。 「んー、それにしても見つからないな」 私は、大学で生物学を専攻している。 子供の頃はよく、昆虫を探しに森へ出かけた。帽子がどこかに飛んでいったことにも気づかず夢中だった。 初めて見る魚を捕まえようと川へダイブし、溺れかけたこともある。 昔から大体のことは無頓着の私であるが、生物のこととなると、なんとしても自分の目で確かめて、謎を解き明かさないと気が済まない性分なのである。 最近、講義中

          【短編小説】探しているもの

          【短編小説】異常である

          私は宇宙人である。 正確に言うと、私自身は宇宙人である自覚はないが、この星の生物たちは、外部の星で生きる生物を宇宙人と呼んでいるらしい。 私たちがこの星を発見したのは、今から5年前。 研究員の1人が、宇宙空間を観測中に青い星を見つけた。 なぜこんなにも青いのか調べてみると、それは海の青さだということが分かり、私たちはその星を海星と呼んでいた。 さらに調べてみると、海星には、私たちとよく似た外見の二足歩行の生物が存在するという。 新しい星を見つけた場合、そこで暮らす生物の攻

          【短編小説】異常である

          【短編小説】I was a

          僕には最近、気になっている女性がいる。 あれは1週間前。生ぬるい風の中、河川敷を散歩している時だった。 「ありがとうございます」 そう言った彼女の瞳には、桜が映っていて、まるで春を詰め込んだようだった。 白いワンピースに、きれいな黒い髪を下ろしていた。 もしこの世に天使がいたとしたら、こんな感じなのかもしれないと思うほど眩しくて、僕は思わず目を逸らしてしまった。 落とし物を彼女の手に届けた瞬間、強い風で髪で隠れていた鎖骨が見えて、僕はハッとした。 白い肌の上には見逃して

          【短編小説】I was a

          【短編小説】パイナップルの彼女

          僕の彼女は、人を野菜や果物に例える癖がある。 彼女と初めて会ったのは、サークルの飲み会だった。 彼女は僕を見るなり「岡田くんって、玉ねぎみたいな人だね」と言ってきた。 僕は確か、言われたことの意味が分からず、2秒ほど固まった後に「それは、褒められてるのかな」と愛想笑いをした。 仲良くなりはじめてから、あの発言はなんだったのか聞いてみたが、彼女は覚えてないと言った。ついでに、野菜や果物が好きなのか聞いてみたところ、「普通」とのことだった。 そして、落ち込む時は「どうせ私は

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          【短編小説】プレゼント

          目が覚めると、一面に緑が広がり、その隙間から空を見つける方が難しいほどであった。 「ここはどこ」 女が起き上がると、横には額から血を流した恋人が、車の窓から半分身を乗り出すようにして、気を失っていた。 「ちょっと、目を覚まして。起きて。ねぇ!」 「んん、、、」 女の涙交じりの声に、男は目を半分開いた。 「よかった、、、意識はあるのね」 女が持っていたハンカチで男の額の血を拭き取ろうとした、その時だった。 「あらあら、これは大変だ。どうしたことでしょう」 声の

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          【短編小説】暮色の時

          「おぉっ!ゆう!めっちゃ久しぶりじゃね?」 「うわっ、けいか。突然大きな声出さないでよ」 けいは、同じマンションに住む幼馴染で、友人である。 最近のけいは部活で忙しく、もうすぐ受験ということもあり、ここ数ヶ月、まともに会話していなかった。 「帰んの?俺も」 「あれ部活は?」 「もう引退。夏の試合が終わって終了〜。今はひたすら受験勉強よ」 「そっか、ウィンターカップは出ないって言ってたもんね。全国おつかれ。見に行きたかったな」 「来れば良かったじゃん」 「塾の模試とかぶって

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          【短編小説】第6地区

          私の住んでいるこの第6地区は、まるでここだけが世界の終わりかのようだった。 第1地区から第9地区まであるこの町は、幸福の町と呼ばれている。 ただ第6地区だけは、様子が違った。 昔は、この地区にも桜が咲き、小川が流れていたというが、今はその面影はなく、ガラクタのような工場が黒い煙を垂れ流し、空は一面、重たそうな灰色に覆われている。 昔、この地区を襲ったのは正体不明の疫病と、災害だった。 そしてもうひとつ、この地区をおかしくしたのは「記憶屋」という、謎の商店だった。 長い

          【短編小説】第6地区

          【短編小説】イッツオーケー

          自分のことなら、何度だって抱きしめてきた。 色のついた世界から、白黒の世界へ繋がる扉を閉めれば、簡単に涙が溢れた。 突然の雨のように泣き出す私を、手で優しくさすった。 24時間は、意外とたいしたことない事で削られていく。 朝が動き出し、今日の占いが流れている。 ぼんやりと朝礼を聞いた後、私は外回りに出る。 何も決まらない会議では、次に会議する日程を決める。 使い古したボロ雑巾のまま行われる長い終礼。 週に1度、全社員へ送られる役員からの動画。 会長からのお言葉は、ありがた

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