セラムン二次創作小説『保健室のセンセイ』




せつなが小学校の養護教諭として働き出してから程なくしてちびうさとほたるは保健室によく通うようになった。必ず一日に一度、顔を出している。

今日も二人は仲良く保健室登校。それを見たせつなはため息をつきながら一喝した。


「二人とも、教室に戻りなさい!」


腰に両手を置き、仁王立ちでちびうさとほたるに戻るようにと諭す。


「やだ!」

「もうちょっといる」

「保健室は怪我人や病気の子達が来るところです。健康なあなた達が来る場所じゃありません!」


駄々をこねる二人に、呆れながらせつなは保健室の在り方を今一度説明する。

ちびうさとほたるはどこからどう見ても健康的。怪我も病気もしておらず、誰から見てもピンピンしている。他の人が見るとここにいることが不思議だろう。

更に、ほたるは治癒能力が使える。ちびうさもその施しを受けることもよくある。

そんな二人がここに入り浸るのは他の生徒に示しがつかないとせつなは考え、心を鬼にして追い出そうとしていた。


「プルートがここにいるのが嬉しくって」

「月野さん、学校では“先生”と呼びなさいって言ってるでしょう」

「そんな事言ったって、プルートはプルートなんだもん」


生まれた時から900年、ちびうさはせつなの事をプルートと言って慕ってきた。そんなプルートがまた近くにいる。その事がただただ嬉しくて。つい会いに来たくなるし、プルートと呼んでしまう。


「全く、屁理屈なんだから」

「せつなママ、楽しそう」

「こおら、ほたるまで!」


ちびうさとせつなのやり取りを見ていたほたるは、微笑ましく思った。怒ってはいるが、ほたるの目には嬉しそうに映っていた。


「せつなママも、“ほたる”じゃないんじゃない?」

「まあ、土萠さんったら!」


昔から変わらないちびうさとのやり取りで、すっかり気が抜けてしまったせつなは、うっかりほたるを名前で呼んでしまった。


「まぁいいじゃない。今は誰もいないんだし、ね?」


保健室の状況を冷静に分析したほたるが楽観的に言った。


「そうそう、気楽に行こうよ!“せつなセンセイ”」

「そうだよ、“せつなセンセイ”」

「……何かからかわれてる気分だわ」


急に先生と言い出した二人。呼ばれ慣れない呼び名に、せつなは逆に気恥ずかしさを感じた。


「うふふ。あたしね、嬉しいんだ」


せつなに万遍の笑みを向けて、ちびうさは話し始める。


「また、私の近くにいてくれて」

「スモールレディ……」


ちびうさにとって、産まれた時からプルートとして同じ空間にいる事が当たり前だった。

時空の扉に近づくと、必ずプルートがいて笑顔を向けてくれた。受け入れてくれて、話を聞いてくれた。辛い時や寂しい時は何も聞かずに側にいさせてくれた。

それがちびうさにとっては当たり前の日々だった。


しかし、過去へ来た事でその当たり前は無くなった。プルートはどこにもいない。時空の扉を守るプルートには易々と会えなくなった。知っている人が誰もいない所で頑張らなくてはならなかった。

例え自分がうさぎ達を知っていても、うさぎ達は自分を知らない。完全アウェイなところで寂しい気持ちを抱えていた。


「やっぱりプルートがいる事が当たり前になって甘えていたみたい。ママの様に思ってたんだ。本当のママはいるのに、変だよね」

「私も、スモールレディを我が子の様に愛していましたよ」

「せつなママ、ちびうさちゃん……」


本当の親子では無いけれど、ちびうさとせつなの間には本当の親子以上の絆があると二人の会話と互いを見る慈しむ顔を見てほたるは感じた。


「あ、今はほたるちゃんのママだって分かってるよ。取ったりしないから安心して」

「まぁ、スモールレディったら」

「仕方ないから、寂しくなったら貸してあげるよ?」


ちびうさに対して余裕の笑みを見せるほたる。

二人のやり取りに、満更でもない顔でせつなは見ていた。

ちびうさとほたるに保健室に来るなとは言っているが、それはせつなの本心では無い。来てくれるのは嬉しい。

ただ、養護教諭と言えど先生をしている身。特別扱いはご法度。心を鬼にしていた。

ほたるとちびうさもその事は充分分かっている。その為、せつなとの関係は他の生徒には秘密にしていた。


「こうして毎日プルートに会えるのも、ほたるちゃんのお陰だね」

「あたしはなんにも」

「ほたるちゃんがこの学校通うから、プルートもここに務めることに決めたんでしょ?」

「そうね。はるかもみちると学校に通い直しているし、ほたるを見守りたい気持ちがあったわ」

「やっぱりね」


せつなはほたるの親として責任がある。誰よりも責任感があるせつなな、ほたるのために近くで見守ろうと養護教諭となった。


「ダイアナも連れて来てあげたいなぁ」

「ダイアナは猫でしょ?猫はダメよ!」


ちびうさは、ダイアナと一緒にプルートに会っていた事を思い出していた。

この時代にもプルートがいて、いつでも会える環境がある。またダイアナと一緒にプルートに会える。二人で会いたい。そう思った。


「ダイアナ、今は人間にもなれるもん!」

「でも、部外者は入れないのよ」


我儘はダメだとちびうさにせつなは諭す。

せつなとて、ちびうさやほたる同様ダイアナと気軽に会いたい。

しかし、未来とは違い、こちらにはこちらのルールがある。


「じゃあダイアナもここの生徒になればいいのか?」

「それ、いいね!楽しそう♪」

「はぁ、二人とも……」


ダイアナまでこの学校に通い、保健室通いになったら益々カオス化する。ちびうさの飛んでもない提案にせつなは頭を抱えた。


「ところでせつなセンセイは何歳になったの?」

「ちびうさちゃん、それはせつなセンセイとしての新たなタブーよ?」

「こら、土萠さん、月野さん!」

「きゃー、せつなセンセイ怖い」

「わー、せつなセンセイ、ごめんなさーい」


せつなの逆鱗に触れた二人は、すぐに仲良くその場を立ち去った。

その後も、何だかんだで毎日の様に一度はせつなの顔を見るために保健室へと通うほたるとちびうさであった。





おわり




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