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あと、半年。(4)

 11月。


 差し込む朝日の光で目を覚ました。
 「おはよ…」
 彼女の前髪を優しく分ける。
 「…んん……」
 彼女は目を閉じたまま眉を顰める。彼女は顔色が悪く、辛そうな顔をしていた。

 「………痛い…?」
 「……」
 枕に顔を伏せて彼女は頷いた。俺は彼女の頭をそっと撫でる。
 「…じゃあ、今日はお家にいよっか…?」
 今日は隣の県の温泉に行く予定だった。宿もとってあるし、いろいろ行く場所の目星もつけてある。
 「ん……」
 嫌だと言うように、彼女は首を横に振る。
 「でも…動くのしんどいでしょ?」
 俺がそう言うと、彼女はぐすぐすと泣き出してしまった。
 「今日は一緒にゆっくりしてようよ、ね…?」
 「……」
 彼女は小さく頷いた。
 俺はもう一度彼女の隣に寝転び、そっと背中をさすってやった。
 「やだ…やっぱり行く…」
 枕に顔を埋めたまま、揺れる声で彼女が言う。
 「だめだって……安静にしてなさいって言われたでしょ?」
 「……だって…」
 「またすぐ予定立て直そうよ」
 「やだぁ……」
 彼女はぐすぐすと泣き出してしまった。俺は彼女の頭を撫でながら言う。
 「ほら、泣かない…」
 「うー……」
 彼女は俺の胸に顔を埋めて泣きじゃくった。しばらくすると、彼女はそのまま眠ってしまった。
 「……」
 俺はしばらく彼女の頭を撫でていたが、いつの間にか俺も眠りに落ちていた。

 「んん…ん…」
 俺は彼女の声に目を覚ました。彼女は苦しそうに呻いている。
 「大丈夫……!?」
 「……いたい……」
 俺は慌ててスマホを見る。時刻は午後3時を少し過ぎていた。
 「朝より痛い?」
 「うん……いっ…たい……」
 彼女の苦しむ顔で、痛みが明らかに増しているであろうことが見て取れた。
 「病院…いこっか……?」
 「ん……うん…」
 彼女は小さく頷いた。
 「ちょっと準備するから、待って」

 彼女は少し痛みがある日でも、自ら病院に行くとは言わなかった。少しでも一緒にいようとしてくれた。そんな彼女が自ら行くと言ったのは、よほどの事だ。俺は彼女を観念させるほどに苦しめるその痛みに、昇華させようのない苛立ちを覚えた。

 俺は車の鍵やら、財布やら、必要なものをまとめて抱え、とりあえず車に放り込んだ。
 「よし、じゃあ行こう」
 俺は彼女をほとんど抱えるようにして車に乗せた。
 代われるもんなら、今すぐにでも代わってあげたい。これからどうすればいい?次々と浮かぶ心配や焦り、不安を抑えながら、俺は車を走らせた。

 その日は、夜には2人で帰ることができた。だが、すぐに彼女の入院が決まった。
 いつかは来ると覚悟していたことでも、いざその時になるとやはり辛かった。ただ、残された時間を1秒も無駄にはしたくない。ここで途方に暮れている暇はどこにもなかった。


 あと、2ヶ月。

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