▼「キッチュ」に関するノート

▼「キッチュ」とは……

悪趣味
俗悪さ、趣味の悪さ、粗悪品(質の悪さ、駄作)、嫌悪感を覚える。
(私見:うわ~、あちゃ~、といった感想と共にドン引きする、という感じ。)
*道徳/倫理/善に反するような、絶対的な悪(ブロッホ)。

通俗的/大衆的
低俗、俗っぽい=俗受けする=大衆的=大衆迎合、安っぽい=陳腐、くだらない、下品、滑稽、分かりやすい、透明。
【A】中産階級的
中産階級的な趣味、到達できない上位階級への憧れと同一化、経済的な限界を補填し満足を得る傾向性。
【B】ブルジョワジー的
すでに失われた貴族階級や封建制への憧れと同一化。

偽物
まがいもの=本物ではないもの、模倣の模倣(模倣の体系)、粗製乱造、パロディ、オリジナリティに欠けるもの。
類型化、単純化したもの。薄っぺらい模造、平凡/平板な類型表現(ステレオタイプ)の反復。類型に残存した妄執(田中純)。

懐かしさ/ノスタルジー
ノスタルジーの喚起、過去に目を向ける、時間的な隔たり、古臭い、時代錯誤。
すでに過去になったものを、現在でも通用するとする、みせかけ=仮象、現実の美化(アドルノ)。決定的に失われた世界への郷愁(田中純)。

⑤その他
*想像力や「他者」理解の欠如した表現(クンデラ)。
*本来の文脈や使用目的から外されている、意外でありえない組合せ。
*低俗なロマン主義(猪又俊樹)。退化したロマン主義(田中純)。

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▼「キッチュ」関連の古典的文献
(*とりあえず順番は適当、筆者のメモ)

ベンヤミン「夢のキッチュ(1925)」『ベンヤミン・コレクション5』筑摩書房,2010年.

アドルノ「流行歌分析(1929)」『アドルノ――音楽・メディア論集』平凡社,2002年.

アドルノ「キッチュ(1932)」(未邦訳?)

グリーンバーグ「アバンギャルドとキッチュ(1939)」『グリーンバーグ批評選集』勁草書房,2005年.

ボードリヤール『消費社会の神話と構造(1970)』紀伊国屋書店,2015年(新装版).

クンデラ『小説の精神(1986)』法政大学出版局(叢書・ウニベルシタス294),1990年.

アブラアム・A・モル『キッチュの心理学』法政大学出版局(叢書・ウニベルシタス185),2020年(新装版).

石子順造『キッチュ論(石子順造著作集1)』喇嘛舎(北冬書房),1986年.

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▼参考文献

猪又俊樹「ミラン・クンデラの小説世界における「キッチュ」とその考察」『一橋研究』33巻1号,2008年,33-45頁.

高山陽子「社会主義キッチュに関する一考察」『亜細亜大学国際関係紀要』26巻1号,2017年,115-134頁.

田中純『政治の美学――権力と表象』東京大学出版会,2008年.

内藤李香「初期アドルノにおける音楽とキッチュをめぐる考察:イデオロギーとしての「キッチュ理念」の解明」『早稲田大学大学院文学研究科紀要』第1分冊,57巻,2011年,33-44頁.

中村善一「H・ブロッホのキッチュ論」『敬愛大学研究論集』52巻,1997年,369-385頁.

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