グローバル特許出願から見た人工知能に関する現状-人工知能学会全国大会2019・インダストリアルセッション
昨年6月に新潟県で開催された人工知能学会全国大会2019に、株式会社イーパテントはゴールドスポンサーとして参加しました。
その際、インダストリアルセッションにおいて表題の「グローバル特許出願から見た人工知能に関する現状」をプレゼンさせていただきました。
1年前のデータにはなりますが、参考になる点もあるかと思いますのでnoteにアップさせていただきます。
まず最初に、WIPO(世界知的所有権機構)が2019年1月に発表した人工知能に関するレポート「WIPO Technology Trends 2019 – Artificial Intelligence」について紹介。
次に、SankeiBizの記事から「WIPO Technology Trends 2019 – Artificial Intelligence」に掲載されている人工知能関連出願の上位10社について紹介しています。
e-Patentブログ「分析条件により異なる結果|WIPO・人工知能に関する技術トレンドレポート」でも書きましたが、分析母集団が異なると、得られる分析結果(ここでは企業ランキング)が大きく変わってしまう点について説明しました。
WIPOのAIレポートを踏まえて、今回発表で用いた分析母集団の検索式について説明しています。私の方で設定したのは、AIの中でも機械学習・深層学習にフォーカスをあてて、キーワードと特許分類を中心とした非常にシンプルな検索式になっています。
注:有料レポートであれば購入しなければ分析母集団の検索式を開示しないというのは分かりますが、無料で特許出願動向等のトレンドを解説するのであれば分析母集団の検索式を開示しないのは非常によろしくないと思います。上記で述べた通り、「自分の分析では・・・」といくら言ったところで母集団によって分析結果はいかようにでも操作できてしまいますので。
ちなみにWIPOの分析母集団の検索式は非常に長いので、ここには掲載していませんが、詳細を知りたい方はこちら(p22以降)からご覧ください。
ここからが本題の人工知能に関する特許出願トレンドになりますが、まずは当社で作成した検索式ベースではなくWIPOレポートの特許・学術論文のトレンドについて示しています。
次に、イーパテントで設定した分析母集団検索式による件数推移となります。
こちらはパテントファミリーベースではなく(パテントファミリー単位と出願単位の違いについて分からない方もいるかと思いましたが、出願単位で表示すれば特に問題はないと判断して、カウント方法の詳細な説明は省きました。ただ特許情報に詳しい方もいらっしゃったかもしれないので、パテントファミリーではない点をグラフ内にコメントしてあります)。
WIPOのAIレポートと同様に2010年代に入って急激に増加していることが分かります。このマクロトレンドについては分析母集団検索式の違いはあまり影響がなかったと言えます。
次に発行国別のトレンドですが、機械学習・深層学習関連出願ではアメリカが圧倒的でした。
ただしこれは1年前の結果。おそらく現在では中国の出願件数が急激な勢いでアメリカに迫っていると思います。
続いて気になる出願人ランキング。
上位2社はマイクロソフトとIBMで、順序は違いますが、WIPOレポートと同様の結果になりました。
しかし、3位以降の顔触れはかなり違うことが分かります。3位にはGoogle(WIPOレポートではアルファベット)、4位にはインテルがランクインしています。
ちなみに、日本企業のトップはNEC(日本電気)でした。
次に、当社の分析でよく利用している出願ポジショニングマップ(ここでは出願人を対象にしているの出願人ポジショニングマップ)を示します。
第1象限:長期でも短期でも出願が伸びている企業
第2象限:長期でも減少しているが、最近出願が伸びている企業
第3象限:長期でも短期でも出願が減っている企業
第4象限:長期でも増加しているが、最近出願が減っている企業
これを見ると、KLA-TENCORや日本のファナック、INFOのWIPROが急激に機械学習・深層学習関連の特許出願を強化していることが伺えます。一方、長期的に増加させているのはFacebookやインドのタタグループでした。
それでは機械学習・深層学習はどのような業界・業種に適用されているのか?同じく出願ポジショニングマップで確認します。
もっとも多いのが通信、次いで医療・ヘルスケアやマーケティング関係でした。
まだ特許出願は少ないものの、農業やロジスティクスなどは短期的に件数が伸びていることが分かります。また建設関係(スマートコンストラクションなど)も累積件数こそ少ないものの長期的に出願が増加していると言えそうです。
昨今、知財業界ではAI Samuraiはじめ、リーガルテックに注目が集まっていますが、この際は法律を設定するのを失念していました・・・・
ちなみに、この業界・業種への展開には、以下の対応表を用いています。
さて最後に、上位企業がどのような業界・業種へ機械学習・深層学習関連特許出願をしているのかマトリックスで整理しました。
各業界・業種ごとに特許出願を集中させている企業がいることが分かります。
医療・ヘルスケア:シーメンス、フィリップス
ロボット:ソニー、ファナック
オフィス:マイクロソフト
教育:IBM
自動車・交通:フォード
工場:シーメンス、ファナック、GE
セキュリティ:クアルコム
といった感じでしょうか。
以上となります。1年ちょっと前の古いデータで恐縮ですが、少しでもお役に立ったのであれば幸いです。
何かご質問等あれば、上記までお問い合わせください。
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