ふしん道楽 vol.28 ウッドデッキ
うちのマンションの屋上は、室外機置き場以外はオープンになっていて結構眺めも良い。
都内にしては珍しくバーベキューをすることも許されている。
エレベーターで上がってドアを開けると、通路の両サイドに、低めのフェンスで区切られ植栽に囲まれた八畳ほどの空間が並ぶ。
各入り口にはゲートがあり部屋番号が打ってある。
それぞれにウッドデッキが敷かれソファセットやバーベキュー窯、カフェテーブルと大きなパラソルがあったりする。
中には子どもに全振りしてミニ遊園地みたいになっているスペースもある。
どこのスペースも何だか楽しそうでつい入りたくなる。
しかし勝手に立ち入ることは許されていない。
なぜならばそれらのスペースはすべて最上階に住む人たちのものだからだ。
最上階の部屋にはすべて屋上のスペースが付いてくるのだが、ほかの階に住む者の立ち入りが許されているのは全戸でたった一つの「共有スペース」なる場所のみなのだった。
しかもそのスペースはエレベーターを降りた真ん前で、一応デッキは敷いてあるし周りも植栽で囲まれてはいるけど、広さはほかの個別スペースと同じ八畳弱。
全戸に対してここ一つだけ??と、初めて来たときは驚いた。
何というか身分の違い感がすごい。
よくタワマンの階層カーストの話を聞くが、低層マンションでもこういったカーストはあるんだ、とお空を眺めながらつぶやいた。
それでも最初のうちはワインとおつまみを持って上がって夕暮れを楽しんだり、お天気の良い日にヨガマットを持って日なたぼっこをしに行ったりした。
運良くほかの住人とバッティングせずいつも貸し切り状態だったが、共有スペースにはイスやテーブルなどがなく、当然ながら個人の持ち物を置いておくのも禁止。
毎回、敷物やら折り畳みイスを持って行くのが面倒でそのうちめっきり行かなくなってしまった。
しかし先日しばらくぶりに、ふと屋上に出てみると、入居当時にはあんなに盛り上がっていた屋上がすっかり寂れているではないか。
何があったの屋上さん。
しばらく使われていなさそうなソファは雨よけのシートでしっかりと梱包されて、その上にはどこからか飛んできた葉っぱが溜まっている。
放置された子ども用の遊具は日焼けし色褪せ雨にぬれて倒れていた。
寂しい。
寂しすぎてサイコホラー映画の導入部に使えそう。
皆飽きちゃったんだな、と思ったがウッドデッキのある家に住む人からそうなる理由を聞いた。
皆つくる前や最初はいろいろやろうと楽しみにしているけど、できてみるとそこまで活用しないという。
屋根が付いているタイプなら別だけど、ただのデッキというのは日差しがきついからまず真夏には出ない。
パラソルも出したりしまったりが面倒だし、台風の時期などは収納しないと危険だ。
日差しを遮る樹木があればまだ快適だが、庭木が茂っている場所は蚊がいるし甘いものを飲んでいると蜂も来る。
秋も深まってくれば虫もいなくなって過ごしやすく絶好のデッキ日和となるが、テーブルやイスはずっと出しているとホコリがすごく溜まるので、毎回拭いてからでないと使えない。
ソファなどは雨が降ればクッション部分が濡れるので、毎回収納する。
オープンカフェなどでも急な雨が降るとスタッフが大急ぎでソファにシートを被せたりしているが、あれも人手があるから可能なのであって自分の家では面倒すぎて結局しまいっぱなしになる。
などなど。
まったくもって薦めてこない。
薦めてこないどころかダメな理由しか出てこない。
なるほど、確かに屋上のテラスには日を遮るものが一切ない。
自分のスペースといえど勝手にパーゴラなどを建築するのは禁止だし、タープを引っ掛ける場所もない。
日陰を生み出す装置としては折り畳みのパラソル一択である。
念のためウッドデッキがある家に住んでいそうなほかの人にも聞いてみると、そんなことはない、快適に過ごしているという。
どういうことなのか?
「日差しは言うほど気にならないし雨の日などは涼しくて気持ち良い。さすがに真夏の夜などは虫除けスプレーや蚊取り線香も使うけど」。
そう、雨の日にも使えるウッドデッキとは庇が奥行き2メートルくらいあって、ほぼインナーデッキみたいになっているタイプのことだ。
マンションなどでも、ベランダの奥行きを深めにとってテラスのようになっているところはアウトドア家具を置いてくつろげる。
とにかく雨が降り込まない程度の奥行きの屋根があれば、ウッドデッキは大変に快適なアウトドアリビングとして使えるのだ!
って別に私が発見したわけじゃなくて、とっくにそれを売りにした戸建てや
マンションがもう何年も前から出回っているので何を今更言っているのだ、と思われるかもしれないが、発見したことを主張しているのではなくて、屋根がいかに重要なのかを噛み締めているのである。
すでに屋根なしのウッドデッキをつくってしまった人はどうすれば良いのだろう。
屋根なしのアウトドアスペースがいかに使い勝手の悪いものかを、私は自分の家でよく知っている。
マンションの屋上の共有スペースの話だけではない。
事務所にしているマンションにはちょっとした広さのテラスがあって、カフェテーブルのセットぐらいは置くことができるのだが、屋根がないためほとんど出ることはなかった。
屋根がないと本当に暑いし「なぜこんなところに座っていないといけないのか」という気持ちになってくるものだ。
屋根のないテラスによって、私は太陽の威力と日陰の偉大さを思い知ることになった。
そのテラスには前の住人が取り付けた手動で繰り出すタイプのオーニングが付いていたのだが、出すのも面倒ならしまうのも面倒だった。
専用の棒を引っ掛けてハンドルみたいなところを回すと、キコキコ音がするうえに、メンテナンスしてないから引っ掛かる。
80センチくらい出せたところで止まってしまった。
中途半端すぎて雨よけにもなりゃしない。
そのままにしていたら台風で破れてしまい結局、再度取り付けることはなかった。
それ以来、屋根がないのでほとんど出たことはないのだが、もしもできるなら私はちょうどテラスと同じくらいの大きさに広がった大きなモミジを真ん中に植えて、夏場は屋根の代わりにしてその下で涼み、秋は紅葉を楽しみたいと思っている。
そんな大きな木を運び込めるわけもないので夢のまた夢ではあるが、屋根がないデッキを所有している者はそうした夢でもみるほか道はないのである。
初出:「I'm home.」No.128(2024年1月16日発行)
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ロンパースルーム DX
安野モヨコ&庵野秀明夫婦のディープな日常を綴ったエッセイ漫画「監督不行届」の文章版である『還暦不行届』の、現在連載中のマンガ「後ハッピーマ…
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