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ふしん道楽 vol.27 秘密の小部屋

知り合いの家のリノベーションが完成したのでお邪魔したときのことだ。
全体的に非常に瀟洒なつくりで、建具などにはところどころアンティークも取り入れていて非常に美しい。

廊下に一つ小さな造り付けの棚があった。
廊下というかホールの一角で、すぐ横には階段があり、反対側は大きく間口をとってありリビングに続いている。
棚は奥行きがほんの15センチもなくて浅めなので、本や写真をディスプレイしたり、紅茶の缶などを並べたりするのかなと思っていた。
すぐ横にはカフェテーブルのセットもあって、お茶を飲みながら読書するコーナーとしてちょうど良い感じ。

その日は完成したばかりなのもあって、取り急ぎ置いてみた、といった感じで古ぼけた小さな缶やドライフラワーの束などが少しばかり飾ってある。
建具がアンティーク調で少し凝ったモールディングも付いているので、それでも十分に雰囲気が出ていた。

「可愛い棚ですね」と言うと家主がものすごくニヤニヤしながら「これ棚だけじゃないんです」と言い出した。
一瞬なんのことか?と思ったがアレだ。アレしかない。
「まさか、あの憧れの⁉︎」そう口にするのと同時に棚がパカっと開いて奥に素敵な小部屋が現れた。
何とそれは隠し扉&隠し部屋であった。

部屋自体はこぢんまりとしていたが、それがまた隠し部屋らしくて良い。
隠し部屋が14畳もあると外から見てもそこに空間があることが分かってしまうので、それはもう単に「扉がどこにあるか分からない部屋」となる。

隠し部屋は、あるかどうか分からないくらいじゃなきゃいけない。
扉も自然だし、その場所にあることに無理矢理感がない。
しかもそこは家主の趣味の部屋とのことで、所狭しと道具や材料が収納された小さな箪笥や棚がきっちり配されていた。
文字通りの秘密基地である。

とにかくその素敵な隠し部屋に私は大興奮してしまったので、家に帰ってからしきりに隠し部屋を検索していろいろ見まくった。
自分の家にもどうにかして隠し扉や隠し部屋をつくれないものだろうか……。

問題はどれを隠し部屋にするのか、ということだ。
ウオークイン・クローゼットは隠し部屋にするのにちょうど良いかもしれない。
しかし何かグッと来ない。なぜだ。

そもそもウオークイン・クローゼットというのは大きな部屋に付随していて、立場的な意味では「準隠し部屋」みたいなものなのだ。
クローゼットかと思って開けたら、「結構、中広い!」みたいな感じで存在しているので、今から扉だけつくり替えたとてそこまで意外性はない。

しかも開けたとて中はクローゼットなのだ。
クローゼットの扉が一見分かりにくいからといって、開けてみても大して面白くもない。
あと、そこを何かの部屋にしてしまうと自動的にクローゼットが消滅するので、普通に収納に不自由することになる。
それはそれでかなり困る。

さらにいえばそのクローゼットは寝室の中にあるので、お客様が来たときにわざわざ寝室に招き入れることもシチュエーションとして無理がある。
無理なものというのは、すぐ敵に分かってしまい隠し部屋にならない。
ていうか敵とは……。
自分が何に立ち向かおうとしているのか分からないけれど、誰もが普通に通る場所に自然なかたちで扉と分からないような入口というのが理想。

もちろん映画などでよくある、壁に造り付けた大きな書棚の中から一冊の分厚い本を引き抜くと本棚がくるりと回って入り口が出現するようなものも憧れる。
しかし、あれにはまず造り付けの重厚な本棚が必要なのだ。
しかも本を引き抜くと扉が開くってどんな仕組みなの?
本の下にボタンがあって普段は本の重さで押さえてあるの?

実際につくるとなれば具体的にどんな構造なのか考えなきゃいけないし、重厚な本棚自体に予算も膨大にかかりそう。
あと、そこまで大掛かりな仕組みで隠してあるのに、中の部屋が単なる漫画やゲームが置いてある遊び部屋だったらしょぼすぎる。

隠し部屋の中も、それ相応に大量かつ最新鋭の武器庫とか盗品の美術品コレクションギャラリーとか、いわくありげなものでなきゃやる意味がない。
そんな中身を持ち合わせていないので、そこまで大掛かりかつ重厚な隠し部屋は必要ないということになる。

奈良に旅行した際に忍者寺と呼ばれる建物を見学した。
そこは玄関から始まってほとんどすべての場所に細工がしてあるんじゃないかと思うくらい隠し部屋、隠し扉、隠し通路の宝庫であった。

廊下の床板が外れると下に通路があったり、階段の下に寺男たちが控えている隠し部屋のようなものがあったり、そこから階段を歩く敵の足元を刺せるように階段の横面が障子になっていたりして大層面白かった。
建物の中に小さな橋のような廊下があったりして意匠も凝っていたが、それらも要素として相まって隠し部屋の味が一段と濃厚に感じた。

何が言いたいかというと、ただ漫然と秘密の扉の奥に空間があるだけではワクワク感が足りないということなのだ。

それでもどうにかして今の自宅に隠し扉をつくるとすればウオークイン・クローゼットでなく個室を一つ隠すしかないのだが、その扉は位置的に見てどう考えても扉しかあり得ないので難しい。
よくある普通の細い廊下に扉が並んでいるような間取りなので、廊下に棚があるのはおかしな感じだし、それが扉くらいの大きさで奥行きが壁の厚さくらいしかなければ明らかに怪しい。

いろいろ考えた結果、今すぐに隠し扉及び隠し部屋をつくるのは断念したけれど、いつの日か改築する機会があったら大好きな本に囲まれた小さな図書室をつくってその扉を本棚にしてもらおう、と決意した。


初出:「I'm home.」No.127(2023年11月16日発行)

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安野モヨコ&庵野秀明夫婦のディープな日常を綴ったエッセイ漫画「監督不行届」の文章版である『還暦不行届』の、現在連載中のマンガ「後ハッピーマ…

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