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ふしん道楽 vol.26 リネン

ベッドまわりはリネンでそろえているという人は多いのではないだろうか。
サラサラしていて肌に張り付かないので夏は涼しく眠れるし、冬も暖かい。
などといかにも昔からのリネン愛用者であるようなことを書いてみたけど、私のリネン歴は短い。
おそらく7、8年といったところだ。

しかも麻とリネンの違いが今ひとつよく分かっておらず、麻のベッドリネンなどと書こうとしてしまう。
調べるとリネンは亜麻の繊維を原料とした織物の総称で、麻というのは植物からつくられる繊維の総称。
リネンやジュート、ヘンプといったものはすべて「麻」に含まれる。

そのような違いもまったく分からないくらいにリネンというものを知らないで暮らしていた。
そもそもベッドリネンというのもシーツやカバーの総称だと思っていたくらいだ。
友人の紹介でGRAND FOND BLANC に出合うまでは。

それまでの私は純然たる綿、絹派だった。
特に綿と麻の愛用者の間に闘争などは起こっていないので派閥に分けることもないけど、好んで使うものは気軽な場合は綿でちょっと張り込むときは絹を選んでいたので、選択肢に麻はあまりなかったのである。

理由は二つあって、一つは肌触り。
麻はガサガサしているものだと思っていて、その硬さが好みではなかった。
先に述べたように麻のなかにも種類があることなどを知らなかったためだ。

もう一つはお洗濯の面倒さ。
麻は乾燥機にかけると縮んでしまうので全自動で乾燥までもっていくことができない。
洗濯が終わった時点で取り出す必要がある。
さらにいうとシワがつきやすいためにアイロンがけは必須。
面倒くさがりの自分には扱う手数が多いというだけで、敬遠の理由になった。

着物や襦袢でも麻は夏の定番なのでいくつか持っているが、着物の場合は大体のことの手数が多いのでそこまで気にならない。
そんなことを気にしていたら着物などに手を出せないからだ。
麻の着物も襦袢も夏場は肌に張り付かないところが涼しくて良いのだけど、やっぱり私は少しだけ気の強い友人に対するような少し引いた気持ちをもっていた。
好きなんだけど一緒にいると時々ガサガサする。

もともと、絹のしっとりと体に載っかる感じや質感が好きなのもあって、麻に余計、苦手意識をもっていたようにも思う。
なので着用回数も少なく、気が付くのが遅くなったのである。
洗うとしっとりしてくることに。

そして、麻のアイテムを扱うライフスタイルブランド、GRAND FOND BLANC との出合いが決定的だった。
初めてショールームを訪ねた日の感動は忘れられない。
お店の方に勧められるがまま麻のシーツを敷いたベッドの上にそっと横たわったときの柔らかな感触。
張りがあるのにしっとりと体に寄り添ってくる。
こんな布がこの世にあったなんて!

それがフレンチリネンだということをそのとき初めて知った。
ひとくちに麻といってもさまざまな種類があり原産地によって性質にも違いがある。
そしてもちろん等級もある。
何のことはない。
私が麻にもっていたガサガサしているというイメージは、撚りの強いものにたまたま最初に出合ったから生まれたもので、このお店によってそんな概念は一瞬で吹き飛んだ。

とはいえ高額なのでまずは枕カバーを一組。
入門編である。
その日の晩にまたしても感動し、あまりの気持ち良さに即日追加購入してしまう。
一般的に髪の毛のためには絹の枕カバーを使うことが推奨されているが、夜半に寝返りを打ってふと麻の枕カバーに顔を埋めたときの気持ち良さは何ものにも代え難い。
私はここで麻派に文字通り寝返った(絹派と麻派間にももちろん闘争は起きていない)。

何カ月かおきに一枚、もう二枚と買い足していき枕カバーを毎日替えられるようにした。
あれだけ面倒がっていた麻の洗濯を何の苦労にも思わず、せっせとアイロンをかけるようになった。
これは他の人から見たらアイロンがけをするのは普通で、当たり前のことを何を騒いでんだと思われるだろうが、私にとってはものすごい生活の変化だった。

アイロンがけなどは年に数えるほどしかしない。
夫も自分も夏はTシャツやポロシャツ、秋冬はニットが多いので繊細なものや縮みやすいものはクリーニングに出すが、それ以外は洗濯してそのまま着てしまう。
パンツもよそ行きはクリーニングに出して普段はスウェットかデニム。
どこにもアイロンの出る幕はない、というかアイロンをかけなくて良いように暮らしていたのだ。

しかし麻の寝具に出合ったことで、何の苦もなく毎日アイロンをかける人となった。
夏場は、パジャマや普段着も麻が多いので毎日、山のようにアイロンをかける。
そして何度も洗濯をしてアイロンをかけ、使い込んでいくとどんどん柔らかくしっとりと肌になじむようになっていく。

コロナで熱を出して寝込んでいたときも麻の清潔感のある肌触りと吸水性に随分助けられた。
汗をかいてもベタベタせず、洗濯しても乾くのが早い。
寝込んでいるときにはそれらのすべてがありがたかった。

そんなわけで、今やすっかり麻のとりことなった私だが、パジャマだけはなかなかこれといったものに出合えていない。
品質に問題があるわけではなくて、単純にサイズの問題。
とにかく体を拘束されているのが苦手なので、本当なら裸で寝たいのだが、それだと寝冷えしてしまうため、大きなパジャマを選ぶようにしている。

ハレクラニ沖縄のパジャマがほぼ理想で、身幅が大変に大きいので着ていても常に体はフリーの感覚。
何度もリピ買いしていたがホテルだけあって、生地が何度も洗濯に耐えられるようなしっかりした綿。
厚手なので冬でも大丈夫だ。

これはこれで大好きだけど、真夏にはこれで麻のものがあったら最高だなと思っている。


初出:「I'm home.」No.126(2023年9月15日発行)

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