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ふしん道楽 vol.29 家電あれこれ

冬になると毎年、頭を悩ませるのが加湿器だ。
さまざまな大きさとデザインや機能があって絞り込むのに一苦労。
それにしたって毎年悩むとはどういうことなのか。
今までうちの加湿器はリビングや寝室など、場所によりその時その時の新製品を買っていくために全部別機種であった。
たとえばリビングはインテリア性の高いバルミューダの壺のような加湿器。
寝室は機能性重視でダイキンのハイブリッド式という具合。

しかし、こういった加湿器には共通の問題点がある。
こまめに掃除しても赤カビが発生したら最後、ということだ。
発生してしまった場合、取り外せる部品においてはクエン酸や洗剤などでつけ置き洗い。
本体部分だと洗うことができないので、アルコール除菌シートや除菌スプレーで丁寧にカビを取り除くしかない。
終わりなき作業にくたびれ果てたので、この冬すべての加湿器を象印の加熱式ポット型加湿器に買い替えた。
加熱式の一番の利点は、高温のためにカビが発生しないこと。
代わりにカルキの除去が必要になってくるが、これはクエン酸を入れれば良いだけなので掃除の作業としてはとても楽。
部屋の湿度も格段に上がったし大満足だ。
布団乾燥機も象印。
象印最高!

しかしながらだ。
機能としては最高なのだから単なるわがままだと百も承知であえていうと、デザインをもう少しブラッシュアップしてくれたら、さらに最強になると思うのだがどうだろう。
いうまでもないけれど、生活家電はインテリアにおいて非常に重要なパーツだ。
だからやはり見た目にもこだわりたい。
昭和生まれの人間にとって、家電は決しておしゃれなものではなかった。
昔はその機能だけが重要視されていたせいもあるし、庶民のインテリアへの関心が今ほど高くなかったこともある。
冷蔵庫なんて四半世紀はずっとお豆腐そっくりなものしかなかった。
色がついているのはサザエさんちの緑のやつくらいで、そもそもおしゃれとかそういう俎上に載ってなかったのだ。

 そう考えると今は何と洗練された家電が増えたことだろう。
加湿器だけではない。
空気清浄機やアイロン、洗濯機や掃除機。
電子レンジや炊飯ジャーなどのキッチン家電も探せば必ずスタイリッシュなものがある。
色もシャンパンベージュやモーヴピンクからマットブラック、グレイッシュブラウンなどライト系からダーク系まで幅広くあるし、ボタンや表示ライトのカラーも落ち着いた色調のものが増えた。

 だがしかしである。
今のところ、デザインがスタイリッシュなものはその機能において微妙だったり、おしゃれすぎて操作がよく分からないといった問題があり、逆に機能も操作性も完璧な商品は、もう使い勝手良いから良いよ!
見た目には文句言わないよ!
という気持ちで使用する場合も……ないことはない。
 考えるに多くの人が手にする定番商品は、見た目はどちらかというと保守的な方が良いいのだ。
すべてのご家庭になじむ色と形の最大公約数であるべきなのだから。
そしてその対局にいるデザイン性重視の人々というのは基本的に若い世代が多くを占める。
デジタルネイティブは操作性が最新であっても特に使い勝手に不便を感じないのでそれで良し、となるのかもしれない。
デザイン性重視の中高年である私などは、操作がよく分からなかったりして苦労するしかないのだった。

そんななかで最近「操作が極めて分かりやすい家電」というのをいくつか購入し大満足した。
うちはキッチンまわりが壁も含めてダークグレーなので家電やキッチンツールは黒が多いのだが、焼き鳥を焼くだけのミニ家電「網焼き大将」や、日本酒の熱燗をつくれるだけの家電「かんまかせ」といった一つのことに特化した製品でも黒で統一できたことに、「日本のこういう癖強家電でもオールブラックが可能になったか……」と感慨無量であった。

こういった趣味性の強い家電は、なぜか昔から赤とステンレスのコンビだったり、クリーム色のボディーにギンナンみたいな黄色いボタンが付いていたりと、いかにもつくった会社(小さな町の工場的な)の社長や開発者のおじさんの好みが反映されたようなやつが多かった。
それはそれで味があって個人的には好きだったりもするんだけど、家に置くとなると微妙である。
そういうものが台所に蓄積されて実家的カオスが形成される。
回避するには色をそろえるのが一番簡単な方法だ。
キッチン家電も白と黒、そしてグレーと赤というようにカラバリが増えたことで、統一した見た目を保てるようになったことはこの10余年における大きな進歩だと思う。
大変にありがたい。

一方で私がずっと気にかけ続けている家電がある。
それはホットカーラーだ。
こういったものはヘアドライヤーや美顔器などと一緒に「理美容家電」というくくりになるのだが、ホットカーラーだけ私が子どものころとほぼ変わらない天然記念物として存在してる。
カーラー部分の色も細いのはピンク、中くらいのはグリーン、太めのはグレー、もしくは紫、という謎配色。
その色たちの関係性を教えてくれまいか。
せめてピンクのグラデーションとか、白からグレー、黒へのグラデーションで統一してくれまいか。
しかもそのグレーや紫の色がまた何とも彩度が低く、「ベルジュバンスサロン」とか看板に書いてあるような商店街の美容院の窓際で20年くらい日に当たっていたかのような色味。
新品なのに使い込んだ風格すら出てる。

ドライヤーやヘアアイロンなどはどんどん進化していて、未来感のあるメタリックのグラデーション塗装だったり、サンドベージュやセージグリーンみたいなアースカラーのも出てたりと、どんどんアップデートされていくなか、ホットカーラーだけが昭和のままで取り残されている。
今の若い世代の子たちはヘアアイロンしか使わないので、ホットカーラーの開発はしていないのかもしれない。
開発費に見合うだけの売り上げが見込める市場じゃないのだろう。
でも、ドレッサーの上に置くこともあるのでそこはもう少し何とかして欲しい。
色ぐらい変えるの大したことじゃないだろ、と思うのは素人考えだろうか。

というわけで中高年だからこそ、デザイン性重視のホットカーラーのアップデートを待ち望んでいる。
ヘアアイロンに耐え得る髪の強度がもうないからである。


初出:「I'm home.」No.129(2024年3月15日発行)

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安野モヨコ&庵野秀明夫婦のディープな日常を綴ったエッセイ漫画「監督不行届」の文章版である『還暦不行届』の、現在連載中のマンガ「後ハッピーマ…

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