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首には傷が2つある?(頚椎腫瘍 11)

 元の病室に戻っても相変わらず食べられないし、点滴ははずれないし、従っていつまでも寝たきりだった。

 N先生は心配して、来るたびに「なんでも好きなもの買って食べて」と言ってくれたが、売店で買えるものは限られている。コンビニにあるようなお弁当や菓子パンは食べる気がしなかった。
 病院の流動食はまずいとさんざん文句を言ったら、看護師さんがお粥を三分粥から七分粥に替え、おかずを普通食に替えるように手配してくれた。
 それでやっと食べられるようになった。と言っても、半分食べるのがやっとだったが。

 少しは食べられるようになってきたので、食事のときには体を起こしてみようということになり、起きるために首にカラーをはめられた。

 前にも書いたがフィラデルフィアカラーといって、スポンジを圧縮したような軽くて硬い素材でできている。厚みは1センチほど。
 首の前と後ろに半分ずつ分かれていて、前後から首を挟んで太めのマジックテープで留めるようになっている。

 手術前にはめてみたときには、うっとおしいけれど、もちろん傷はないからどこも痛くはなかった。
 ところが、術後は傷があるのでカラーが当たると痛かった。
 首の真ん中とカラーの間には隙間ができるので、実際には傷口にじかに当たってはいないのだが、私は首の左下にも傷があると思い込んでいた。
 ちょうどカラーの下のへりが当たるところに傷があるので、カラーをつけて体を起こすとものすごく痛いのだと思った。

 ベッドの頭の方を直角になるまで起こしていって、ベッドにもたれたまま体を起こすと、首がベッドに押しつけられて痛かった。
 ものを口に入れてかむとなおさら痛い。とてもカラーをつけたまま食べることはできなかった。

 そこで、カラーをつけずに、ベッドの角度を30度ぐらいにしてもらった。
 カラーをつけなければ痛くないので食事ができた。

 何日かして、いつまでもカラーをはめないので起きられないと思っただれかが(看護師さんだか先生だかわからないが)、いい加減でカラーに慣れさせた方が良かろうと、無理やり私の首にカラーをはめた。
 はめるとやはり、首の左下の傷にカラーのへりが食い込むような痛さだった。

 どうしてそんな風に考えたのかわからないが、首の真ん中のは腫瘍を取り出した傷で、左下のは硬膜を切った傷だと思っていた。
 硬膜を切って腫瘍を取り出すと言われていたのに、傷が別々に2カ所あると思っていたのだ。

 整形外科の先生は何人もいて、毎日2人ずつペアになって回診にやって来る。だから、毎日違う先生が来るのだが、どの先生にも、
「カラーのへりが傷口に食い込んで痛い。傷口が開いてしまうかもしれない」
 と訴えていた。
 先生方は私の言うことがよくわからなかったに違いない。どの先生も「大丈夫ですよ」と言った。

 ある日、回診に来た先生に同じことを言ったら、
「ここ? ここには傷なんてないですよ」
 と言われた。
 おそるおそる、その痛い部分を触ってみたら、確かに傷などない。つるつるした無傷の皮膚があるだけだった。
「ええっ!? じゃあ、なんで痛いんだろう?」

 後でN先生に聞いたら、腫瘍を取り出すのに中の筋肉を切り裂いたからだろうと言われた。
 どおりで痛いはずだ。
 それにしても、「中の筋肉を切り裂いた」って、N先生も恐い言い方するなぁ。

 とにかく、痛いところに傷がないことがわかったので、傷口が開いてしまう心配はなくなった。
 痛みも日を追うごとに我慢できる程度になっていった。

 やがて、カラーをつけてベッドに座って食べられるようになり、ベッドから降りて椅子に座って食事ができるようになり、寝るとき以外はカラーをつけたままでいても痛くなくなった。

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