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脳血管撮影(脳腫瘍 2)

 3月2日(水)、脳血管撮影。
 前日にY先生から脳血管撮影について説明を受けた。
 脳腫瘍を取るために、腫瘍の周りの血管がどうなっているのか調べる必要がある。脳血管は人によって違うので、正確に把握しておかなくてはならない。

 肘の内側からカテーテルを入れて造影剤を注入し、レントゲン撮影をする。カテーテルを入れるのでちょっと辛いかもしれない。

 この検査の危険性としては、造影剤の影響、動脈閉塞、カテーテルを入れたところからの大量出血がある。
 人によってはいつまでも出血が止まらないことがあるが、圧迫して血が出ないようにする。
 造影剤でアレルギー反応が出たときは薬で対応する。
 動脈閉塞については、血管が詰まって痛みが出るとか、脳梗塞になるおそれもあるが、アンヌさんのような若い人はあまり心配はない。

 Y先生が言い終わる前に、
「若い人!」
 と、おうむ返しに声に出してしまった。
「そうだよ。70代の人とか、血管が狭くなっている人も多いから」
 要するに比較の問題だが、親子ほど年の違う先生に「若い人」と言われるのは妙な気分だ。

「血管にかさぶたみたいなものができていたら、カテーテルを通すときにはがれて血管に詰まるかもしれない」
 私はコレステロールが高めだけれど、血栓ができるほどではないだろうから、たぶん大丈夫。

「カテーテルはどこまで入れるんですか?」
「顎の上あたりまでかな」
「えー! そんなに長く通すの? 見えないんでしょう?」
「手探りだね。間違って違う方に入っちゃったり、血管を突き破っちゃったりすることもあるよ」
 なに、それ? 
 思わずギョッとしたのがわかったのか、Y先生はすぐに付け加えた。
「これまで何10回もやっているけど、1度も失敗したことないから」
 いやーね、脅かさないでよ。だったら、私のも上手にお願いしますよ。

 造影検査のため朝食はとらないように指示され、術衣に着替えてストレッチャーで検査室に運ばれた。
 この病院では検査や手術の時は術衣を貸してくれるので浴衣は必要ないし、術衣の方が浴衣より着心地がいい。

 心臓の検査でカテーテルを使うのはよく知られているが、何キロもある重りを乗せて血を止めると聞いたことがある。
 自分がそんなことを経験するとは思わなかったので、怖いという気持ちより好奇心の方が強く、どんなふうにするのか多少ワクワクしないでもなかった。

 検査室で寝台に移り、麻酔をして右腕の肘の内側にカテーテルを挿入された。内径3分の5ミリだそうだから、ほぼ2ミリの太さ。
 それをゆっくり首の上まで入れていくのだが、自分でわかるのは入口の感覚だけで、カテーテルの先がどこまで届いているかはまったくわからない。

 撮影の準備が整うと先生がさっとそばを離れる。すると、別の人(たぶんレントゲン技師さん)の声がマイクを通して響く。
「そのままじっとしていてください」
 そんなこと言われなくても動けないんですけど。体を寝台に固定されて、頭も腕も動かせないようになっているんだから。

 数秒後、
「はい、楽にしてください」
 それもできないんですけど。

 別の部屋から先生が出てきてまたカテーテルや頭の向きを調整し、さっとそばを離れる。そして、また「動かないで」の指示。
 これを何度も繰り返した。検査は1時間ほど。

 最初にカテーテルを入れるときに痛みがあっただけで、後は麻酔のお陰で痛くなかったが、撮影の間中、腕をハンマーで叩かれているような衝撃を感じていた。
 初めのうち、先生がカテーテルを入れるのに腕をぐいぐい押しているのかと思っていた。
 ところが、レントゲン撮影が始まって先生がそばを離れても、まだ叩かれているような衝撃があった。
 後で聞いたら、それは脈動だとのこと。

 検査が終わって病室へ戻ったのはお昼少し前だった。もうすぐ昼食になると思ったが、取り置いてあった朝食のお盆を運んでもらった。
 看護師さんが電子レンジで温めて持ってきてくれたのをおかずだけ食べて、すぐに昼食になったのでそちらも食べた。

 午前中の頭痛と吐き気は取れて、朝起きたときに160近くあった血圧も120に下がっていた。
 検査の後は右腕を曲げないように気をつけて、安静にしているようにと言われたが、やたら眠くて、言われなくても安静にしていたかった。
 微熱があったので、アイスノンを当てて寝ていると気持ち良かった。



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