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君と、ロイヤルホストと、

君が住む街に住むこと決めまして ロイホで乾杯ささやかな宴

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私とロイヤルホストの出会いは、羽田空港だった。

小学校高学年くらいの時に、父が沖縄に単身赴任をしていて、私の長期休みに合わせて母と遊びに行っていた。母は石橋を叩いて渡るタイプで、かなり早めに空港に行くので、チェックインや荷物の預け入れを済ませた後は、どこかしらでゆっくりごはんを食べるのがお決まりだった。

羽田空港のロイヤルホストは、大きな窓から滑走路を眺めることができる。それを知った母が、飛行機が見れるよ、と私を連れて行き、私はロイヤルホストと、オニオングラタンスープに出会った。

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私の地元はまあまあ田舎で、ロイヤルホストは存在しない。ギリ、ココスはある。
県庁所在地である隣町には存在するのだけれど、ロイヤルホストはファミレスとしては高めの価格設定なので、いつも駅前のサイゼに行っていた。

大学進学を機に地元を離れた。引っ越した先の街にロイヤルホストは存在せず、就職を機に上京した街にもロイヤルホストは存在しなかった。

私の中のロイヤルホストは小学校高学年で時が止まり、その時間は、ロイヤルホストを、ロイヤルホストのオニオングラタンスープを、より特別なものにしていった。

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私が再びロイヤルホストに足を踏み入れたのは、初ロイホから約17年後、28歳の冬のことだった。

当時、私は多忙すぎる仕事とうまくいかない恋愛にだいぶ疲れていて、ひとりでいるとずっとぼーっとしてしまったり、しんどくなったりしてしまっていたので、よく、すべての事情を知っている男友達の家にいた。

友人が住んでいる街にロイヤルホストがあり、そのロイヤルホストの大きな窓からは街の目抜通りに施されたイルミネーションを眺めることができる。それを知った友人が、きれいらしいよ、と私を連れて行き、私は再びロイヤルホストと出会った。

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友人は、それが初ロイホだったらしい。メニュー表を見て目を輝かせ、控えめに言って20分はメニューに悩んでいた。
オニオングラタンスープがおいしいんだよ、と私。17年前に1回行ったきりなのに。
友人は結局、シーフードドリアとオニオングラタンスープを頼んでいた。熱々すぎる。

私はオムライスとオニオングラタンスープ。17年ぶりのオニオングラタンスープは、それはそれは期待値が上がっていたけれど、ちゃんと期待値通りの味だった。目の前では、友人が熱ッ!と言いながらはふはふドリアを食べていて、大きな窓から見える目抜通りでは、両脇に植えられた大きな木が、小さな光でぴかぴか輝いていた。

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それから、その友人と会う時は決まってロイヤルホストに行った。何度行っても友人は注文を決めるのにかなり悩んでいた。いつも閉店までいるので、店員さんと、これまたいつも閉店までいるおじさんに顔を覚えられていた。

それくらい行った頃、私は、友人が住み、このロイヤルホストがある街に引っ越すことを決めた。

物件の契約を終えた日、私ははじめてロイヤルホストでお酒を注文した。ポテトやらソーセージやらバスケットチキンやら、浮かれたごはんもたくさん頼んだ。友人が、ようこそこの街へ、と言い、私たちは乾杯した。
冒頭の短歌はこの日によんだもの。友人に見せると、へへへ、とはにかんでいた。

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この街に引っ越してきて、変わらず仕事は忙しいけれど、私はひとりでいてもしんどくなったりしないくらいに、心身ともに回復した。たまにひとりでロイホのモーニングを食べに行ったりもする。

先日、苺とピスタチオのブリュレパフェを食べよう、と友人とロイヤルホストに赴いた。案内された席は、はじめてこのロイヤルホストに来た時と同じ席だった。

あの日、窓から見えた葉を落とした木々たちは、今は柔らかなピンク色の花たちを満天と湛えていた。

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