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新幹線とエロス

東北新幹線が盛岡と大宮の間で開業してから、40年を迎えた。
いま、それぞれの駅でイベントが開かれていて、盛り上がりを見せている。
 
この機会に新幹線を見てみたくなり、盛岡駅を訪ねてみた。

乗る予定もなく、ただ新幹線を見るために駅へ行くなんて、初めてのこと。
 150円で入場券を買って、駅の構内を歩いていると、大きなポスターが目に入った。

せっかく盛岡さ来たんだば
はやぶさ・こまちの 連結・切り離し
見でってくなんせ!

なんと力強いキャッチフレーズ。
盛岡駅、センスがいい。

手づくり感が満載のポスターで、
赤い車両の「こまち」と緑色の車両の「はやぶさ」が連結している写真に、大きなハートと「CHU」の文字。

そういえば、これまで新幹線を利用したときに、連結の場面に偶然出くわすことがあったけれど、しっかり見たことはなかった。
よし。今日はこれをじっくり見てみることにしよう。

再会は11番線、別れは14番線


ところで、新幹線の連結・切り離しとは、そもそも何なのか。
この際、そこから知ることにしたい。
ホームに上がって数時間。
見て調べて、いろいろわかった。
 
盛岡駅の新幹線ホームは、11番~14番まで四つの乗り場がある。
この中で、連結と切り離しがあるホームは2か所だけだ。

切り離しは、新函館北斗や新青森へ向かう下り14番ホーム。
連結は、東京へ向かう上り11番ホーム。
そう決まっているのだという。
 
「こまち」と「はやぶさ」は、東京から合体した状態で出発し、一緒に走る。
ところが、東京から535・3㌔離れた盛岡で、別々の道を行く。
ここが切り離しの場面だ。
 
盛岡駅から先は、そのまま北上する東北新幹線と、日本海側に秋田へ向かう秋田新幹線に別れる。
 下りの14番ホームで、まず「こまち」が7両編成で秋田へ出発。
それを見送っ後に、「はやぶさ」が10両編成で青森方面へ向かう。
 
そして、連結は、東京へ戻る上りの11番ホームが舞台になる。
まず、青森方面から「はやぶさ」が盛岡に到着して、秋田から来る「こまち」を待つ。
ここで両者が連結して、東京まで、ふたたび一緒に走っていく。
 
構内のダイヤ表を見ると、連結と切り離しは、だいたい1時間に1回。1日に15回ずつ見るチャンスがある。
 
新幹線の連結と切り離しを見ることができる(しかも毎日)のは、全国でもかなり珍しいこともわかった。
鉄道に詳しい知人に尋ねると、日本ではおそらく、ここ盛岡駅と福島駅だけでしか見られないはずだという。
 
ちなみに福島駅には山形新幹線が乗り入れていて、東北新幹線の「やまびこ」と山形新幹線の「つばさ」の連結・切り離しを見ることができる。

つながる、その瞬間


そして、じっくりと連結を観察した。
 
「待ち合わせ」の11番ホーム。
構内アナウンスの後で、「はやぶさ」が勢いよくホームに入ってきた。
スリムな車体をキラキラと輝かせ、風を切りながら滑り込むように。
ゆっくり停車した後、しばらくして、一番最後の車両の先端部分のハッチが開いた。
「こまち」との連結に備えるためだ。

先端を開けて待つ「はやぶさ」

数分後。
今度は「こまち」がホームに入ってきた。
赤い車両、こまちという名前。
女性的に見える。
ホームに入ってきた時点で、すでに鼻先の先端を開けていて、数十メートル離れたところで、いったん停車した。

見つめ合う空間。
静かな時間は、1分もないように感じられた。

フォーン。
「今からそちらへ行くわよ」とでも言うかのように、優しい音をならした後、こまちはゆっくりと進んだ。

秋田新幹線「こまち」

新幹線を間近で見る機会はそれほど多くない。まして先端部の中を見る機会など、こんなときぐらいしかない。
尖った棒状のものと、それが入る穴。
ゆっくり接近してゆく。

カチャン。

音が響き、結合した。

ロングノーズの赤と緑の車両が、まるで、キスするかのように、先端を重ね合わせた。
デザイン性の高いスマートな新幹線。
そんな2つの車両の、先端部分のむき出しになった機械の結合部分が、なまめかしく、神聖なもののように見えた。

出発が近づいた。
ホームには、小田和正さんの名曲「ダイジョウブ」のメロディーが流れる。
 
ほんの数秒前まであった結合のなまめかしさは、さわやかな曲とともに消え、17両編成は出発した。
 
若い父親に抱きかかえられた小さな男の子が、大きな瞳で手を振っていた。

40年前の一番列車

当時の雰囲気も知りたくなり、岩手県立図書館を訪ねてみた。
開業は、昭和57(1982)年6月23日の水曜日。

地元紙・岩手日報が大きく報じていた。

左は昭和57(1982)年6月の盛岡~大宮の開業のときの紙面。右の2枚は、上野までつながった昭和60(1985)年3月の紙面。

『東北に新幹線時代開く』
『「やまびこ」さっそうと旅立ち』
 
さわやかな大見出しに続いて、熱い見出しが並ぶ。
 
『盛岡駅で出発式 二千人参列』
『一番列車、興奮の渦』
 
大宮へ向かう上り一番列車が盛岡を出発したのは午前7時15分。
大きなのろしが空高く炸裂したあと、ブラスバンドが演奏する「いい日旅立ち」のメロディーに送られて、一番列車は音もなく動き出した――。
テープカットの写真が添えられた紙面。
当時の高揚した空気が伝わってきた。


(トップの写真は期間限定という盛岡駅のカード。入場券を買って連結・切り離しを見ると、8月末までもらえます)


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