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ブランディングと乗馬:PDLB

ある人から「ブランディングとは何か」と聞かれた。

彼の会社は50年くらい続く製造業なんだけど、時代の変化に影響されず、業績は安定しているという。それだけでも今はよしとしなければいけない。

二代目の経営者である彼は今後の事業展開を考えていて、そこで避けて通れないと感じたのが「ブランディング」なのだそうだ。

おおまかなアウトラインを聞いてみると、丁寧なブランディングが成功すれば会社はもっとよくなるのではないかという印象を持った。

彼は平林監督がポロッと書いた俺のギャランティを読んだらしく「うちの会社では年間3000万円も払えないけど」と前置きしてから話し始めた。あれは平林監督が面白がって書いた冗談で、実際はその半分くらいだと訂正しておいた。

簡単に言うと、ブランディングとは「お洒落」によく似ている。

人間で言えば「あの人はお洒落ですよね」というようなイメージを顧客が会社に対して持ってもらえれば成功と言える。我々はエルメスなどに対してブランドの信頼感を持っているけど、それは一朝一夕に出来上がったものじゃない。商品の質を維持し、会社を健全に保ち続けた結果でそうなっている。

お洒落、という言葉は高級な服を着ているとか、趣味の良いインテリアの部屋に住んでいるというように華やかで表面的な外見の話になりがちだけど、そうではない。なぜその外見を選ぶに至ったかという、その人の「人格」や「教養」の方が大事だ。

彼はヨーロッパに留学経験があり乗馬を趣味にしているが、現地のクラブで仲良くなった老婦人から聞いたというエルメスの話をしてくれた。フランスの旧家に生まれたその婦人の家には至るところにエルメスの製品があったそうだ。それを使って育っていたから、子供の頃からプラスチックや合成皮革のものを見かけると「質感が悪い」と感じたという。本物を見る目が育っていたわけだ。

御存知の通り、エルメスの歴史は馬具から始まっている。馬具は耐久性を求められるから丈夫な製品ができる。ただ頑丈なだけでは満足してもらえないから美しいデザインを施す。その約180年の長い試行錯誤と、手作業を基本とする職人の叡智の積み重ねが今のブランド・イメージを作ってきた。

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彼もそこは十分理解できていて、自分の会社がエルメスとはいかないまでも、教養と人格を信頼され、企業として「あの会社はお洒落だね」と言われたいと願っている。では、そのためには何をすればいいのか。婦人がエルメスの製品を代々選んできたように、本物がわかる人から必要とされるブランドになるにはどうすればいいのか。

「ここからは有料になるよ」と冗談を言いながら、少しだけ説明をした。自分が相手をお洒落だと思う瞬間を意識的に感じて分析すること。それを日常の中で心がけるだけでブランドは見えてくる。我々は店や製品を見た瞬間にそのブランドのポジションを感じ取っている。

『ロバート・ツルッパゲとの対話』の中に「スーパーのポップのような蛍光色のペンで "知性" という言葉は書かれない」と書いたのは、そういうこと。

スーパーの安売りなら蛍光ペンで書くのが適している、というように「属性を示す方法の選択」を間違っていないものは、ブランディングにズレがないということ。

簡単な例で言えば、それなりのレストランのメニューには写真がついていない。料理の名前さえ書いてあれば理解できるだろうという「客への信頼」があるからだ。反対にファミレスのメニューには写真が満載だ。理性ではなく感情に訴える説明に重点を置いている。

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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。