見出し画像

家具を作っている男:Anizine

俺は家具を作っているんだ。たいした稼ぎにはならないよ。来年は息子も大学に行くし贅沢はできない。でもね、俺の家具が好きだと言ってくれる人がいる。お前は日本で何をしているんだ。そうか、立派なカメラを持ってるもんな。それで写真を撮りながら旅をしているのか、それもいいなあ。俺はマレーシアから一度も出たことがないけど、いつか外国には行ってみたい。

俺はひとりで家具を作っている。最初から最後までひとりだ。家のガレージにあるちいさい作業場で朝から晩までやっているよ。奥さんに服を買ってあげたいし、子どもにいい教育も受けさせたい。そのすべてを家具が生み出すんだ。俺なんかどうでもいいんだよ。ずっと同じ服を着ているしギャンブルも酒もやらない。タバコくらいだな。

ひとりでやるってことは、自分の仕事に他人が介在しないって意味なんだよ。家具じゃなくて、それを作る自分が商品だ。俺が死ねばそれですべてが終わる。俺の家具は誰にも作れないからそこで全部が消えるんだ。それでいいと思っているよ。価値のある工芸品でもないしさ。毎日使う実用品だ。誰かが毎日使うものを作る。俺のこのささくれた手は、何十年もこの仕事をしてきたという証拠だよ。大事なことを伝えようか。

ここから先は

507字

Anizine

¥500 / 月

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。