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あの時はごめんなさい:Anizine

50代の俺が若い人に伝えておく。年齢を重ねることは悪くないよ、大人と関わるときに萎縮しないでいいよ、という話だ。

俺も過去に若者の経験があったことをカミングアウトするけど、出来事の分析にはビッグデータが必要だ。小学生が「ボクはこんなことを知った」という可愛らしさを大人は赦してくれる。でもそれは中学生なら誰でも通ってきた道だし、中学生がそれを許容する姿を高校生ならもう一段階上から見ることになる。

「経験でものを言う説教する大人」がウザがられるのは、実は若者からではない。歳が上だからというだけで自分が何かを知っていると思い込む姿が、全方位的にダサいのだ。そこは子供と大人との関係ではなく大人同士の世界の差だと思ってもいい。42歳が39歳より経験や体験が多いとは限らないので、ある程度大人になってからはどれだけのビッグデータをもって状況を解析しているかがその人の信頼性を保証する。

俺はデザイナーになりたての頃、幼稚さゆえに幾度となく恥ずかしい失敗をやらかした。ある巨匠カメラマンと仕事をすることになり、丁稚の俺は緊張していた。広告の仕事に年齢は関係ないから相手がいくら年上であってもデザイナーはカメラマンに撮影の指示を出すことになる。萎縮しすぎても仕事にならないからと、今思うと俺の態度がむしろ「生意気」だったのかもしれない。撮影前に挨拶をしてコンテの説明をしていると後半は完全に無視されていることに気づき、全身の毛穴がキュッとなった感覚を今でも鮮明に憶えている。

「お前みたいな若造に、偉そうに命令されるいわれはないよ」と書かれた漫画の吹き出しが、その人の頭の上にプカプカと浮かんでいるのが見えるようだった。

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若者は生まれたての子鹿みたいな立場だからそういう傷をたくさん持っていて、どれだけ時間が経っても新しい血が流れ出すほどリアルな夢を見る。かさぶたのできない傷ばかりが毎日増えていく。それがどうだろう。おっさんと呼ばれる領域に入ってくると、過去の自分と似た若者に出会う。

彼らのやることなすことが全部見える。こいつは嘘をついている、誤魔化そうとしている、媚びを売っている、本当は納得していない、など相手が隠そうとしている「幼稚な感情のバリア」がスケルトンに透けとるけん、と、こちらは完全に気づいてしまうのだ。若い頃の自分を見るようで怒るどころか恥ずかしくてどうしようもなくなり、穴があったらコンクリートを流し込んで平らにしたくなる。

その巨匠カメラマンとは20年以上現場で会うことはなかったのだが、最近再会することになった。恐る恐るそのときのことを話してみた。

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Anizine

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。