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ある酒造会社のブランディング:PDLB

情報の価値を数値化することについて考えてみる。

「情報」には多くの意味が内包されているが、現在使われているのは「戦略的情報」という部分が大きい。つまり役に立つ情報。誰でも欲しいに決まっているのに手に入りにくい情報は価値を持つ。

情報には経路がある。有用な情報が流通する場所にいなければそれを手にすることはできない。この時に重要なのは「速度」で、当然だが誰もが知りうる書籍や、ネット上に出現した情報からはすでに学ぶべきことがないと言える。

私が仕事を始めた1980年代に「スクラップサービス」というものがあった。今では考えられないが、企業の経営者などにあらゆる新聞や雑誌などから業種をセグメントして記事を抜粋するサービスだった。業界誌や業界紙、一般的な新聞・雑誌などから参考になりそうな切り抜きを集めて提供するのだが、ネットが出現してからは消えていった。当然の成り行きだ。

現在、コンサルティングやブランディングを企業が外部に委託する場合、当時のように、単なる情報収集とその解析だけでは業務として成立しない。それくらいのことなら社員でもできるからだ。では内部では決してできないこととは何か。そのひとつが「速度」に関係してくる。

「空気を読む」という言葉は肯定的に使われなくなったが、情報は空気と似ている。窒素や酸素という断片が現在どういう割合で漂っているか、人々がそれを吸っていて快適かどうかなどを知るのが、空気を読むことだ。

そのためには誰よりも先に空気の質を読む必要がある。

企業の経営改善にはいくつかのポイントがあり、それはほとんどの業種に当てはまる。まずはブランドイメージ、社内の組織と社内情報の流通経路、商品開発力、商品力の分析、市場とのマッチング、など。

ある架空の酒造会社を一例として考えてみる。

新潟か秋田かわからないが、そこにある酒造会社のブランド・コンサルティングを依頼されたとする。国内酒造会社で10位くらいのイメージ。創業150年。創業から100年を越えた老舗の沿革を見ると、だいたい1980年代までは経営に変化が見られないことが多い。この頃からブランディングなどが活発になり、フィランソロピーや、そこに含まれるメセナが表に出始めた。

「企業が社会的責任を果たす」という、本業からすると無関係にも見える二次的な関わりを持つことで企業のあり方は大きく変化を始める。この酒造メーカーも自然保護や地方の伝統文化維持などに取り組んだかもしれない。つまり、150年前と同じように日本酒を造っているだけでは企業として成立しなくなったということだ。

しかし、あまりにも計画性のない「流行としてのメセナ」が、企業の利益を圧迫したり、バブル崩壊とともに下火になったのはご存じの通り。2020年代の「エシック」はその代替物と見られているがそうではない。

社員は杜氏などを含めて60人と少ない。この人数で実際の生産に関わる人々を除くと、ブランディングに参加できる人数は限られている。大企業のように対外広報、宣伝などにかけられる人的リソースはほぼないと言っていい。ここにメーカーの組織構成の弱点がある。

これくらいの規模であれば、3人のスペシャリストがいればかなり改善できるはず。しかし旧来の総務、販売、営業などの社員がブランディング作業を兼務するとなると、専門性に乏しいうえ、オーバーワークにもなる。

私は個人的な感覚において、それを数値化している。3人の専任の社員の代わりを、外部のスペシャリストひとりが請け負う、という意味。だから「平均的な社員3人分」が報酬の基準になる。

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150年続いた老舗ならブランドの価値は十分にあると考えていい。そうでなければ潰れている。だからそこには漠然とした「ブランド」があるはずなのだが、輪郭を描けていないから、まずはその輪郭を具体化する。CIも80年代、90年代に盛んに行われた施策だが、会社のロゴが新しくなったくらいでは何も変わらない。CIの役割はブランディングの中の数割でしかないからだ。

社内の情報流通は多くの企業で問題になる部分で、「わかっていても変えられない」という困難さを含む。しかし難しいからこそ、ここをクリアできれば結果は実りのあるものになる。その情報流通経路がうまく行くと、各部署の連携がスムースになり、商品開発や分析力が上がっていく。

そしてここまで来れば、ある程度の基盤は整ったことになる。問題点を洗い出して改善する作業。マイナスの精算が終わったら、やっとプラスに転じる戦略を作り始める。さあ、この酒造メーカーは次に何をすればいいだろうか。

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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。