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ノブレス・オブリージュ:PDLB

人が努力する目的を「成功するため」と仮定したとき、なぜ成功したいのかに立ち戻らなければならない。

それが見えていないと走ることが不可能だからだ。自分の中にある、手がかりの少ない「漠然とした成功例」を頭に思い浮かべても、足は前に出ない。歩き始める意欲のためには目的地が見えていて欲しいし、そこまでの所要時間も知っておきたい。

してはならないことのひとつに「こうしてたゆまずに歩いているんだから、いつかは着くだろう」というのがある。それは行き先を確かめずに電車に乗ることに似て、進んだことにはならない。

「ビル・ゲイツ財団がワクチンを開発している」というニュースを読んだ。驚いたのはその現実的なストラテジーで、効果があるかどうかわからないものを含め、複数を同時に量産する態勢に入っているという。ひとつずつ効果を確かめてから量産するのでは遅い。効果のないものは捨てればいいだけだという考え方に、彼の行動センスがうかがえる。

種類は違うが、長年「ウィルス」と戦ってきた人である。

その方法は誰にでも真似できるとは言えないが、根底には「有意義な最優先課題の抽出」がある。最速で何かを成し遂げるときには「効率」という用語が持つ意味が変わってくる。その選択をセンスと呼ぶが、今回の場合は最短で大量のワクチンを用意することがテーマであるのに対して、損失なく製造しようとする平時の経営センスは邪魔をすることになる。

そこで大きな無駄が生まれることを容認して、どれかひとつ当たっていればいいという決断ができるのがセンスであろう。これはだれにでもできることではない。そのために財力があると言えるのだが、小説家の伊岡瞬さんと話していたとき、「ノブレス・オブリージュですよね」という話になった。

「社会的に恵まれた立場にいる人が果たすべき責任」というフランスの古い言葉は、時代によって形を変えて存在してきたが、今回の危機では複数の意味合いがこの言葉によって説明され得るのではないかと感じる。

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マイケル・ムーアの映画「SICKO」は、アメリカの医療制度の退廃を描いていた。ポイントになるのは、「経済的に恵まれた人しか最良の医療を受けられない」というアメリカの医療保険システムに対する警鐘だが、その中でも一番目立っていたエピソードがある。

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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。