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旅館のブランディング:PDLB

ある温泉地でのこと。Aさんは老舗旅館の主人と知り合い、経営についての悩みを聞きました。話をしているうちに、毎年200日ほどをホテルや旅館の視察にあてているというブランディングディレクターのAさんに、自分の旅館を見て欲しいと言います。本来なら評価は有料なのですが、人のいい主人の真剣なまなざしに負けて二泊することにしました。初めての宿では必ず二泊するのがAさんのやり方で、一泊だとわからないことが多いと言います。

後日、Aさんから数十ページにわたる「改善点」が主人のもとへメールで送られてきました。仕事と同じレベルのものでした。それを読んだ主人はすぐにAさんにブランディングディレクターとしてオファーをします。ふたりだけの数回のミーティングの後、旅館の大広間で全社員を集めた会議が開かれました。

「私がこの旅館のブランディングを依頼されたAです」

よく知らない人が突然目の前にあらわれ、ブランディングという難解な言葉を聞き、社員は戸惑い気味です。Aさんは「十年後のためのブランディングを始めます。経営コンサルティングにやや近いことも言うと思いますが、よろしくお願いいたします」社員たちはぽかんとしています。30代の中堅社員である営業の柴田が手を挙げました。

「ロゴマークを変えたりするってことでしょうか」
「はい。もちろんそれも整理していきますが、ブランディングとはもっと広義なものですので、これから説明します」

ブランディングができていないと経営コンサルティングもできません。Aさんは自分が二泊したことで実際に感じた「問題点」を次々に話し始めました。老舗になればなるほど、私たちも一生懸命やっているのだ、ずっとそれで継続できていたのだという自信を否定することになり、反感を買うことがあるのでAさんは注意深く話します。

「まず、チェックアウトの時間を今の10時から11時半にします」

これにはほぼ全員からため息のような声が漏れました。客室清掃の人たちからは「えー」という声も聞こえてきます。

「旅館に泊まるお客さんは普段、家を8時に出て満員電車に乗り、9時に会社で仕事を始める日々を過ごしています。そういった日常を忘れるために旅館に来るんじゃないですか。それが決められた時間の朝食が終わると追い立てられるようにチェックアウトさせられるのではのんびりできませんよね」

Aさんは、旅館とはくつろげる時間を売ることが仕事であり、それを感じて認知してもらえることが、ロゴマークのデザインなどより大事なブランディングだということを説明します。

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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。