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メンバーの皆さんへ:PDLB

自分が作ったプロダクトを売るのはとてもいい経験になる。私が最初にそれを感じたのはメンズのBEAMSで取り扱ってもらっていたGENEVEtokyoというブランドで、シンプルなメッセージのデザインされたTシャツなどだった。

毎回テーマを決め、三池崇史さん、スイスのNieves Books、アーティストのSCHNABEL EFFECTSなどにインタビューをしてフリーペーパーを作り、毎回それと連動したTシャツやパーカなどをデザインして、BEAMSで10年近く販売していた。

既製品のボディにメッセージをプリントするだけだから、自分がやっていたことをアパレルだとは思っていない。「思考とメッセージを売っていた」と言える。

最初に感じた一番大きな発見は、ある地方都市でのことだった。

ロケバスで街を走っていて、ショッピングモールのようなところに停まって休憩をした。そのモールの入り口に高校生くらいの男の子がいて、デートだろうか、誰かと待ち合わせをしているように見えた。その男の子は、発売されたばかりの、GENEVEtokyoがデザインしたTシャツを着ていた。

それまではテレビCMや駅貼りのポスター、雑誌広告などを作っていたので、自分が作ったモノを他人が身につけているのを見るという体験は初めてだった。それも彼が「デートに着ていくために買った服」なのだと思うと感慨はひとしおだ。この時に、「誰かが愛してくれるモノを作るべき」というプロダクトの感覚を手に入れたように思う。

BEAMSのTシャツは5,000円くらいだから、高校生の彼にとって決して安い買い物ではないだろう。それでも数百種類はあろうかというTシャツの中からその一枚を選んでくれた。「愛するモノの選択」が自分にとって、追うべきクリエイションのすべてだと感じた経験だった。

モノを売るというのは、自分のことを知らない人が認めてくれる価値、それに尽きる。そして、たくさんの選べるモノの中から選ばれるという当然の結果だ。店に一枚しかTシャツが売っていないなら、それは選ばれたことにはならないし、写真を頼まれても、その友人が頼めるカメラマンが一人しかいないのなら、それは選ばれたことにはならない。

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そして今回、『ロバート・ツルッパゲとの対話』という本を出すことになった。デザインでも写真の本でもない。言ってみれば、何かの役に立つ本ではなく、amazonでは「哲学・思想」というカテゴリに並んでいる。自分が考える、哲学と言うのは僭越だが、人が何かをするときの意識のあり方について書いた。ことさら偉そうに大上段に構えたわけではなく、出発点としての哲学がないのに、表現も生活もビジネスもないだろう、という当たり前のことだけを書いた。

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今書店に並んでいるモノを見ると、PDCAだの自己啓発だの、すぐに億万長者になれる、みたいに「現世利益」がテーマの本ばかりだ。皆、何をそんなに欲しがっているんだろう。地位や名誉やもっと露骨に言えば「お金」を欲しがっていることを隠しもしない。

本というプロダクトは、世の中に流通するモノの中でも一番価値が高いと思っている。だからその多くが、功成り名遂げた人の名言を引用しただけの「手柄泥棒」だったり、マニュアル本やハウツー本になってしまっていることに悲しさを感じ、書店に行くと暗澹たる気持ちになる。しかし部外者がそう言っているだけでは話にならないので、自分で書くことにした。

出版は1月末だが、本が皆さんの手に届いた後、「PDLB」の定期購読メンバーに集まってもらって、個人的な話ができたらと思っている。わかりにくい書き方だったと思える部分もあると思うので、そのすべてをメンバーには説明したい。

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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。