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27歳であきらめる:Anizine

昔、音楽をやっていたんですよ、という中年に会って、思うことがあった。

フリーランスの立場で仕事をしていると、若い頃は「安くて便利に頼めるヤツ」という理由でたくさんの仕事が依頼されるが、そこで「自分には他の人よりも優れた能力があるのだ」と過信した人はいつの間にか消えていく。ある程度の年齢になって「あれは便利だったから使われていたんだな」と気づいて初心に返れる人だけが生き残る。

社会に出てしばらく先輩の仕事ぶりを驚きとともに見ていた自分が、同じようなことができると錯覚し始める時期は誰にでもある。でも能力がなく目が悪い若者は、それを「同じ」だと勘違いするのだ。

自分でもそうだったし、周りを見渡してもそうなんだけど、それがだいたい27歳くらいで訪れる。5年くらいのキャリア、一通りの仕事がわかってきた頃に仕事が集中してやってくる。本人にとってはチャンスだと思っているが発注している側はそう思ってはいない。悪い言葉で言えば、「ベテランに頼むほどでもなく、失敗しても傷が浅い案件」だけが依頼されている。

もちろんどんなに小さな仕事でも馬鹿にせず、そのときの自分の能力を最大限に使って丁寧に完成させれば、よりよい次の仕事に繋がる。でもたいしたことのない仕事は合格のスタンプがもらえる基準が甘いことも多いから、自分では合格を積み重ねていると誤解するようになる。目が悪い、とは、自分で出来上がりの善し悪しがわかっていないということだ。

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Anizine

¥500 / 月

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。