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お年玉の続編:Anizine(無料記事)

先日、仕事場の近所のコンビニ店員の話を書いた。ネパールから来ている若い男性で買い物に行くといつも挨拶し、客がいない深夜などにはちょっとした話をする。日本の風習を知ってもらうために店でお年玉袋を買ってその場でお金を詰め、彼に渡した。当たり前のことだけど、誰かに何かを渡すときに「してあげた」と主張する野暮なことだけは絶対に避ける、という江戸前の作法は守りたい。だから「お年玉だよ」とだけ言って渡した後にはさっさと帰った。

しかし待てよ、と思うことがあった。これもさらにデリケートな話なんだけど、数日して会ったときに彼は何も言わなかった。日本人であれば「この前はありがとうございます」というところだ。もちろんそのお礼を求めているわけではないんだけど、ひとつの推理が頭に浮かんだ。彼はあれを「自分がもらったモノ」だと認識できているか、という問題だ。

客からそっけなく手渡されたお年玉の袋が何を意味するかわからない場合、さらに符合するのは、音が似ている「落とし物」と間違えた可能性があるということだった。もしそうなら店長に届けているかもしれないし、お金が入っていることを知ってネコババし、店や俺に対して後ろめたい気持ちになっているのかもしれない。

昨日の夜、あげたお金を理解して受け取ったかどうかを確認するという江戸っ子にはあるまじき質問をしてみた。「あれってどういう意味だったかわかる」と聞いてみると、「最初はわからなかったが店の人に、『年齢が上の人が下の人にあげるお小遣いだよ』と聞きました。どうもありがとうございます」と言った。数日前に何も言わなかったのはただのシャイだろう。

確認してよかった。俺が粋な江戸っ子ではなく、野暮なハマっ子だったことが功を奏した。


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Anizine

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。