ホテル:Anizine(無料記事)
子供の頃、大人になったら泊まりたいと思っていたホテルはニューグランドだった。当時は横浜にあるモノが世界のすべてだと信じていたから。
その良さは「格式のある野暮ったさ」にある。ここが横浜的と言えるわかりにくいところなんだけど、山手も元町も横浜駅周辺も徹底的に野暮ったい。まるでオシャレじゃない。それは俺が大人になっていろいろな場所に行くようになり、比較対象が増えるほどわかってきたことだ。マイナスではなくプラス要因として。
ParisでもベルリンでもNYでも、人々が愛着を持って暮らしている場所に外部の人が期待するオシャレ感はない。それは観光客対応のイメージであって、むしろオシャレがダサさを際立たせる。この写真はParisでよく泊まるホテル。ホーチミンのマジェスティックなどは目の前がサイゴン川なので、佇まいがニューグランドにとてもよく似ている。
言ってみれば「当時としてはスゴかったんだろうけど、もう時代に取り残されている」佇まいが好きなのだ。だから今風のホテルには、いくらオシャレであろうと設備が現代的であろうとまるで価値を感じない。
このParisのホテルに最初に泊まったとき、座ると便器がカクッと傾いた。そういうのがこの街のデフォルトなので何も気にしない。数年後に泊まったとき、またカクッと傾いた。
「お前、あの時に泊まった部屋か」と懐かしさを感じたりして。壊れたモノを直す気もないくらいのサービスでいいのである(イタリアなんかは特に)。バスタブに髪の毛が一本落ちていた、と言って怒るような日本のキリキリしたクレーム作法とは無縁のほのぼのムードがいい。
多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。