靴下記念日
春の一日。その日はぼる塾三人のお仕事に私も付き添いができることになり、みんなの勇姿を見ようと駆けつけました。
私「今着いたんだけど!誰もいない!みんなぎりぎりになりそう?」
田辺さん「あんた集合時間、一時間後だよ」
私は何を勘違いしたのか一時間早く待ち合わせ場所に到着してしまい、前の仕事からの空き時間を駅ビルで潰していた三人と合流させてもらいました。
田辺さん「あんた、その格好暑くない?大丈夫?」
田辺さんの第一声はそれでした。
私「別に大丈夫だよ」
田辺さん「大丈夫じゃないよ!あんた重ね着なんかして!どう考えても今日は重ね着日和じゃないよ!」
私「ちなみに中にヒートテック着てる」
田辺さん「ひえ~!ヒートテック!私なんてレースだよ!」
あんりちゃん「酒寄さんは確かに気温に対して厚着だけど、田辺さんは薄すぎる」
その場はあんりちゃんが「酒寄さんは大人なんだから暑かったら自分で脱ぐ」と言ってくれて収まりました。
まだ集合時間には余裕があったので、はるちゃんはトイレに、田辺さんとあんりちゃんは靴下売り場に行きました。私はアクセサリーショップの店員さん同士が別の店員さんの悪口を言っているのを盗み聞きしていたのですが、途中で見つかってしまいました。
店員さん「何かお探しですか~?」
と聞かれ、
私「今、悪口を言われていた店員さんの、悪口を言われるほどの落ち度を探しています」
と、言うわけにもいかず、「あ~いえ~おほほ~」とにやにや笑いを残して、田辺さんとあんりちゃんのいる靴下売り場に合流しました。
靴下売り場では田辺さんとあんりちゃんが真剣に靴下を見ていました。
私「わ~可愛い靴下いっぱいだね」
田辺さん「最近買った靴下もう無くしちゃってさ。うち本当によく靴下が消えるんだけど」
私「田辺さん家って靴下からしたら恐怖の館だね」
田辺さん「相当怖いよね。仲間がどんどん消えていくんだもん」
私たちは田辺さん家を舞台にした靴下主役のミステリー小説をいつか二人で作ろうと約束しました。田辺さんは私と話しながら何足か選んで手に持っていました。
私「見て、この靴下すごいスケスケだよ」
田辺さん「あら、本当だ。スケスケね」
私「何と合わせるんだろう?パンプスとか?」
田辺さん「パンプスかしらね?サンダルとか?」
田辺さんはそのスケスケの靴下を手に取って、お会計に向かいました。
私(田辺さん、あのスケスケの靴下も買うんだ…)
(いまいち履き方もよくわからないスケスケの靴下を購入するなんて流石田辺さん)と、私が思いながら待っていると、レジを終えた田辺さんが速足で戻ってきました。
田辺さん「ちょっと、お会計とんでもなく高かったんだけど!!」
田辺さんは購入する靴下の値段を見ないでお会計に持っていったらしく、想像以上の高さに驚いたそうです。
田辺さん「靴下の値段って大体これくらいだろうって予想できるじゃない?その予想を大幅に上回る値段の高さだった!」
田辺さんは慌てて今貰ったばかりのレシート見て、靴下の値段を確認し始めました。
田辺さん「わ、この最後のスケスケの靴下がとっても高いっ!!」
私「何でそれ買おうと思ったの?」
田辺さん「なんとなく」
田辺さんはなんとなくで購入した靴下の値段の高さに何度もレシートを見てたまげていました。
田辺さん「こんなことってないよ!何がいけなかったの?」
私「靴下の値段を見ないからじゃない?」
田辺さん「その通りだよっ!本当に私はバカだよ!」
私たちがそんなやりとりをしていると、あんりちゃんがお会計を済ませて戻ってきました。
あんりちゃん「どうしました?」
田辺さん「値段を見ないで買った靴下の値段が高くて驚いてるの!酷くない?」
あんりちゃん「なんで値段を見ないで買ったんですか?」
田辺さん「私がバカだからよ!」
そんなやりとりをしていると時間になったので、集合場所に向かいました。トイレに行ったはるちゃんから
はるちゃん「混んでる階のトイレひいちゃった!やばい!先に行って!」
と、連絡がきて心配になりましたが、なんとか間に合いみんなで車に乗って目的の場所に向かいました。
はるちゃんは速攻で寝てしまい、気が付いたら田辺さんとあんりちゃんとウィンナーの話で盛り上がっていました。
あんりちゃん「何かウィンナーが冷蔵庫にあると安心するんですよね」
田辺さん「わかる!」
私「ウィンナーって自分で買うようになって値段高くて驚いたな~」
田辺さん「わかる!」
あんりちゃん「そうなんです!だから大切に扱いたいですよね。今、家の冷蔵庫にシャウエッセンがあるんですよ。そう思うと嬉しくなります」
田辺さん「いいな~!」
あんりちゃん「やっぱりシャウエッセンは最高ですよね!」
私「美味しいよね~」
あんりちゃん「あ、勿論、ウィンナーと言えば香薫も美味しいですけどね!香薫も最高!私はどっちも大好きです!」
あんりちゃんは突然香薫ウィンナーを擁護し始めました。その擁護っぷりは、まるでこの車内が香薫ウィンナーに盗聴されていることを思い出した人みたいでした。
田辺さん「ねぇ、酒寄さん暑くない?厚着過ぎない?」
ひとしきりウィンナーの話で盛り上がった後、田辺さんが私を見て言いました。
私「デジャヴ?」
田辺さん「いや、改めて見たらすごく暑そうに見えるから。車の中だとより暑そうだよ」
私「確かに少し厚着し過ぎたかも」
田辺さん「そうよ!だって今日暖かいって天気予報見なかったの?」
私「見たよ。…あ!私、帰りの気温見て服選んでるからかもしれない」
田辺さん「なるほどね!私はいつも今しか見ないよ!今だけ見てる!」
私「今より靴下の値段見なよ」
田辺さん「あんたその通り過ぎること言うね」
田辺さんは「何で私の【今】に靴下の値段は含まれなかったのかしら?」と本人がわからなければ永遠にわからないクイズの回答に悩んでいました。
あんりちゃん「靴下ってそんなに高かったんですか?」
田辺さんが値段を言うと、あんりちゃんは「まぁ、お高めだけど、欲しい靴下だったらそれぐらい出しちゃいますよ」と言いました。
田辺さん「いや、欲しかったわけじゃなくて、最後になんとなくノリで買った靴下だから余計に高く感じるのかも」
あんりちゃん「その靴下見せてくれますか?」
田辺さんからスケスケ靴下を渡されたあんりちゃんは「可愛いじゃないですか!」と言って、この靴下の可能性を色々考えてくれました。
田辺さん「あ~なるほどね!そう履けば良いのね」
私「良かったね。少しはダメージ減った?」
田辺さん「いや、まだ…」
私「それなら10年履いたら良いんだよ!10年も履いちゃえば日割りにしたらタダみたいなもんだよ!」
田辺さん「確かに!10年履いたらむしろお金もらって履いてるようなもんよね!(?)」
あんりちゃん「二人ともそんなてきとうな事言わないでください」
私、田辺さん「「…」」
あんりちゃん「確実な5年を目指しましょう」
私「確かに!5年の方が現実的だ!」
田辺さん「そうね!5年なら頑張れば本気でいけそう!」
あんりちゃん「しかも、一年ごとにパーティーをしましょう」
あんりちゃんはさらに名案を出してくれました。
あんりちゃん「一年後まで履き続けられたら、来年の今日に『田辺さん靴下記念日』パーティーをするんです。そして再来年も履き続けられたらお祝いにまた再来年の今日パーティーをするんです」
田辺さん「何それ!楽しそう!」
あんりちゃん「そう思えばこのスケスケ靴下も買った意味があるって思えませんか?今日はぼる塾にとって新しい記念日。そう、田辺靴下記念日です」
田辺さん「今日〇月△日は田辺靴下記念日ね!」
私「素敵だよ!決めた!私これから重要なパスワードは田辺靴下記念日の四桁の数字にするよ」
田辺さん「ありがとう!みんなありがとう!」
田辺さんはそう言って、花粉症によって目にたまった涙を拭いていました。
田辺さん「でも、一個だけ良い?」
あんりちゃん「何ですか?」
私「何?」
田辺さん「この靴下消えたらごめんね!」
靴下ミステリーが始まる予感です。
おわり
*
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