田辺さんの正体 前編

※みたらしちゃんは息子のあだ名です

ある日のことです。田辺さんから連絡がきました。

田辺さん「ねぇ、みたらしちゃんの三歳の誕生日プレゼント何が良いかしら?」

息子の誕生日は一か月以上前のことでしたが、田辺さんは誕生日プレゼントを何にするかでずっと悩んでいるようでした。これまでも何回か、

田辺さん『みたらしちゃんの三歳の誕生日プレゼント何がいいかしら?』

私『田辺さんからならなんでも喜ぶよ』

田辺さん『あらそう?田辺さんのこと好き?うふふ』

と、全く意味のないやり取りをしては、

田辺さん『みたらしちゃんの三歳の誕生日プレゼント何がいいかしら?』

と、記憶を消された人のように振り出しに戻っていました。

私(このままだと四歳になったとき、

田辺さん『みたらしちゃんの三歳の誕生日プレゼント何がいいかしら?それからみたらしちゃんの四歳の誕生日プレゼントは何がいいかしら?』

こうなる可能性が高い)

田辺さんならありえる話です。私は目の前で遊んでいる息子に直接欲しいものを聞こうと思いました。

私「田辺さんが何か欲しいものある?って」

息子「おしり!」

私はおしりをもらっても困るなと思いました。田辺さんにも「息子はおしりを欲しがっているが、もらっても困るのでおしり以外で良いか?」と確認し、田辺さんも「おしり以外で!」と連絡がきました。

私「おしり以外で欲しいものない?」

息子「ヤクルト!」

ヤクルトはもらっても困りません。私は田辺さんに三歳の誕生日プレゼントが決まったことを伝えました。

私「ヤクルト欲しいって」

田辺さん「ヤクルト1000?」

私「普通のヤクルト」

田辺さん「ヤクルトは安いよ!誕生日と別であげるよ!」

確かに田辺さんは自分用に購入しているヤクルト製品を「みたらしちゃんに」とたまに持たせてくれます。

田辺さん「ヤクルト以外は?私お金あるから!」

田辺さんが格好良いことを言ってきたので、改めて私は息子に質問をしました。

私「ヤクルトの他にも欲しいものある?」

息子「龍が如くのトミカ!」

息子はこの世に存在しないものを欲しがりました。私は不可能だと思いつつ、一応お金のある田辺さんに伝えました。

私「龍が如くのトミカが欲しいって」

田辺さん「え?!そんなのあるの?」

私「いや、残念ながら存在しないよ」

田辺さん「これは困ったね」

私(流石の田辺さんもこの世に存在しないものはあげられないものね。まぁ、別のトミカを提案するか…パトカーとか)

田辺さんからの返事を待っていると、URLが送られてきました。

田辺さん「この中で他に欲しいのないか聞いて!」

田辺さんは龍が如くのグッズのサイトのURLを送ってきたのです。

私はこういう場合、田辺さんは龍が如く残しなんだって思いました。

※龍が如く…セガのアクションアドベンチャーゲーム。東京の架空の街「神室町」を舞台に、裏社会を生きる人々の抗争や生き方、人間模様を描く。

私はせっかく田辺さんが送ってくれたし、龍が如くのグッズを調べることにしました。

私(流石にトミカはないけど色々あるんだな…この龍と般若の刺繍Tシャツ良いかも!でも流石に子供用サイズの100センチとかはないか)

残念ながら、大人用のサイズしかありませんでした。

私(あ!昇り龍箸なんてある!桐生さんのグッズも良いな!)

桐生さんは息子のお気に入りのキャラクターです。彼は背に彫られた抜き彫りの応龍の刺青と数々の伝説から「堂島の龍」や「伝説の龍」と呼ばれています。息子がこの世でさんづけするのは桐生さんと田辺さんだけです。

私(でもみたらしまだ箸使えないし…あ!この箸が似合う男になったときに渡すとか?でもこの箸が似合う男って30歳過ぎてそう…)

迷ってしまった私は一度休憩することにしました。スマホを見ると、田辺さんから「今日のみたらしちゃんある?」と、息子の写真を要求するメッセージが届いていました。

私は田辺さんからもらったぬいぐるみを大事に抱っこしている息子の写真を送りました。田辺さんからはすぐに返事がきました。

田辺さん「あら!こねこちゃん!(息子がぬいぐるみにつけた名前)」

私「こねこちゃん大好きでさ!お気に入りだよ!」

田辺さん「こねこちゃんは田辺さんからだよ!ってちゃんと言ってね!」

田辺さんは贈り物を渡すときに送り主をしっかり教えさせるタイプです。

私「もう100回は言ったよ」

私は追加でテレビに出ているぼる塾を見ている息子の写真を送りました。

私「これはラヴィットでぼる塾見てるときの写真。息子ラヴィット好きで見てるよ」

田辺さん「なんか渋い顔してるね」

確かに写真の息子は好きな番組を見ているにしては梅干しを食べたような渋い顔をしていました。私は誤魔化そうと話題を変えました。

私「いや~みたらしの中で田辺さんは大好きなラヴィット出てるしこねこちゃんをくれた人だしすごいね」

田辺さん「すごい人よね!私!」

私「そういえば田辺さん、この前はパンも開発してたね。買いに行ったとき田辺さんのポスターあったから息子並ばせてツーショット撮ったよ」

田辺さん「あらすみません。ありがたいことに大ヒットよ」

私「それから田辺さん始球式も投げたね!あ、息子にヤクルト分けてくれるし息子にとってはヤクルトレディでもあるね」

田辺さん「まぁね~」

私「あ、息子にとって田辺さんといえばTシャツもあったわ。今も家で私が田辺さんのTシャツ着てると「田辺さんだ!」って言って頭撫でてるよ。Tシャツの田辺さんにこの前おままごとのオムライスあげてたよ」

※Tシャツの田辺さん…田辺さんの顔がプリントされたTシャツ。私が部屋着として使用していた所、息子がそのシャツの田辺さんの頭を「よしよし」と撫でておままごとのりんごをプレゼントし、そこから二人(一人と一着?)はど根性ガエルみたいな仲良くなり方をしている。私が着過ぎて最近田辺さんが薄くなってきている。二人の別れは近いかもしれない。

田辺さん「あら!嬉しい!」

私「田辺さんってガチャピンみたいに色々してるね」

田辺さん「田辺さんって愉快よね!突然みたらしちゃんの前に現れたりもするし!」

以前、田辺さんは突然息子のお迎えをしたいと言い出し、タクシーでやってきたことがありました。(詳しくは『タクシーで迎えに行く女』というタイトルで書いてます)

私「ねぇ、息子がもっと大きくなって、『田辺さんって何者?』って聞かれたら、私どう答えたら良いの?」

田辺さん「そうね。いつかはそんな日がくるわよね。みたらしが、『田辺さんって何者なの?』って。

それはとても危険ね」

私は今までに田辺さんの正体を暴こうとして消されていった者たちを思い出そうとしましたがそんな者はいませんでした。

田辺さん「残念ながら私も田辺さんは何者なのかうまく説明できないのよ」

田辺さん自身も、田辺さんが何者なのかよくわかっていないようでした。私たちは一旦田辺さんの正体は保留にしておくことにしました。

田辺さん「見て。こんな赤ちゃんだったのに、立派になって」

田辺さんは以前私が送った息子の写真を逆に私に送ってきました。

田辺さん「この写真私のお気に入り」

見ると、生まれた直後の産院での息子の写真でした。

田辺さん「今もみたらしちゃんこの表情するよね」

私「するする!さすが田辺さん!見てるね!」

田辺さん「みたらしの写真沢山もってるからね。生まれてから毎日の写真もってるよ!すごくない?(田辺さんが息子の写真を沢山もっている理由は『写真』というタイトルで書いてます)」

私「そうだ!息子に『田辺さんって何者?』って聞かれたら、

『生まれてから今日までのあなたの毎日の写真を大量に持つ人だよ』

って言おうか?」

田辺さん「怖っ!私ホラーだね!」

田辺さんの正体はホラーでした。

もう少しこの話は続きます。

***

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