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時代の流れとF1のカタチ (その3)

この記事では近代のF1マシンの見た目の変化を当時の事情と一緒に紹介していきます。スイマセン、今回も多少の専門用語が飛び交います。
ここまで2008年から2021年までのF1のマシンデザインの変化を当時の事情と共に紹介してきました。今回は現在のF1のカタチである、2022年に施行されたレギュレーションとマシンのカタチを見てみましょう。


2021年 歴史は繰り返した

2017年に速くて格好いいF1マシンを目指して施行されたレギュレーションは、前方を走るマシンの乱気流の影響を受け追走が困難になりました。
そりゃあれだけ高速の物体が走るので、気流は絶対に乱れます。

これだけ気流を跳ね上げます。
雨の時に真っ白になるのは水が気流で巻き上げられるからなんです。

2017年以降はアウトウォッシュの開発がメインでした。アウトウォッシュはフロントウィングやバージボードで意図的に気流を発生させ、その気流で後方の気流を制御し、ダウンフォースを獲得する仕組みです。つまり、乱気流によってフロント周りの気流が乱れるとダウンフォースを稼ぐことができないんですね。

2022年 破壊的な変更

破壊的変更とは一体!?40年ぶりの大革命レギュレーション!?さぁ、どんなカタチになったのでしょう?

なんか無難なカタチに見えます…
こっちは赤いバスタブ…

「あれ?破壊的とか言っておきながらあんまり変わって無くないか?」そんな言葉が聞こえてきそうです。
全体的に丸くなりました。ウィングやパーツのトゲトゲした部分が再び全て無くなりました。んー、シンプルですね。
毎度のことなんですが、大きなレギュレーション変更の時は「追走可能なマシン」であることを常に考えられて作成されます。
しかし先述の通り、F1が走ると乱気流は絶対に発生するし、その状況下では追走するマシンが十分なダウンフォースを得られず不利になる、もう何度も繰り返してます。しかもこの見た目、ボディ表面のパーツを限界まで無くして、どう見ても2009年の対策と一緒に見えます
そうなんです、だって破壊的な変更とはフロア(車の裏側)に対してなんですから!

2013年 中央に段差、前から後ろまでペッタンコ
2022年 複雑な溝になってます

この新たなレギュレーションは、1982年に最後となったグランドエフェクトの技術を復活させました。このグランドエフェクトカー、F1では太古の技術と言ってもいいでしょう、これは何なのか?を解説します。
グランドエフェクトカーは名前の通り、マシンと路面(大地)の間に気流を流す事でダウンフォースを得る仕組みです。

40年以上も昔の空力です

マシンのフロアを通過する空気を「広い→狭い→広い」空間へ通すだけで負圧が発生し、マシンを路面に吸引させる仕組みです。
なんでこれだと追走可能なのでしょうか?それにはまず、今までのウィングに頼ったF1の弱点を紐解きましょう。
ウィングと言われる空力パーツはウィングの上下面に空気が通過した際に、 効力を発揮します。

ダウンフォースを発生させる理由は諸説あります

この通過する空気が乱気流の場合、ウィングに沿って綺麗に流れてくれません。「気流が剥離する」といわれますが、こうなるとダウンフォースは発生してくれません。これが追走側が不利と言われる大きな理由です。
対してグランドエフェクトは、気流が通過するだけで効果が得られます。そりゃ、通過するのが乱気流だと効率は落ちるかもしれませんが、気流の剥離の影響は激減するので、ウィングに比べて安定して効果が得られます。
その他のメリットをいくつか挙げてみます。
①空気が通過した後に、気流の方向が変わらない
ウィングは気流を上向きへ流す事で下向きに力を得ていました。
②ダウンフォースの発生源が、マシンの中央付近である
既存のマシンは前後のウィング、マシン後方のディフューザーがダウンフォースの発生源でした。安定した前後バランスをとるのが難しかったのです。
③空気抵抗がとても少ない
空気抵抗は気流が物体に触れると発生します。そのため、ウィングでダウンフォースを多く取ると、必然的に空気抵抗も多くなります。
完璧に見えるでしょ…?でもそうじゃないんです。完璧でないから40年間もこの技術は固く封印されたのです。

グランドエフェクトの弱点はダウンフォースの発生量が車高に依存することで、先述の「広い→狭い→広い」空間の「狭い」部分が狭いほどダウンフォースが強力になります。この物理現象が非常に厄介で、いろんな問題を引き起こします。
①ダウンフォースが突然抜ける
コーナーで縁石を使ったらどうなります?車高が上がりますよね?その瞬間、ダウンフォースが消失するんです。なのでドライバーは高速コーナーで縁石に絶対に乗りません。抜けたらマジでヤバいです。40年前は死亡事故が多発しました
②ポーポイズ現象が起こる
簡単に説明すると、直線を走っているだけで凄まじい上下振動が発生するんです。実際にメルセデスはこの現象に滅茶苦茶悩まされ、解決に1年かかりました。上下振動の仕組みはこうです。
①ダウンフォースが発生し、車体が地面に引き寄せられ、車高が下がる。(サスペンションのバネが縮むのでどうしても回避できない)
②車高が下がると追加でダウンフォースが発生し、さらに車高が下がる。
「狭い」場所が狭くなり過ぎて気流が通過できないとダウンフォースが減少し、車高が上がって①に戻る
と、まぁ割と致命的な弱点なんですが、現代F1ではこれを克服できる技術があるため、採用となりました。例えば超絶頑丈なカーボンモノコックはクラッシュしてもドライバーの安全が担保できます。

あとがき

さてさて、3回に渡ってF1のカタチと裏事情を交えてお話してきましたが、どうだったでしょうか?後半はちょっと説明が多くなり読みにくかったかもしれません。(文章が多くなるのは私の悪い癖です)
で、現在のF1マシンはグランドエフェクトのおかげでさぞかし追い抜きが多いのかと言われると、そんなことないんですね。相変わらず、乱気流に弱いです。

ボディ側面の気流をコントロールしているのが、相変わらずボルテックスと言われる意図的に発生させた小さな気流だったり、フロントはどうしてもウィングに頼らざるを得ないためです。
それこそ、リアウィングを廃止してグランドエフェクトで総ダウンフォースの80%を賄えれば、現状が変わるかも知れませんが、ポーポイズがあるのでこれも難しいです。(禁止されたイナータサスペンションが解禁されれば、ワンチャンあるかも?)

でも、グランドエフェクトはウィングに頼り切った時代に比べると実に健全に見えます。規制の厳しさは現在の予算制限との相性もよさそうに見えます。次はどんなレギュレーションの変更があるのかな?ということで終わりにしたいと思います。

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