反省日記:息子の卒業式編

昨日は末の息子の高校の卒業式だった。

保護者席に座って、入場と退場のときに息子の顔が小さく見えたがそれだけだった。

あくびをしたり、途中でメールをチェックしたりしながら、退屈な式をやりすごし、終わったら、さあ義務は果たしたと思いすぐに帰った。片付けなければならない原稿の仕事が山ほどあるから、1分でも早く家に帰りたかったのだ。

後になって、息子にとって一生に一度の卒業式をあんな風に帰ってよかったのかなとすごく気になった。息子の姿を探して、記念撮影くらいすればよかったのだろうか。

自分への言い訳のために、自分の高校卒業式の日を思い出してみる。

おどろいたことに何一つ覚えていなかったけど、たぶん親なんて式に来なかったし、もし来たらうざいと思っただろう。もう高校生なんだもの、と今日の自分の行いを正当化しようとする。

卒業式のことは何一つ覚えていなかったけど、すっかり忘れていた光景が脳裏に浮かんできた。

ブルーの扉のロッカー。卒業式のあと、それが学校に来る最後の日だから、忘れ物はないか確かめようと開けてみたら、空っぽのはずのロッカーに、小さなプレゼントが置いてあった。

だれからのものかすぐにわかった。この世で私の好みを熟知している人といえば一人しかいなかった。

しかし、私はそれに手を触れないまま扉を閉めた。

そしてそれっきり。

その後、ロッカーに置き去りにされたプレゼントがどうなったか知らない。それをくれた人がどうなったかも。

「卒業したって仲のいい人とはこれからも会うし、特に何の感慨もないな」

夜遅く、打ち上げを終えて帰ってきた息子が言う。

「写真も撮らないで先に帰ってごめんね」
「いいよ、そういうの別にどうでもいいと思っているし」

本心かどうかわからないけど、たぶん本心だろう。そう思うことにする。
卒業式にじみじみするのはきっと、何十年も経ってからだ。


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