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読みかけの本にいれた指の隙間から見えたことばは雨の色


風は体で受けるよりも
耳で感じる方が好きだ
風が強い日は想いが遠くに飛んでゆく
それに名前をつけることは
もう難しい
とても難しいことだからこそ
なくさずに大切にしまっておく
と決めている
それだけは強い風にも負けない
と思った

茶色がかっていた芝生が
まるで蘇りのように少しずつ
緑を帯びてくる
ひかりを受けたぶんだけ
自らひかりだすみたいだ
それを見ているだけで少し嬉しくなる

風の通り道にいるから
音が啼いて
壁に何かがぶつかって
風とひかりと時々降る雨があるから
命は自らひかりだす
当たり前のことは立ち止まってみないと
わからなくなる

いつまでも私は正しいだとか
あなたが悪いのだ
と言っているようでは
どんなにかひかりを受けたとしても
自らがひかりだすことはない
それはただ見ているだけでも酷く嫌な気持ちになる



少し遠出をした時に偶然見つけた古道具店で
アンティークのガラス瓶を買った
均整を作られていながらも所々に歪を持っている
透明の境界は手に取ってみてはじめて気づく

方々の美術館で買い求めた
ポストカードを閉じ込めた
私のなかのおもいでたちもまた
透明の境界に閉じ込めている

静けさの音を感じていた
何も聴こえない時にだけ聴こえる音
耳が機能している音のようなものとでも言おうか
やがて外から飛行機が上空を駆けるのがわかった

こういう時に誰にも聴こえない内側だけのこえがあって
それこそが本当はいちばん届けたいこえなのだけれども
決して声に出すことはないし
てがみにしたためることもない

発して何かが変わることはないけれど
それを伝えることができたならどんなにか良いだろう
と思うけれど
瞳の奥で駆ける想いだけがさっき駆けた飛行機と
同じように鳴りつづけている

いつかの昨日を待ちつづけるから
夢は色濃くなる


たんなる日記(その160)

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