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【設立記念トークイベントアーカイブ】自信を持って「余白」を持てる。「お休み」が社会貢献になるような社会に。安井早紀さん・遠又香さん(株式会社Compath)

2022年11月末に開催された合同会社&anteの設立記念トークイベント。
様々な方との出会いに感謝できる温かな時間になりました。開催報告はこちら。

ゲストを招いてのトークでは、新たな学びや気付きが生まれました。
今回は株式会社Compathの共同代表である安井早紀さん(以下「さき」さん)と遠又香さん(以下「かおる」さん)とイベント内でお話した内容を書き起こしてお伝えします。
Compathさんは北海道東川町で、デンマーク発祥の大人のための教育機関「フォルケホイスコーレ」をモデルに「余白の中で、自分や社会との繋がりを考える」滞在型プログラムを開催しています。

テーマは「人生に余白はなぜ必要?」
(聞き手・編集:&ante 大滝文一 (以下 「ぶん」)

Compathさんプロフィール

安井早紀(やすいさき)
School for life Compath 共同創業者
1990年生、神奈川県出身。大学時代に教育系NPO Teach For Japanにて活動。卒業後はリクルートに入社し、人事として人/組織に向き合う。
その後、島根県に移住して地域教育魅力化プラットフォームに勤める。デンマークに行ったことをきっかけに「人生の学校」と呼ばれるフォルケホイスコーレに出会い、フォルケホイスコーレをモデルにした大人の学び舎を北海道東川町で創業/運営中。裏の顔はアイドルオタクと本の虫。

遠又香(とおまたかおる)
School for life Compath 共同創業者
東京都生まれ、慶應義塾大学総合政策学部卒。卒業後は、ベネッセで高校生向けの進路情報誌の編集者として働いた後、外資コンサルティング会社に転職。並行してデンマークのフォルケホイスコーレにヒントを得た“人生の学校“の設立を構想し、2020年4月に株式会社Compathを設立し、7月より東川町に移住。

忙しい「ぎゅっとした時間」があるからこそ余白の価値が際立つ

(ぶん)Compathのお二人は余白を大事にしつつも、キャリアの中で余白のない時間もしっかりと過ごしてきていて、どちらの時間も大切に味わってきているなと。そんな中で、余白ってそもそも何だろう? という所から聞いてみたいです。

(さき) 最近人と話してしっくりきている考え方は、「塗りつぶされたところがない」と余白が出てこない、みたいなことで。余白だけだと余白にならないけど、ぎゅーっと濃い部分があることで余白がいかされる、 そのバランスというか対象の中にあるものなのかなぁと。だからよく「忙しすぎて全然余白が取れてない……」っていうふうに罪悪感を感じる人もいると思うんですけど、罪悪感ではなくて、そういう「ぎゅっとした時間」があるからこそ余白の価値が際立つという考え方ですね。

(かおる)うん。「終わりがあるから余白だよね」みたいな話はよくCompathでもしていて。今私たちは大人向けの学び舎をやっていて、プログラムが1週間から長くて3ヶ月ぐらいの期間なんだけど、必ずそこに終わりがあるからがっつりその時間を味わうことができる。けど「ずっと何もしなくていいよ」って言われると、逆にそわそわしすぎちゃうというか。余白にすら没頭することができなくなっちゃうから、必ず始まりがあって終わりがあるっていう、例えば紙も白いキャンパスの四角の枠があることで多分そこが余白になって。始まりも終わりもあることは大事だから、ぎゅっと働くタイミングもあれば、ぎゅっと余白を取るという期間があっていいんだろうなと思います。

(ぶん)なるほど。みんなの余白づくりをサポートしているCompathさんですが、前に話した中で印象に残っているのが、1ヶ月ぐらい余白が必要だろうなという方が1週間のプログラムに来たり、3ヶ月は余白が必要そうな方が1ヶ月のプログラムに来たり。みんな忙しい中で何とか余白を捻出しているという中で、余白を作る上で大切なことってあるんですかね。それか、何か余白づくりを難しくしているものがあるんだろうか。

「合法的余白」が取れて、でも押し付けられたりはしないっていう学びのあり方が素敵だなと思った


(さき)個人の余白を取れないことを責めるんじゃなくて、社会として余白がないのがいけないなぁということを感じていて。デンマークのフォルケホイスコーレに感動したのが、日本って裕福な国のはずなのに、なんでみんな窮屈感だったりとか孤独感を抱いてるんだろう、みたいなところのギャップで。自分自身もなんかこうアップアップだし。そんな(余裕、余白がない)状態だとなかなかその他者とか社会のことに関心が抱けないなぁと。そんな時にフォルケホイスコーレを目の前で見て、「なんだこの合法的余白は!」みたいな感じで(笑)
日本だと「休むと怒られちゃうから申し訳ない」みたいな感じで、ちょっと「非合法な余白」みたいな感覚で捉えられていると思うけど、(デンマークでは)中学校から高校上がるタイミングでも余白があるし、社会に出てからも余白がある。社会でも「余白をとるっていいよね」っていうふうに推奨されている中の機能の一つとしてフォルケホイスコーレがあって、すごい堂々と余白を取れるのはいいなぁと。だから個人が余白取れないのを責めてもしょうがないなぁ、みたいなのは最近思っていることかな。

(かおる)私も社会の仕組み自体が変わればいいなっていうことを思いながら活動をしていて。心理的ハードルももちろんあるけど、学びに対する経済的ハードルも日本の場合はすごく大きい。デンマークのフォルケって3分の2は国の補助が出るので個人の学費負担は3分の1。私も今日本の大学院に行っているけれど基本実費で払っていて、そういう時にある程度その学びに投資できる人は限られてくるし、すごく学び欲がないと(難しい)。「大学院に社会人になってから行くって偉いね」ってよく言われたり、「やっぱり意識高いよね」なんて言われることもなんだか寂しいというか。いつでも誰でもどんなバックグラウンドの人でもやり直しもできるし、学ぶこともできるみたいな時に、「余白」がテーマだけど、例えば教育機関としてあなたは4ヶ月そこにいてもいいよって言われることで、合法的余白が取れて、でも押し付けられたりはしないっていう学びのあり方がすごい素敵だなって。
社会の仕組みとしてお金のこともそうだし、心理的ハードルとか「ブランク」があること自体をもっとポジティブに捉えられるようになったら(いいなと)。結構多くの人は本当はそういう(余白や学びの)時間、本能的には欲しいけど理性的には取れないんだろうなっていうのは、いろんな参加者の方と話しててすごく思います。

(さき)「&anteで大切にしたいこと」って書かれている3つのこと、私はすごくいいなぁと思いながら見ていて。「対話的であること」「それぞれの速さで歩くこと」「それぞれの根っこを面白がること」って、まさにそういう時間を(フォルケホイスコーレやCompathのプログラムでも)過ごしているなぁと思う。それって普段の生活でもできなくはないんだけど、それよりは「他のものの方が効果がありそう」とか、「そんな贅沢言ってらんない」みたいな感じで(笑)見逃しちゃうような。人間の人生だったり心の豊かさにとっては大事なことだけど、「自分のことを置いてきぼりにしてできない」みたいなことを、たっぷりとしたスペース(・余白)を設けることで「自分の根っこに気づく」「自分の速さってこれぐらいが心地いいんだ」ということを試しながらやってみるみたいな。そんな時間のイメージだから、&anteが大切にしていることにすごく共感します。

(かおる)うんうん。Compathのグラウンドルールにもすごく似ているなと思った。

(ぶん)いや〜嬉しいですね。Compathさんのグラウンドルールってどんな感じですか?

(かおる)何個かあるけれど、「お互いを面白がる」とか「お互いの天才を見つけよう」とか、「自分のペースをまずは大事にしよう」とか「良くするために対話を諦めない」とか。それぞれでこぼこだけど、でこぼこは大事にしながら新しいこととか今ある仕組みを含めてアップデートしていける、ということを実験的にできるような学校でありたいなと。そうそう、「判断を保留する」とかも。「評価をしない」っていうのもフォルケで大事にしている思想としてあって、何か授業を作るわけではないから、そこの空間だけはちょっと魔法がかかっているというか、お互いのことを心から大事にするっていうことが、ある程度環境がセットされたら誰でもできるんだっていうことを体感的に知っておくことってすごく大切。(大事なことって)能力だと思われてたりとかすると思うんだけど、心に余裕があって場としても安全性が担保されていれば基本的に誰でもできるはず。でもそうじゃない動きをしてしまう環境にいる時に、なかなかそうじゃない自分になってしまうみたいなところを、一回でもそういう環境を知っておくと、もう少し社会に対してもポジティブになれるんだろうなと思います。

仕組みとしてみんなが休める方がもっとクリエティブになれる

(ぶん)今の「環境をつくる」って話がとても大切なんだろうなと聞きながら思っていて。僕は今スウェーデンにいますが、スウェーデン人の大学生って学費無料どころか学びながら毎月お金まで貰ったりしているので、「なんだよそれ」って日本人として思ったりもするんですけど(笑)結局そういう環境がスタンダードの中では、彼らは自分の安全性が担保された状態で学んだり休んだりできているなと。日本には日本の良さもたくさんありますが、やはり立ち止まったりゆっくりするというのは、北欧の人たちは結構得意だなっていう感覚はありますね。
でもまさにその環境づくりをCompathさんもされていると思っていて。そこですごく思うのが、作り手ががんばってみんなの「余白」を生み出している時に、作り手自身の余白がなくなる時がある(笑)そういう時ってCompathのお二人はどうしてます?

(さき)あるある(笑)

(かおる)難しい〜(笑)一応私は「余白大臣」という名を(会社の中で)授かって、Compathでも余白を振りまこうとしているんですけど。(元々)働くのも好きだからこういうものに惹かれたりしているっていうのが私もさきちゃんにも特性としてあって。でもそれってすごく長期的に考えてめちゃめちゃこういう(余白の作り手である自分達の余白の)時間絶対あったほうがいいよねって感覚的に思う。なので最近は、来年3ヶ月か4ヶ月ぐらいは休みにCompathの会社として取ろうとしてます(笑)
私は個人としては休むのが大好きで、がんがん代休も取るし、がんがん休むんですけど、逆にそれはメンバーによって変わっていく時に、仕組みの問題になって。仕組みとしてみんなが休める方がもっとクリエイティブになれるんじゃないかって話をして。じゃぁ来年は数ヶ月、Compathとして余白を大切にする会社なので余白期間を取りますみたいな議論を、ちょうど3年目で楽しくし始めたって感じです。

(さき)私はたぶん(&ante代表の)ゆかちゃんに似ていて、歩くスピードがそもそも速いっていう(笑)でもだからこそ(中々休めない人の)気持ちも分かるし、でも余白の価値も分かっているしっていう人がハシゴになる必要性もあるんだろうなと思っていて。私はかおるに「いやでもなんか休めないんだよ〜」みたいなことを嘆いて、そうすると(かおるが)「あっ、なるほどな〜。じゃぁどうしよっか」みたいな感じになり。私はもう少しダイナミックに余白が欲しいみたいな感じのことを言って(笑)

(かおる)そうなの。だから(さきに)いきなりドヤ顔で「私思いついた。3ヶ月ぐらい余白ないと私はクリエイティブになれない」って言われて。「分かりました、じゃあどうにかしてお休みを作ります」って言って今めっちゃ事業計画を書き直してます(笑)でもそれも含めて実験しながらで、多分それで歪みも来るし、しわ寄せもあると思うんですけど。でも私も今日整体行きながら、「毎年5週間バケーションを取る会社に絶対してやる」ってすごい思った。デンマークの人たちはみんな(仕事終わり)早く帰っているし、5週間バケーションは取ってるし。それはフォルケの先生も変わらなかったりするから、その感覚を10年ぐらいかけてでもできるようにするみたいなのは、仕組みとしてがんばろうと思いました。どうやってやるんだろうっていうやり方はわかんないけど(笑)

「難しい」っていう前提で、少しずつ変えていく

(さき)だから「難しい」っていう視点に立った方がいいと思う、我々は。そういうふうに(教育を)受けてきていないから、どれだけ意識しようと思っても、(日本人の)思考のほんと根底の部分にインストールされちゃってて。それは出席をつけられるとか、「皆勤賞」みたいなのがあるみたいな所のベースの部分にあるから。それを「難しいよね」って前提に立って、例えば私とかおるで対話が生まれるように、Compathと &anteと今回登壇しているメンバーとかで、「やっぱ難しいよね〜、どうしてる?」みたいなのを(お互いの良い所を)真似していくみたいな感じでやっていくしかないんだろうなって思う。

(かおる)ちょうどデンマークでデンマーク人と議論になった時に、彼の親世代はそうは言っても3時には帰ってなかったし、子育てにみんなが参画するような環境じゃなかったみたいで、(昔は)デンマーク人もよく働いてたらしくて。でも「親世代が10年戦って仕組みを変えてきたから今の僕らの生活がある」って。そんな時に私が「いいな〜」って言ってたら「お前も10年頑張れ」って怒られるみたいな(笑)なので10年くらいかけて、多分1年とかでCompathもすぐできないと思うんですけど、でも意外と(仕組みを変えることが)できるっていうのを実行していくっていうのが、それぞれの輪としていろんな会社とか組織とか社会として広がっていけばいいなと思います。

(ぶん)本当ですね。この前二人とも一緒にデンマークで活動されているニールセン朋子さんの話を聞きましたが、「愚痴っているならとりあえずやってみたら」みたいな(笑)でもちょっとずつでいいからね、というのが空気としてあって。僕らもまさにちょっとずつ、アンダンテ(歩くような速さ)で確実に何か変わって行けたらいいなと思っています。
この調子でいつまでも語れちゃうんですが(笑)ぼちぼち締めに行きますね。本当は対話や余白を愛したい人たちに、お2人から一言ずつ頂けると嬉しいです。

(かおる)自分の大切にしていることとして、とりあえずやってみる、小さくてもいいからとりあえず色んなことを石として外に投げてみるっていうこと。余白もいきなり4ヶ月とかは難しいと思うけれど、「この土曜日はこうしてみよう」とかっていうのも含めて、1年の中でちょっとでも自分のこととか周りのことを大切にするみたいな時間が増えていけばいいなというのは、自分も含めて(大切にしたい)言葉として置いておきます。

(さき)Compathでは、「私の小さな問いから社会が変わる」っていうのを合言葉にしていて。個人の豊かさを大事にすることから、すごく時間はかかるかもしれないけど、その選択をしていく人が増えたりとかめちゃくちゃ周りにいいよ〜っていうふうに広めたりするところからじわじわ変わっていくみたいなのって過去にもそういう事例はあって、それは信じているんですよね。 そこを振り返って考えると一つ一つ、取るのは自分にとってのお休みかもしれないけど、そのお休みを取ることは社会貢献に繋がっているんだみたいな感じで、誇らしくお休みを取るみたいなのをやっていったら少しずつ変わるんじゃないかなみたいなことを考えています。態度の違いなんだけど、「どや!」みたいな(笑)

(かおる)「休めたぞ、どや!」みたいなね(笑)

(ぶん)確かになぁ。結構よく日本人であるのが、自分で取ったお休み明けに「すいませんでした」って入っていくみたいなのがあると思うんだけれど(笑)なんなら休みを取ってドヤ顔で帰ってくるみたいなのっていいですよね。そういう社会いいなぁ。

(さき)そうそう。(休みを取って)「社会貢献したったわ〜」って帰ってくる(笑)

(ぶん)なるほど〜いいな(笑)本当に、そうやってドヤ顔で余白を作れると言うか、自信もって休むみたいな環境になれると本当に(社会が)変わっていくんだろうなって感じがしていて、Compathさんは今それを率先して作っている感があるので僕らもそれに続きたいと思います。
ちょうど来年1月から3ヶ月のコースもやるんですよね。

(さき)うん。めちゃ実験しながらやっているので。本当に日本にフォルケホイスコーレは作れるのか? っていう実験を北海道東川町からやっております。

(かおる)うんうん。東川町って所に住んでます。ぜひ遊びに来てください!

北海道東川町で設立準備中のCompathキャンパス 校舎

(ぶん)ありがとうございます。3ヶ月でもデンマークのフォルケは通常4ヶ月なのでちょっと足りないぐらいですよね。そういう自信を持って休める、余白を取れる社会を作ろうという所で、僕らも一緒にやれることがいっぱいありそうなのでこれかもよろしくお願いします!

***

大切にしたい世界観が&anteとも共通しているなと思っているCompathのお二人、安井早紀さんと遠又香さんとのお話でした。
社会の認識を変えていくためには、その社会を作っている私たちの認識から変えていく。
日々の活動も充実させながら、休みたい時には自信を持って休める、自分や大切な人のための余白を作れる、そんな豊かな社会になると良いなと思っています。

今回お話し頂いたCompathさんの「余白のなかで、自分と社会を探求する」
10週間(3ヶ月)ロングコースが2023年1月下旬から開始予定で参加者募集中
です。

生きていくために大切にしたいことをゆっくりと見つめる。
心が動くことに正直に日々選択を重ねる。

今回の記事を読んで思う所があった方は、ぜひCompathさんの素敵なnoteやHPも覗いてみてくださいね。プログラムの詳細は下記からどうぞ。


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