「トレパク」から考える著作権 デジタルツールの普及で得たもの
粘土で彫塑を始めてから、はや一年が経過した。ネットでアート系を中心に情報収集していると、先週あたりから「トレパク」に関するツイートが流れてきた。
「トレパク」ってなに?
わたしが作っているのは、ねんど彫塑でのフィギュア。立体造形だ。彫塑というアナログな作業は、デジタルツールでトレースすることはできない。3Dソフトでデジタル造形することはもちろん、そもそもパクれるようなテクニックもない。「トレパク」とは何のことか調べてみた。
どうやら他人の写真やイラストを「トレース(なぞり書き)」し、その構図やアイデアを「パクる(盗用する)」ことを
「トレパク」
というらしい。
問題なのは
「他人の作品を”無断で盗用”し、あたかも”自分の作品のようにSNSで公開”する」
ことは
著作権の侵害
だとネットで騒がれている。ちなみにデッサンを描くように目で見てそっくりに描く「模写」はトレースとは似て非なるもの。ただしこちらも「自分で描いた作品」としてSNSに公開するのは著作権侵害にあたるという。
こういった「トレパク」行為が検証され発覚するようになったのも、デジタルツールとインターネットがあってこそのことだろう。
創作活動へのハードルを下げたデジタルツール
テクノロジーの発展は、音楽業界にも革命を起こした。
楽譜が読めず楽器演奏ができなくても、既存の素材をコピー&ペーストするだけで楽曲制作や演奏ができる。結果、誰もが気軽に音楽を楽しめるようになった。
イラストにしても同じだろう。
タブレット一つあれば、絵具や筆を持っていなくても指一本でOK。筆や絵の具などの画材や、場所を選ぶ必要もない。手軽にどこでも絵が楽しめる。
お絵描きアプリを使って、既存の写真やイラストを取り込んで加工すれば、点描風や水彩画風になる。絵画の知識やテクニックのない子どもでも、遊んでいるうちに大人顔負けの作品が作れるのだ。
専門的な知識や技術、経験がなくても、気軽に創作活動を楽しめる
デジタルツールの普及は創作活動の敷居をぐんと下げ、すそ野を広げた。
本来なら時間のかかる技術の習得を、一足飛びに形にできてしまうアプリやソフト。しかしこれらに依存してしまうのは、クリエイターとしてはどうなのだろう。知識やテクニックをインプットしないいまま、外側だけを塗り固めることにはならないのか。
表現者、クリエイターとして作品を生み出すにはアウトプットだけでなく、インプットこそが重要だ。それはクリエイティブならジャンルを問わず、アナログでもデジタルでも同じだろう。
音楽や絵画は、技術の習得に時間と手間がかかるものだ。デジタルツールはそれを省けると同時に、アナログ作業では不可能に近い、斬新な作品も作ることができる。これは人類の叡智(えいち)の結晶であり、素晴らしいことだと思う。
だが、今でも人間が身体ひとつで奏でる音楽、筆一本で描いた絵は圧倒的な迫力と生命力、何より息づかいを感じるのが魅力だ。どちらもそれなりに経験しているが、デジタルツールは便利な反面、実は脆(もろ)い側面もあるような気がしてならない。
話を戻すと結局、どのようなツールを、どう使おうと一番大切なのは
「オリジナリティー」とクリエイターとしての
「モラル」や「矜持(きょうじ・プライド)」
ではないだろうか。
「他人の褌(ふんどし)で相撲を取って」まで、注目されたいと思う、その心理とは。人間の見栄と欲は、想像以上に深い。
盗用(パクリ)を続けても、自分だけのオリジナリティーは生み出せない。借りものの個性で築いた砂上の楼閣は、ふとしたことで崩壊する。
人の作品を「パクって」自分のオリジナルだと偽っても、見る人は見ているし、気付いている。注目されたいがためのウソはいけない。
ウソをつくと必ずと言っていいほど、どこかでつじつまが合わなくなる。
世間の目は節穴ではないし、人間はそれほど器用な生きものではない。後ろめたさは小さなほころびから、周囲にじわじわとしみ出して気付かれてしまうものだ。
音楽や文章も然り。
自分の中に蓄積され、血肉となったフレーズが再構築されて生み出されたものと、他人のフレーズを拝借してアレンジしたものとは雲泥の差がある。
文章だと、語調や語尾など微妙に表現を変えていても、原作者は気が付く。一見してそうだとわかるイラストに比べると、言語表現は「パクリ」だと検証しづらかったりするのが難点だが。
「一般大衆を甘く見てはいけない。世間には高い見識を持った、目の肥えた人間はたくさんいる」
「読者は購読料を払い、貴重な時間を使って読んでいる。どんなに短い文章でも手を抜かず書いてほしい」
事あるごとに、かつて職場のデスクに言われた言葉を反すうしている。
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