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兄の笑い声 / 鬱と血反吐と精神労働

起業家という道を経て、今は二作目の出版を目指している橋本なずなです。

鬱です。
人生ログインマーク、絶賛 OFF 状態の橋本なずなです。

先日、原稿の執筆を終えて、少し疲れを感じた私は飲みに出掛けようと身支度をしていた。
その日は生理中で気分も浮き沈みが激しいし、交際中のパートナーも帰りが遅いということで、家でじっとしているよりは外に出て気分転換をするほうがベターだと思ったから。

シェーディングで鼻筋を作っている時、電話が鳴った。

スマホの画面には “お兄ちゃん” の文字が。
一瞬、見間違いかと思って目を擦った。アニメみたいな動作するやん、と自分でも思った。

けれども見間違いではなく、兄からの電話だった。

「 はい? 」
『 あ、なず?ヒュウガですけども 』
「 お兄ちゃん、どうしたん? 」

母が亡くなった日以来の会話。
用件は、母の相続について役所から書類が届いていて、私の住所などの記入が必要だから教えて欲しいとの事だった。

「 じゃあ住所はあとで、ショートメッセージで送るね 」
『 うん、よろしく。・・・あ、ちなみにやけど、結婚して名前変わってたりせーへんよな? 』
「 いや、変わってへんよ (笑) 」
『 そっかそっか、そうやんな。いや、一応な?(笑) 』

それだけの2,3分の会話。

その時は何も思わなかったのだけれど、身支度を済ませて家を出て、飲み屋街に向かって自転車を漕いでいる時にふと思った。

———  あぁ、私、お兄ちゃんと仲良くしたいだけなんだ。

その日書いていた原稿は、兄をはじめ、親族に対する憎悪が強く描写されるシーンだった。
絶対許さないって、みんな敵だって、母の死に際した彼らの行動を批判する内容だったけれど、その後に掛かって来た兄からの電話と、最後に少しだけ兄の笑った声が聞けただけで。
私はあまりに単純に、強がりの鎧が溶けてしまった。

14年ぶりの僅かの談笑だった。

悔しいのか、虚しいのか、嬉しいのか。よく分からない感情になった私は、その夜は良くないお酒の飲み方をしてしまった。

後から合流した友人とも話が弾んで、見事に泥酔。
迎えに来てくれたパートナーの介抱が無ければ、あの後どうなっていたかと考えるとゾッとする。


翌日、お酒は殆ど抜けていたけれど、心には鬱が住み着いていた。
生理から来る鬱っぽさなのか、単純な鬱なのか、判断は難しい。

ただ一つ、やはり母の死以来、私は鬱状態であると思う。
“日々過ごす中での感情の起伏” と呼ぶにはあまりに激しく、高頻度で、私の心は上がり下がりを繰り返している。

きっかけは別件でだけれど、最近はまた精神科の通院も再開して、幾つかの薬を飲みながら生活している。
その薬のうちの一つがとても相性が良くて、頓服薬なのだけれど今のところ毎日、多い時では1日に2錠服用する事さえもある。

特に、今取り組んでいる原稿は、心を強く擦り減らす。
私は常々、自分のことを不器用な人間だと思うのだけれど、
「 精神労働をするからつらくなるのに、それ以外のことができない 」のが橋本なずなというヒトなのだ。

執筆、特にノンフィクション作品の執筆は、実体験をもとに描くから過去のつらい経験や苦しい思いを意図的に呼び起こす必要がある。

私はこれを “精神労働” と呼んでいるのだけれど、世の中にはそれをせずともできる仕事など、幾らでもあることを知っている。

けれども私が虜になり、夢中になったものが、主にノンフィクションの作家活動だったから、以来、私は精神労働を続けている。

ある意味、悪い男に引っ掛かったようなものだ。

血反吐を吐く思いで取り組んで、実際に吐くこともあるし、泣きながら書くことなど毎日のこと。

自分を傷付けながら、「 自分 」を表現している。

結局は、社会に揉まれ、好きでもないお仕事をして、同調圧力と集団生活を強いられるよりは、精神労働をするほうがよっぽどマシなのだ。
そんな私は、あまりに不器用だと思う。

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