ワインとウィスキー [前編]
起業家という道を経て、今は二作目の出版を目指して執筆活動に明け暮れる橋本なずなです。
「 足るを知る彼と、満たされない私 」「 一瞬のジャンクション 」など、
幾つかのnoteにも書いてきた意中の彼との恋が、少し前に思いもよらぬ形で破れてしまった。
涙は流れなかったけれど、ちゃんと落ち込んだ。
だがしかし、何を隠そう今の私は人生二度目の爆モテ期を迎えている。
彼との恋に破れた後にも、私のスケジュール帳には他の男性たちとの食事の予定が控えていた。
今日書くのはそんなお話。
先週末の話をしようか。
土曜日は “ワインさん” こと 36歳のソムリエの男性と、日曜日は “ウィスキーさん” こと 31歳の弁護士・減田さんとの食事の予定があった。
( 減田さんとの出会いは 先日書いたnote を見て欲しい。)
意中だった彼も含め、最近は年下の男の子に好かれることが多かった。
しかしこの週末の男性たちはどちらも30代。爆モテ期 Season2 -アダルト編- の開幕か。
——— 土曜日 18:00
JR福島駅に待ち合わせた私たちは、駅から徒歩3分程のラム肉専門の焼肉屋さんに訪れた。
高級感のある店内に気が引き締まる。
ワインさんはお仕事で関わりのあるワインソムリエさんで、寡黙で控え目で気品のある人だ。
食事に誘ったのは私のほうで、男性的に好きだとか恋愛的な視点で見ているわけではないけれど、どんな人なんだろう?と気になって声を掛けた。
お仕事ではあまり深く話すタイミングが無いから、休日に時間を合わせ、話をする機会を持てたことが嬉しかった。
「 お休みの日は何してるんですか? 」「 学生時代は何してたんですか? 」とか、私はお肉を焼きながら幾つかのジャブを交わす。
目上の人と食事に行く時、私は “取り分け係” を買って出る。相手が男性でも女性でも。
特に男性であれば、“出してもらって当たり前” とは思わないけれど、やはり一回りも歳の離れた女の子と食事に行って割り勘にする人は殆どいない。
だからそのお礼ではないが、食事中は相手に心地良く過ごしてもらう努力をするのは目下の任務だと思っていたりする。
だから私はお肉を焼き、サラダを取り分けていた。
「 お仕事の関係の人とご飯に行くことはよくあるんですか? 」
『 いやいやっ、全然ないですよ 』
私の質問にワインさんは首を横に振りながら答えた。
「 わ、そうなんですね。じゃあどうして今日は来てくれたんですか? 」
『 いや、まぁ、誘われたら来ますよ。別に 』
「 えー、ホントにそれだけですか? 」
「 “私に” 誘われたから来てくれたんじゃないんですか? 」
「 実は何か期待しちゃってるんじゃないんですか? 」
・・・とか言いたぁぁぁぁぁい…!!
ワインさんのお人柄は、私のイジワル心を見事にくすぐってくる。
困らせてやりたい、押して押して負かしてやりたい。
漫画やアニメ、アダルトビデオなどでもよくある “ギャルとオタクくん” みたいな構図が私は結構好きだったりする。強め女子最高。
そういう欲求をワインさんには煽られてしまう。
しかしこれはお仕事の関係。そこに支障をきたす訳にはいかない。
ふぅー…
私は心の中で深呼吸をして「 へぇ。でも嬉しいです、お仕事以外でもお時間もらえて 」とニッコリと笑った。
ラムのフィレ、ラムのシャトーブリアンに舌鼓をした後、私たちは大衆的な立ち呑み屋さんに場所を変えた。
「 最近失恋しちゃってー… 」
鉄板ネタの如く、私は破れた恋の話をする。
先日男友達に話をした時もだけれど、ワインさんも同様に【 そもそも何故、彼女が居るのにそれを先に言わず他の女性と食事に行くのか 】という点が引っ掛かるようだった。
意中だった彼の話を男性にすると、誰もが否定的な反応をする。
私は恋心が故に盲目だったけれど、関係が切れてしまって正解だったのかもしれない。
「 でもホントに彼氏できないんですよ、何でなんだろう 」
「 だって私、可愛いじゃないですかぁ 」少し傲慢に、鼻と頬を膨らませて言ってみる。
「 可愛いし、若いし、自分で会社もしてるし、作家もしてるし、」
『 明るいし 』
おぉ⁈ まさかのラリーに私の心はうさぎのように飛び跳ねた。
調子に乗ってついつい欲張る。
「 それからそれから??👀✨ 」
『 えぇっ(笑) 』
『 気も遣えるし、自立してますしね 』
「 わぁ、ありがとうございます。お酒がウマいわぁ(笑) 」
時刻は22時を回った頃。
私たちは環状線に揺られながら、各々の帰路に着いた。
ワインさんは思っていたよりもラフに楽しく話せる人だった。
私は自分の話をする時、頭で考えながら言葉を並べる。
故に話がゆっくりに、且つ長くなってしまうことがあるのだけれど、ワインさんは私の話を最後まできちんと訊いてくれる人だった。
途中で質問をするのでも結論を急ぐのでもなく、お喋りな私の話を ウンウン と頷いて訊いてくれる人だった。
私はワインさんのことを前より少し好きになった。
そして最後に、ワインさんは私の本をその場で買ってくれた。読んだらLINEで感想を送りますねと言って。
心は十分にあたたかくなっていたけれど、明日は “ウィスキーさん” こと弁護士の減田さんとの食事がある。これも期待値は大きい。
その夜高く昇った満月は、私の家路を明るく照らしていた。
( 後編に続く )
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