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一人旅行で考えた事

1.駒ケ根に行く

15年ぶりに長野県駒ケ根市に行くことにした。
韓国済州島のハルラ山登りを親に止められ、山の温度もマイナスだったことから初めての登山(しかも一人旅)にしてはレベルが高いと判断したためだ。

駒ケ根市には15年前少しだけ住んだことがある。
青年海外協力隊の訓練所があるのだ。
冬の駒ケ根で3か月ほどお世話になった。
九州出身の私は初めてのつららに驚き、雪合戦などの雪遊びも思う存分した。
もちろん朝の朝礼から夜遅くまでの勉強、海外に行くにあたっての研修など大変だったが充実していた。
そうして、駒ケ根からバングラデシュへ飛び立った。

それから15年。
バングラデシュ、岩手、奈良、京都へと私の住むところは変わった。
結婚し、家族もできた。
日々目の前のことで精いっぱいだが、40歳になり、残りの人生何か自分の指針となるようなものがほしい。
そう思ったとき、ふと駒ケ根の山が頭をよぎった。

山登りはできそうにないが、千畳敷くらいまでならいけるのではないかと思ったのだ。
千畳敷には日本で一番高い駅があり、そこから駒ヶ岳などの本格的な登山もできる。
何より、また駒ケ根から始めてみよう、という気持ちになったのである。

2.旅のお供

旅のお供は福沢諭吉の「学問のすすめ」とした。
一人旅行に出かける時は本を持っていくようにしている。
今回は小説を読んでも、ビジネス本を読んでも、自分の慰めとならない気がしていた。
現代の人が書いたものではない、古典や哲学書が読みたい気分だった。
最初彼の「福翁自伝」と迷ったが、こちらは大学時代に勉強したことがあったので、読んだことのない「学問のすすめ」を読んでみることとした。

本は行きのバスとホテルで読み終えた。

ちなみに長距離バスで本を読むようになったのはバングラデシュの経験からである。地方都市に住んでいた私は、首都に行くため片道8時間以上の道のりをバスで移動していた。
暇だった私はよく本を読んでいた。
駒ケ根に行く途中、本を読みながらそんなことを思い出していた。

ホテルに就いた後も本を読み進めた。
「学問のすすめ」はこれからをどう生きていこうか、何を学ぼうか、そんな事を考えている自分に、小手先の技術ではなく、大きなチャレンジをせよ言われているような気持にしてくれる本だった。

本を読むまで、諭吉のことは堅物のおじさんだと思っていた。
ジェンダーなどなく、差別的で、古い考えの持ち主だと勝手に思っていた。しかし本を読んでみるとそんなことはなく、どちらかというとユーモアのある先生だったのではないかという気がしてきた。
また当時にしてはとても近代的な思想の持主だったと思われる。

本を読みながら、自分が日々目の前のことに追われ、小さなことに一喜一憂しストレスをためている事が恥ずかしくなった。
何か、もう一度、自分の能力を活かして世の中のためにできないかというような事を考えた。

3.千畳敷カールへ

そうして駒ケ根のホテルで一泊し、翌朝千畳敷へと出かけた。
秋晴れの、雲がほとんどない日で、山に行くのはちょうどいいななどと考えていた。

駒ケ根駅からバスに乗り、ロープウェイまで行く。
途中のバスターミナルからは沢山の登山客が乗っていた。
私は靴こそ登山靴だったが、それ以外は普段着だったので山に行けるだろうかと少し心配した。

ロープウェイ乗り場に行くまでの山は曲がりくねった道をどんどん登っていく。
途中、紅葉が見ごろで、川の水も澄みとてもきれいだった。

そういえば、バスに乗って気が付いたが、普段空を見ることが減っていた。
人間下を見るより上を見るほうが気分が上がるらしい。
日頃したばかり向いて過ごしているから、自分の気分が上がらなかったのではないか。
もっとのんびり空を見る時間を持とうと思った。

そうして、ロープウェイに乗り千畳敷カールへ向かった。

到着した千畳敷はもう冬だった。
雪があちこちにあったし、深い霧であった。
パンフレットの写真に見る青々とした風景はどこにもなく、まばらな雪が足元にある寒い世界だった。

それでも、と、雪がちらつく中遊歩道を散歩した。
途中登山道から登山に行く人たちが見えた。
本格的な装備をして、ごつごつした石の上を登っていく様子を見ながら「これは普段不摂生をしている私にはできない」と思った。

遊歩道を歩いていると、時折霧が晴れて下のほうに町が見えた。
そんな町や山をバックに写真を撮ったり、ベンチに座って持って行った水筒のお茶を飲みながらぼーっとしていた。

山に登ったら何か変わるというわけではないけれど、何か、また頑張ろうという気持ちになって、誰もいない事を見計らって
「これからだー!」
と言ってみた。
寒くて、思っているような景色ではなかったけれど、自分を鼓舞したい、そう思ったのだ。

4.下山と帰宅

そうして、山を下り、途中温泉で昼食とお風呂に入った。
今、戻りのバスを待つため、中心街のファミレスでこれを書いている。

15年前に駒ケ根に来た時、国際協力を仕事にしたいと考えていた自分が夢を叶え、「これからだ」と期待を膨らませていたのを思い出した。

今は何か希望を持っているだろうか。
それは社会や世の中を明るく照らすだろうか。
日々、自分のためだけに時間を使っていないだろうか。

「これだ」というものはすぐに浮かばないけれど、あの時持っていた気持ちを思い出し、自分だけではなく少しでも世の中の役に立てるよな、そんな人間になりたい。


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