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✍️100秒小説 | 今どき百鬼夜行

『えー今宵は7月最初の戌の佳き日ー百鬼夜行開催の刻となりましたーどなた様も奮ってご参加くださいましーまた心臓の弱い方ー陰陽師組合の皆さまー本日は外出をお控えくださいましーー』

 遠くで今夜の始まりを告げるアナウンスが聞こえる。妖怪になって初めての夏が来た。

 雨天中止の百鬼夜行とあっては、今年はさぞかし嬉しかろう、と思いきや集まった妖怪はなんと100にも満たない。

「今夜は50人かぁ、多いねー」

 やっぱり夏は違うなー、と続ける雪女。百鬼夜行なのにこの集まり具合、一体大丈夫なんだろうか。

 「大丈夫っていうか、ちょっと前まではこういう行事、強制参加だったじゃない?それどうなのよって去年あたりに議題にあがって。それから任意参加よ」

 それはなんだか、あんまりだなあ。せっかくの伝統行事、自由主義で廃れていくには惜しい気がする。

「ほら、昨今はコンプラ厳しいから」

 かくいう雪女も、今夜のところは子どもを山の麓の保育園に預けて来たらしい。
最近は時短参加も好意的に受け入れられているし、ポジティブな動きも忘れちゃいけない。今度貰ったコンプライアンスブック、ちゃんと読もうかな。

「そういうもんなんですねぇ」

 僕の呟きに反応して、周囲の妖怪共は代わる代わる僕の肩を叩いていく。
 どうやら新入りを激励してくれているらしい、同時にこれはパワハラではないから、と言い聞かせるような力加減が切ない。

「少し暑いけどさぁ、楽しいよね夏夜行」と雪女、今夜は随分お世話になりそうだ。

「水買ってきたよー」と先方から化けぎつねの声がする。いよいよ本番だ。

 さぁてここから本領発揮、涼しくなりたい方はどうぞ戸を開けて。
 夏の百鬼夜行は日本全国、どこでも驚かしに参りますよ。

「今どき百鬼夜行」
 文:az 絵:iz

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