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ミステリードラマはお好き?(続)ー朝ドラ「虎に翼」5月3日の法廷劇

ええ?これミステリードラマなのと言われてしまうかな。だってこのドラマ、差別にめげず、地位向上や社会進出のために障害を取り除きながら道を切り開く女性のエンパワメントの話じゃない?

でもこのエンパワメントの話に「法律と市民社会」についてもサラリと入れ込んでいる。ま、このドラマは初代女性裁判官がモデルの話だから法律は避けて通れないことなのだが。そして今日は「憲法記念日」というこの日に、ドラマでは裁判の判決日をぶつけている。(ネット上では神回と盛り上がったらしい)

戦前の司法界でも法を守ろうと尽力した真っ当な人がいたのだと自分の偏見を反省した。1930年代は戦争に進んでいく暗黒の時代。全て挙国一致の掛け声の元、法律など蔑ろにされた暗い時代と勝手に思っていたから。

ドラマの中で、主人公は「法とは何か」について、たびたび彼女の認識を彼女の言葉で語っている。その平易で素朴、でも深い彼女の思いに視聴者である我々は共感する。今までにないバージョンアップした朝ドラーちょっと啓蒙的!(このドラマ法曹界の女性に高く支持されているようだ)

主人公の考える「法律とは何なのか」:

私は法律って守るための盾や毛布のようなものだと考えていて、私の仲間は戦う武器だと考えていて。

でも今回の件(父親の冤罪事件)でどれも違うなって。法律は道具のように使うものじゃなくて何というか法律自体がまもるものというか。例えるならば、きれいなお水が湧き出ている場所というか。

(水源のことかー聞き手の言葉)

はい。私たちはきれいなお水に変な色を混ぜられたり、汚されたりしないように守らなきゃいけない。きれいな場所にお水を正しい場所に導かなきゃいけない。
その場合法律改正をどう捉えるかが微妙なところではありますが…。

今週月曜日から金曜日までの5つのエピソードは、罪を自白した父親を含む16人の被告が無罪になるまでの裁判劇だった。このエピソードは実際にあった「帝人事件」をベースにしているらしい。当時の検察の実態、軍部と政財界の暗躍など、現在起きている問題となんら変わらない。相変わらず「金」にまつわること。

ドラマでは、政財界などの16名が検察に起訴され、その結果内閣総辞職となる(が、ことはそう単純ではなく現内閣を潰すために仕組まれた疑獄事件だったと新聞記者に語らせている。つまりは権力闘争)

政治学者の菅谷幸浩さんは「政財界から16人が逮捕、裁判にかけられたが、4年後には全員無罪になる。これは当時の軍部も絡んだ複雑な政局と、無根拠のマスコミ報道によって作り出された、教訓の多い歴史的事件だ」という――。(president onlineより引用)

検察の手法は今でも変わらぬ「自白の強要」一旦自白してしまうと法廷で覆すのは至難の業だ。ほぼ覆されないと言われている(現在でも逮捕時に自白した調書は裁判の行方を決するという)

だが16人の被告弁護人の前で無罪判決を求めて争うべきだと主張する。その時の主人公の言葉:

(自白を覆すのは大変な作業だ)
「でもそれは真実から目を背ける理由にはならないはずです。法は強きものが弱きものを虐げるためのものじゃない。法は正しいものを守るものだって私は信じたいんです」

そして出された判決文。

(判決文)
主文被告人らはいずれも無罪。
検察側が提示する証拠は自白を含めどれも信憑性に乏しく本件において検察側の主張するままに事件の背景を組み立てんとしたことはあたかも水中の月影をすくい上げようとするかのごとし。すなわち検察側の主張は証拠不十分によるものではなく犯罪の事実そのものが存在しないと認めるものである。

日本の裁判は原告が「負け」と相場が決まっていて、公平な司法の判断なんて存在するのかと常に思っていたが、戦前の暗い時代にこんな光を放つケースがあったのですねえ。

「水中の月影をすくい上げようとするかのごとし」 オリジナルは、

「あたかも水中に月影を掬(きく)せんとするの類」「空中楼閣」とも。

主人公の恩師はこの判決文を書いた教え子の裁判官にロマンあふれる名文と評している。憲法記念日に法の大切さを語るドラマ。ちょっと憎いと思いませんか🤔

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