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ミステリードラマはお好き?(続)ー”Professor T”(テンペスト教授の犯罪分析ノート)

(タイトル写真はdramanavi.netから転載)

このドラマはもともとベルギーで放送されて人気を博したもので、それをイギリスでリメイクしたものである。事件解明の過程で登場する人物についての丁寧な描写は、ドラマの主人公の犯罪分析の手法「観察すること」に沿ったものだろう。

このドラマの主人公ジャスパー・テンペスト教授のキャラクターが受け入れられない人には見続けるのが困難かもしれない。このテンペスト(“Tempest”とは大嵐という意味)、タイトルからして奇異な雰囲気を醸し出している。私はこの教授のキャラクターにひかれた。ネットの感想欄には嫌いだという声があった。

冒頭から彼の異常なまでの潔癖症が描かれる。手を完璧に洗い、消毒し、ゴム手袋をはめる。その手で1日を過ごす。公共の空間にある椅子や机や本などは決して直接触れず、ハンカチを敷いて座る。

彼の表情筋はほとんど動かない。つまり感情を表さない。笑うことも泣くこともない。事件についての自分の分析を理論的かつ冷静に述べ、他の刑事の推理を論破する。彼はIQ160の天才で、ケンブリッジ大学で犯罪学の教鞭を取る教授である。

「犯罪学とは犯罪を学ぶだけでなく、探究するための学問だ。人間の精神と社会そしてその2つの絶妙なバランスを学ぶ」とは彼の言葉である。

彼の観察眼、分析能力がすごい。じっと人物観察をして「非言語行動は実に興味深い。顕在意識より役に立つ」とか「犯罪の前には必ずほころびが出る。それを見つけ出す」と言って膨大な写真の中からほころびを見つけ出し犯人特定に導く。彼の解説は奥深く哲学的でさえある。

学生にも辛辣で苦情が絶えない。口頭試問では容赦なく落とす。空気を読んで、他人の感情に配慮して言葉を発することはしない。ただ事実だけを述べる。でも決して悪意からそうしているのではなく、内面は繊細で優しい人に違いないと思わせる雰囲気をたたえている。でも周りにいたらうっとうしい人間かもしれない。

なぜ彼がそんな人間になったのか。ストーリーの中で幼少期の出来事がたびたび現れる。どうもその出来事がトラウマとなって、彼は心を閉ざしてしまったようだ。何重にも防御壁を作りその中に閉じこもって生きてきたようだ。

トラウマとなった出来事とは、扉の隙間から垣間見た父親が首吊り自殺をしてぶら下がっている姿だ。父親は、家庭内暴力が凄まじかった。自殺した日、父親は母親に暴力を加えていた。そこでジャスパー少年は猟銃の銃口を父に向けた。だがその後銃を捨て扉の陰に逃げ込む。そして扉の隙間からのぞいた時、目にしたのが上記の光景だったのだ。

シーズン3の終盤、彼は母親からあの日の真実を聞かされる。それは、「父親の自殺の理由は息子である自分に失望したからだ」とずっと信じてきたことと、全く違っていた。真実を知らされないまま自分は心を閉ざし、感情を押し殺して生きてきたのだ。そんな人生に自分を追いやった母に裏切られたという思いから、母親に激しい怒りを覚える。

だが母親が真実を語らなかったのは、息子を守るためだったということに思い至り母親と和解する。この母親がなかなかいい味を出している。画家なのだが、自分の飼っているチワワをモデルにした絵しか描かない。犬の名前はカフカ。他人に忖度しない言動はこの母親譲りかもしれない。息子の昔の恋人に出会った時に交わされた会話が笑いを誘う。

元カノ:お久しぶりですね。相変わらずお若いですね。
母親: ありがとう。あなたは老けたわね。

と言えてしまうこの母親はただ者ではない(笑)

テンペスト教授は何かに取り憑かれたように白昼でも妄想にかられる。彼には忘れられない女性がいる(上記の元カノだが、シーズン1にきっと描かれているのだろうが、結婚式まで行ってドタキャンした女性のようだ)相手の女性も彼を思う気持ちは同じようで、2人の思いは目を見つめ合うだけで通じ合っているようだ。

エピソードの中で必ずアパートの屋上からケンブリッジの街を眺めるテンペスト教授の姿がある。その時の彼の表情は穏やかだ。遠くを見つめる彼の姿は、自分の押し殺している感情を解放しているように安らかだ。やがて彼は防御壁を打ち破り、本当の自分を受け入れる。その時ゴム手袋を取り、母親の手を握る。そこには目を潤ませ、にこやかに笑う彼の姿があった。

(ミステリーチャンネルより転載)

ドラマに流れるこのテーマ曲はどこか懐かしい気分にさせる。

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