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私とタイちゃん

文・マリアム(ヨルダン出身・パレスチナ人)

10月7日、初めてうちの猫を連れて公園に行った日だ。猫は、名前が「Shams」、アラビア語でつけた。日本語だと、「太陽」だね。

タイちゃん

でも、とりあえず『タイちゃん』と呼ぼう。3年前に飼ったの。世界で一番好きな存在なんだ。

名前のとおり、時々消えたいと思っちゃうほどの人生の暗闇を、どんなに暗くても、それを全部照らす太陽だ。

だけど、知らないものがすごく怖いの。ビビり猫というんだね。


私は自然が好き。どんなところでも、自然があれば私は平気。大学だって、辛かったけど、どこ歩いても自然があるから、なんとか超えぬいた。

歩いてたら、周りの自然を見てぼうっとする。急に立ち止まって、人から見ると全くどうでもいい物に気づいて、「あ、魅力的だなー」って思って、笑ったり写真とったりする。

逆に、残念ながら植物を大切にするのがすごい下手だから、家にはないなー!でも、タイちゃんがいる。

10月7日は、タイちゃんはずっと怖いとニャーニャーして、うちらが座ってた席から全然動かなかった。動かそうとしても、ずっとニャーニャーして、必死に抗って立ち止まりたがった。

結局、タイちゃんを運んで、いろんなところに下ろした。幸い、週末の真昼間なのに、人が少なかった。あと、公園はとても広くて、自然だらけで、その間に歩道。

タイちゃんの外への第一歩にピッタリだった。少し変えるために、タイちゃんを木に乗せて、反応を見た。タイちゃんは挑戦にのって、自分で下りようとしたけど、結局怖がったから下ろした。

家に帰ったら、鍵がロックに回る音を聞くたびにドアの方へ走って、出かけようとする。当然、ビビりのままだけど、新たな世界に向き合う勇気がちびっと生まれたみたい。

それで、空、星、山、風、海、砂、雪、雲、稲妻、森、土、石、影、そして当然太陽、世界中回って、自然の全部をタイちゃんと経験するのが私の夢なんだ!

降りた土地の自然を回って見ながら、その土地の人と話したい。

母国の自然とどんな関係を持っているのか、どう生活に影響をしているのか、生活の話も、祖先の話も聞きたい。


一つだけ行けないところがあるんだけどね。

パレスチナだ。

私の故郷だ。

今ヨルダン人なんだけど、家族が元々パレスチナ人なんだ。

祖父は5歳の頃故郷から追い出された。

『パレスチナ』は今、無理やりにつけられた『イスラエル』という名前で呼ばれている。75年以上、一方的に潰されている。ずっと何十年暮らしてきた家も奪われて、壊されている。子供であろうと、女性でも少女であろうと、少年でも男性であろうと、赤ん坊でも高齢者であろうと、猫でも花であろうと、『パレスチナ』のだったら、どの存在にも関わらず、ずっと75年以上、まるで存在する資格がないような攻撃が続いてる。

私とタイちゃんの貰った時間で、いつか安心してタイちゃんを連れて行けるのかな。私とタイちゃんは、『パレスチナ』の空、空気、海、山、森、『パレスチナ』の全部を飽きてしまうほど経験できるのかな。

生き残ったおじいさんばあちゃんに、土地との話が聞けるかな。

すごく優しくて、穏やかで、すごく寛大な故郷の人にタイちゃんを紹介して、世界を回った猫、『太陽』だからなんて、笑って自慢できるのかな。パレスチナに帰って、胸を張って、『パレスチナ人』という尊厳を取り戻せるのかな。

パレスチナの長い長い闇がいつ照らされるのかな。パレスチナは、『パレスチナ』に戻るのかな。

なんて、10月7日の、泣きたいほど魅力的な青空を眺めながら、考え事してた。


(この記事は、中東と北アフリカで日本語を学ぶ人たちが集まる「ヤバニカ」というブログに投稿されたものを、本人の許可を得て掲載させていただいたものです。他にもパレスチナやヨルダンなど、中東から北アフリカの地域で日本語を学ぶ人々が日本語で記事を書いているので、ぜひご覧ください。
https://yabanika.blogspot.com/2023/12/blog-post_80.html



[告知]
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私たち草の根主婦たちと、パレスチナにルーツを持つ人々とをzoomでつないで、お話を聞く予定です。草の根の人々が集い、パレスチナに思いを馳せる場を作れればと思っています。

参加事前登録またはご質問はこちらからお願いします。
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