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《木曜会:5月9日》

和尚の目は鋭過ぎる、もっとバカにならねばいかん

仏教の源流を探しにスリランカへ旅する前の釈宗演に向けて、山岡鉄舟が投げかけた言葉

ここ2日間は肌寒い。桜の開花を楽しんだ先月よりも気温は下がり、着衣に頓着しなければ、すぐに風邪をひいてしまいそうである。先日、ヒゲの男が室内でゲームをしていると近くで救急車のサイレンが鳴り響いた。そして鳴り響いたその直後に金属が潰れる鈍い轟音がした。

金属の鈍い異音がした後に救急車のサイレンがなるのであれば、それは交通事故の現場に救急車が到着したのだと結論づけることができるが、今回は一般的に思い描くものと順番が逆だったので、ゲームを置いて外を見回すと救急車の左腹にタクシーが突っ込んでいた。

突っ込んだ方も突っ込まれた方も無事なようだ。しばらくすると現場確保と検証、交通整理のためパトカーが2台到着する。交通量の多い交差点でのできごとであるため、一時的に現場は混乱する。さらに2台のパトカーと新たな救急車が応援にやってきてバリケードを作る。あまり上手ではない。そのため、二次的な事故が起きるのではと見ていてハラハラする。

交通量が多く、事故が多発する交差点などにおいては、予め通常の監視カメラよりもさらに高俯瞰のカメラを設置しておき、現場に到着した警察官がタブレットなどで自分たちの配置・配備の位置を確かめることができれば、もっと安全に職務遂行できるのにと、ヒゲの男は考えるだけで何もせずに様子をジッと見ている。

すると小雨が降ってくる。「雨の中、大変だな。傘でも持って行こうか」と考えたが、いらんことするなと言われるだろうと思ってやめた。その雨を境にして一気に大阪の気温は下がってきた。

さて、木曜会——。

19時前、コロマンサに入るとクラシック音楽が流れている。音源の録音状態の古さと特徴的なピアノの和声で「これはラフマニノフ自身が演奏している、ピアノ協奏曲第3番ですね」とヒゲの男は当てずっぽうで万作に問うと、果たして正解であった。万作には大層驚かれた。

ラフマニノフは非常に手が大きい。これは彼自身が巨人症であったとも言われることに起因するが、その大きな手を持ってして驚異的な技巧を駆使して曲を作るわけだから、一般人からすると演奏は至難を極め殺人的である。

「初期ファミコンのゲームにはいろいろなクラシック曲が使用されていることを最近知ったんですよ」と、その場にいたファラオはヒゲの男に教えてくれる。ニコリともせず。

  • 『チャレンジャー』➡軍隊行進曲(シューベルト)

  • 『プーヤン』➡ユーモレスク第7番(ドボルジャーク)

  • 『デビルワールド』➡「くるみ割り人形」より(チャイコフスキー)

  • 『忍者ハットリくん』➡アルルの女(ビゼー)

幾つかの例題を挙げてくれる。なるほど確かにポップス曲より器楽曲の方を使用する方が、当時のファミコンBGMとの親和性が高かったのだろうと考える。「クラシックの曲そのままじゃないけれど、元ネタはクラシックやんっていう曲も沢山あったなあ」とヒゲの男は懐かしい時代を振り返る。

例えば、世の子供たちが夜を徹して聞き続けたであろう超有名なこの曲。

ドラクエ発売から遡ること96年前に作曲された、ドビュッシーの名曲。

異世界のフィールド上の音楽で、この中世(※)を彷彿とさせる旋律を持ってくる、担当者のBGMセンスの良さには脱帽である。日本中の子供たちは、中世の気分で夜を過ごしていたのだ。※ドビュッシーは近代の人なので、中世というのはさらにさらにもっと前のこと。

その話しをしていると、ドンドンドンと気だるそうな足音が階段を昇ってくる音が聞こえる。魔物冷泉と闇落ちのリサが到着したのだ。すぐ後に冷泉が京都から召喚したというデザイナーのブラックジャックさんがやってくる。真っ黒な革ジャンに身を包んだその姿は、とてもオリジナリティがあった。

ブラックジャックさんと冷泉は、医療関係における生成AI活用について今後はお互いに意見交換していくのだと教えてくれる。彼が自作したという基幹システムの一端を覗かせてもらったが、なるほど、これは非常に便利なものであることがすぐに理解できた。

すると、お寺にプロジェクションマッピングを用いて高次元へ解き放つ活動をしている狂ちゃんが恐ろしいほどラフな格好でやってきて、それと全く対を成すようにエルメス風のスカーフをシンプルノットに巻いた元アナウンサーの女も木曜会に参画してくる。

「なんで、ファラオさんはファラオさんなんですか」と闇落ちのリサが問う。これはリサが彼の存在を哲学的に問うているのではなく、シンプルに名前の由来を問うているのだと全員がわかった。

2018年頃より、一介の稲垣宏年が『ファラオ』を名乗りだして、早くも6年が経とうとしている。これまで、いろいろな人に問われる度に何度となく答えてきただろう労苦を考えると、なかなか興味深い。ファラオがファラオになって間もない頃の貴重な写真が出てきたので、以下に共有したい。

2018年3月頃

パッと見では何をしているのかわからないが、これは「圧力」の実験をしているところである。男が3人いる。向かって一番左が冷泉、一番右のオレンジが元ラガーマンで現在は三重ホンダヒートで通訳・渉外スタッフとして活躍するクモン提督である。真ん中に挟まれて薄くなっているのがファラオだ。

クモン提督のfacebookより引用

実験主旨はカンタンなもので「ラガーマンの本気のスクラムの圧力はどれだけスゴイのか。実際に挟まれてみよう♪」というものであり、勇敢なるファラオが危うく血を吐きそうになったことから推察しても、相当な圧力だということが理解できた。

ついでに全く関係ないが、イーデヤンスのCEO片山が冷泉と友好的な話し合いをしている懐かしい画像も出てきたので共有しておく。

魔物に遭遇した人間はこんなにも豊かな愛想笑いの表情をするのかと、この瞬間を撮影したカメラマンを褒めたい。

話しを木曜会に戻そう――。

「そうだ、阿守さん、9月に個展するんですね。行きますよ」と元アナウンサーの女は言う。その声がガスガスであった。

なるほど、彼女自身その経歴を買われスピーチコンサルなどを企業から依頼されており、春という時期は多忙を極めていたことが枯れた声からわかる。

以前の自分の商売道具を一時的に犠牲にしたとしても、クライアントひいては社会に貢献する姿勢、またそこでの戦傷を自然そのままにしておくのは、とても格好がよい。そんな彼女は秋から旅行三昧の計画をしているという。

狂ちゃんは兵庫のド田舎で新興宗教の勧誘に遭ったことを話してくれる。彼女の宗教を見つめる旅路はまだまだ続きそうである。

しばらくして、アラタメ堂のご主人も酒を持参でやってくる。兵庫のド田舎出身の万作はアラタメ堂の酒を味見してから「う~ん、これ言うて、アラタメ堂さんがお酒を持ってきてくれんようになったらアカンので、本来であれば言わん方がええんやけれども、う~ん、この酒、個性がないですね」と、照れ笑いしながら誰からも本来は求められていない感想を言う。

この言葉の前段って要るんかなと誰もが感じた。常連の不思議な女がやってきて、ブラックジャックさんにギターを弾かせ、何やらセッションをする。ヒゲの男は極端に寝不足であったため、酒も進まないし、なんだか会話に集中力もなくボーっとしていた。

ただ、セカンドストリートで入手した250円のズボンについては大いに語った。「そんじょそこいらのセカンドストリートではなく、今回は大和郡山店にまで行ったのだ」とワケのわからない自慢をする。「パナソニックの工場があるところですね」と、さすが奈良県民のファラオは土地勘がある。

しかしながら、ヒゲの男が最も伝えたかったことは『ロピア』という聞き慣れないスーパーマーケットを初体験したことだ。入った瞬間、このスーパーは何かおかしいと感じた。なんだろうか、社会主義・共産主義の名残ある国に来たみたいな違和感と既視感。

普段行き慣れている『LIFE』や『KOYO』や『AEON』とは何かが決定的に違う。店内でかかっているBGMも不思議なテンションのものだ。

ヒゲの男はこの不思議さが気になり、後日の検証題材とするためロピアの広告チラシを記念にもらってきたほどであった。同じスーパーばかりに行くことで、いつしかキャッチコピーやブランディングなどについて標準化・同質化していた自身の価値観を改めて見直さなくてはと痛烈に感じたのだ。

「家の近くに今度できるんですよ、ロピア、嬉しい」とリアクションしてくれたリサは、自身には自己肯定感が無いと悩む。そんな悩める女とロピアの相性は実のところ悪くないのでは?とヒゲの男は思ったが、言わなかった。ロピアの商品は独自性に溢れる商品アピールで肯定感は満載だ。

是非ともロピアのレジに並び「すいません、(L)サイズの自己肯定感とレジ袋をください」と言ってみて欲しいものである。

彼女のここに至るまでの話しに耳を傾けていると、エッシャーが描いた世界を思い出した。ここの住人にならぬよう注意しなくてはいけない。そのことを伝えようとしたが、ブラックジャックさんが何らか話しを始め、前述のことを切り出すタイミングが失われた。

マウリッツ・エッシャー(1898 - 1972)オランダ人画家

先程まで、ブルージーなギターを弾いていて、狂ちゃんに大乗仏教と小乗仏教の辿ってきた道を解説していた木曜会初参加でデザイナーのブラックジャックさんは、気が付けば元アナウンサーの女や自己肯定感のないリサを入念に整体施術していた。

「へえ、そんなこともできるんですね」と意外に感じたヒゲの男が彼に問うと「来月、300人の爺さん婆さん相手に施術せなアカンのです」と懸命に施術しながらデザイナーは答えてくれる。あなたは一体どんな仕事してはる人なんですかと率直に思った。

夜が更け、アマビエとK子が到着して木曜会は歌会となった。

次回の木曜会は、5月16日となります。
皆さまのご来場をお待ちしております。

最後に、狂ちゃんが作成してくれた4コマ漫画をどうぞ。



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