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本とZINE・春から編集のお仕事 恋愛と病について物語を書いています Instagram:@ammesometime

マガジン

  • 0101 ショート・ショートプロジェクト

    2024年に起きた能登半島地震に際してスタートしたプロジェクトです。能登半島の一日も早い復興を願いながら、101話を目指してショート・ショートのストーリーを書き続けます。 note を通してサポートいただいた金額は、すべて「令和6年能登半島地震災害義援金」に寄付させていただきます。能登半島に祈りを込めて。

  • 恋愛エッセイ『ダーリンとあたし』

    このマガジンでは難病とADHDをもつあたしと、おじさんみたいだけど可愛いダーリンの日々のお話をまとめました。こんな恋もあるんだな、と楽しんでいただければ。

  • amme のここ一番

    amme の人気記事をまとめました。

  • 創作小説『つぼみのままの白百合』

    不定期で更新している、成人向け小説『つぼみのままの白百合』をまとめたマガジンです。 ※この小説には性的な表現が含まれます。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします。

  • 創作小説『狗たちの一生』

    約1万文字の創作短編小説。2022年、ある文学賞に応募するために書いたものです。

最近の記事

子どもを持つことは難しいけど

 5月上旬だというのに、じりじりと照りつけるような太陽だ。あたしは電車を乗り継いで、病院に向かっていた。  最近改修が済んだばかりだというその大学病院には、ぐるぐる自動で回る回転扉があって、何だかおかしかった。  まだ朝の9時半を少し過ぎたところだったので、病院の中は混み合っていないようだ。あたしは受付に紹介状を渡して、言われるがまま28番の窓口の前のソファに腰かけた。  まるでホテルのフロアのように、厚ぼったいじゅうたんが敷かれている。絞ったボリュームでクラシック音楽が流

    • 文学フリマ東京へ行きます

      • 【創作ショートショート05】蘭の花はだれのもの

         蘭の花は、ある日突然そこに置かれていた。  朝、出社したわたしは、スチールでできた書類棚の上に大きな白い蘭の鉢植えがあることに気が付いた。 「立派な蘭の花ねぇ」 わたしのすぐあとにやってきた、先輩の上野さんが感心したように呟いた。たしかにその蘭の花は、しなやかな細い茎の先に厚みのある花をいくつも咲かせていた。近寄れば、甘ったるい香りがかすかに鼻をかすめた。 「誰が持ってきてくれたのかしら」 上田さんは、しげしげと鉢植えを眺めている。わたしも一緒に葉の間をかき分けてみたが、こ

        • 近況報告

           あたしは一人きりでこの文章を書いている。都内に越して、約1か月が経った。新しい仕事は、緊張感があって神経を使う反面、刺激的だ。 「そういえば遠距離恋愛になっちゃったらしいけど、大丈夫?」 あたしに仕事を教えてくれているのは、5歳ほど年上の頭のいい女性で、まだ出会って数日の彼女のことを、あたしはいたく尊敬している。 「意外と平気です。何も変わらない感じ」 あたしたちは仕事の合間に、人影がまばらになった会社のカフェテリアで休息をとっていた。 「電話とか、たくさんするの?」

        子どもを持つことは難しいけど

        マガジン

        • 0101 ショート・ショートプロジェクト
          5本
        • 恋愛エッセイ『ダーリンとあたし』
          13本
        • amme のここ一番
          3本
        • 創作小説『つぼみのままの白百合』
          10本
        • 創作小説『狗たちの一生』
          2本
        • 恋愛エッセイ『過ぎ去ったいくつもの夜』
          5本

        記事

          あたしは三毛猫ちゃん

           あたしの恋人は、あたしのことを時々「ねこちゃん」と呼ぶ。  「よしよし、可愛いねこちゃんね」「ねこちゃん、こっちにおいで」  それは、たいていあたしを甘やかすときだ。あたしは、迷わず「にゃあ」と答えて彼の腕の中にすっぽりと収まる。 「あたしをたとえるとしたら何だろう?」 あたしはその時、今春会社に提出する自己紹介用のテキストを書いていて、恋人にそう尋ねてみた。 「猫かなぁ」 恋人は即答した。 「猫みたいな人、というか」 「ふぅん」 猫みたいな人。それは何だか良い面と悪い

          あたしは三毛猫ちゃん

          あたしの恋人とあたしをめぐる男たち

           どういうわけか、異性の知り合いの数は多い。あたしが長らく在籍した大学院という場所は、今なお男性ばかりの世界だから、こればかりは仕方がない。  恋人は、研究をきっかけにして知り合ったが、研究者ではない。このことにあたしは、毎回心底安堵する。研究者たちはみんな一癖も二癖もある人ばかりで、とにかく油断ならない。恋人は頭がいいけれど、実利的な考え方を好む。研究者にはならないタイプの人間だから、信頼できるのだ。  恋人に出会って数年経つ。あたしは、1センチの疑いの余地もなく幸福だ

          あたしの恋人とあたしをめぐる男たち

          【創作小説】つぼみのままの白百合09

          ↓ 08話はこちらです ↓  翌日の午後、麻里亜は再び江村家を訪れた。 「ごめんください」 玄関で呼びかけると、今日は中から「あがってください」と返事があった。どこから声が返ってきたのかと訝しんでいると、音を立てて二階の窓があいた。今ではもはや見かけない繊細な模様が入った重厚なガラス窓だ。 「いらっしゃい」 軽やかな声がして、静が顔をのぞかせている。梢が影を落としているせいか、心持ち顔色が冴えない。 麻里亜が台所で身支度をしていると、静が階下に降りてきた。 「悪いんだけど

          【創作小説】つぼみのままの白百合09

          小さな奇跡を積み重ねる日々

           恋人は、きっと気付いていない。あたしたちがしょっちゅう「シンクロ」していることに。  恋人の思考とあたしの思考は、深層心理のクラウドの中でたぶん同期されている。 「そういえば、昨日はどうだったの?」と恋人から連絡がきたのは、今日の夜だった。昨日、あたしは仕事仲間たちが集まるパーティーに参加していて、よくあたしたちの話題に登場する女の子とのツーショットを恋人に送った。  しかし、そのころ(おそらく)睡魔に襲われていたのであろう恋人は、短い返事を寄こしたのみで、そのまま眠って

          小さな奇跡を積み重ねる日々

          【創作ショート・ショート04】いつか始まる長い恋の予言

           土曜日の午後は川べりに座って、スケッチブックを開く。14:00ごろには、公園をジョギングしている男の子とすれ違う。たぶん同い年くらい。あまりにも毎週顔を合わせるので、何となくお互い会釈する。  そして15:00を少しすぎたところで、「小さな世界」のメロディーとともにアイスクリーム屋さんがやってくる。アイスを食べるときもあるが、たいてい私は川べりに座ったまま絵を描くことに熱中している。  都内から電車で30分ほど離れた場所にあるこの川の水面には、驚くほど様々な生き物がやって

          【創作ショート・ショート04】いつか始まる長い恋の予言

          読みたいメモ:川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』

          読みたいメモ:川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』

          【創作小説】狗たちの一生(後編)

           とはいえ、ここへ来るのにずいぶんと勇気がいった。ようやく息子が通う高校にたどり着いたというのに、私は当の息子を見つけられずにいた。  待ち合わせ時間が迫ってきて、私はいっこうに落ち着かず弱気に笑ってみせたり校舎の方をうかがったりしていたが、上手いとは言いがたい管楽器の音色が流れてくるばかりで、息子らしい少年は現れない。  無理もなかった。私はこの十五年間、一度も息子に会ったことはない。蓉子と臨に関わらないことは唯一の離婚の条件で、むろん私は経済的な援助を申し出たが、それは

          【創作小説】狗たちの一生(後編)

          【創作小説】狗たちの一生(前編)

           受話器を取った瞬間、向こう側に別れた妻がいるのだと分かった。だから私は言った。 「蓉子なのか?」  彼女は一瞬沈黙し、そして自嘲気味に小さく笑った。 「そうよ、私。あなた、相変わらず鋭いのね。鼻がよく利くというか、何というか」 「鼻は君らと変わらないじゃないか」  とっさに答えてしまってから、私は口をつぐんだ。彼女が苛立っているのが分かった。そうよ、あなたはいつも何かに怯えて身構えているせいで、冗談の一つも理解する余裕がないのよ、と。  私たちは十五年前に別れたきり一度も

          【創作小説】狗たちの一生(前編)

          【創作小説】つぼみのままの白百合08

          ↓ 07話はこちらです ↓  麻里亜と静の間に沈黙が訪れた。官能小説というものを麻里亜も知らないわけではない。それでも、目の前にいる静という一人の男性――それも自分といとこちがいの男――と性愛のイメージがあまりにも結び付かない。麻里亜の反応をみて、静はどこか慌てた様子で「あの」と言葉を継いだ。 「驚くよね、官能小説なんて。申し訳ない、忘れて」 静の言葉に、麻里亜はふと我にかえった。 「あ……ごめんなさい。たしかに少しだけ……驚いたものだから」 でも、と麻里亜は言葉を続けた

          【創作小説】つぼみのままの白百合08

          あたしを所有しないでね

          「養ってあげる」と、ある人から言われたことがある。  その人が冗談とも本気ともつかない表情だったので、あたしは束の間困惑した。  そう言った彼は、恋人ではない。かと言って友達でもないので、あたしたちはやや複雑な関係性なのだ。  彼とは、共通の知人を通して知り合った。素晴らしく頭の切れる男性で、仕事仲間の間でも実力者としてよく知られている。  そんな彼はどういうわけかあたしを気に入ってくれていて、たびたび好意をほのめかす。あたしは恋人の存在を説明して断交を宣言したが、彼はどこ

          あたしを所有しないでね

          「似たもの同士」になっていくけれど

           友人へのプレゼントを買いに、あたしは町の本屋さんに向かった。お目当ては、題名は伏せておくが、タイトルからしてノアールな雰囲気が漂う小説だった。  「ゴシック小説でね、ずっと読みたい本だったのよ」友人はすでにずいぶんとその本の虜だった。「とんでもなく天才的な書き手でね、大きな文芸賞を射止めた、それはもう伝説的な著作なの」そう力説する。友人の話では、ナチやら古城やら、人体実験やらが登場する話らしい。  生返事を返しながら、あたしは何だか薄気味悪くて陰気な小説だな、と思うのだっ

          「似たもの同士」になっていくけれど

          そばにいるのに、いない人

           あたしは安らいで、恋人の体にもたれる。恋人の体は頑丈で大きく、あたしがもたれかかったところで、びくともしない。彼はTVから目を離さずに器用に缶ビールを持ち替えて、片手であたしの体をなでる。額やら、胸やら、唇やら、顎やら。あたしは目を閉じて恋人の体温と匂いを感じながら、あたしたちが今ともに生きていることを確信する。  ともにいる時間を幸福に感じることが、そもそも幸福なのだ、とあたしは知っている。一緒にいればいるほど、孤独が深まっていく人もまた、他方で存在しているということ。

          そばにいるのに、いない人