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言葉百花

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日記を書いていたら、勝手に詩になってしまった。 そこから拾い上げて集めて並べて模様を描いている。 「動詞」のようにテーマを決めて、文章を綴ってみようと思いました。自分だけのタロ… もっと読む
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記事一覧

寿ぐ / ことほ-ぐ

白木蓮の樹に また 今年も 美しく花が満ちたから 門出のあなたを 寿ぐのに丁度いい 春だから風が強いね 気をつけていくんだよ 祝祭の中庭で いつも見ていた たくさん遊んでおいで 枝に凛と立ち並ぶ 白い花がまるで 花嫁衣装みたいだから 門出のあなたを 思ってただ祈ろうか たくさん笑っておいで たくさん遊んでおいで まるで花嫁衣装のようだったのです。

結晶化する

物語を読んで心が、震えて 胸がいっぱいになるとき するすると こぼれる涙の 半分は、目から流れ落ち もう半分は、どこか 胸の内の透明なシャーレに流れ着き、やがて 美しい結晶をつくる そんな光景が思い浮かんでいた。 とても 言葉には ならない どうか、息も潜めていてください 少しだけ 少しだけ 結晶がやがて、形を成し 言葉の姿になって あらわれるまで ふきよせレジデンス。 この文章が生まれたとき、確か この漫画を読んでいました。 谷口菜津子さんの描く物

回復する / Recover

忘れたなら、思い出せばいい 途切れたなら、またつながればいい 休んだなら、たくさん、たくさん寝て 動ける力を取り戻して また動き出せばいい それだけのこと。 秋に葉が落ち、しんと凍える冬を迎えて また春に目覚めるように 放っておいても回復する ちからを 身体が、生き物がみんな備えている ちからを わたしたちはどうしても 信じきることができずに ただ焦りをつのらせる 回復するちから それは、 深く息を吸い込んだ、肺のさらに奥に イメージの世界で、中心に立つ

繰り返す / Repeat

何度言われたって、わからないときはわからないものだよ 頭の中でこねくり回しているうちは 体に落とし込まない限りは 腑に落ちるまで 骨身にしみるまで 血肉になるまで そのときは、ふと訪れる わたしにとっての わたしだけの、巡り合わせ なぁんだ、こういうことか。 水がしたたり落ちるような 静かな 閃きの 広がりが 自分の奥底まで 染みとおってゆくときが 訪れることを知っている 何度でも繰り返す まるで雨乞いをする人みたい 同じようなことを 何度でもつぶやいて 何度

灯る / Light up

終わっていく 寂しさすら、証 出逢えたことの。 またね って約束をして それが心に灯り続ける いつか見た 夏至の夜のお祭りみたい 一枚の写真のようになっても イメージにふれれば ありありと思い出せる 嘘みたいに濃密な 記憶が詰まっている。 Photo by Hisu lee on Unsplash 真摯に向き合った時間のあとの ぽつんとした寂しさ、虚しさ それでも胸の内側には たしかに灯っている。

たゆたう / Waver

ゆらゆらしていたいんだ がっちりと決めてしまうのは苦手 これしかないんだと思ってしまうのも 肩に力が入ってガチガチになるのも それでいつのまにか きちんと息ができなくなっていることも ずっとそうやってきたから そうして、それをやめたくて ここに来たんだから たゆたう、という言葉が好き 身体から力が抜けていくようで 水族館で見たクラゲを思い出す この身体は、ほんとうは 骨と筋肉だけで支えられているのじゃなくて 袋に満たされた液体のような ぐにゃぐにゃして やわら

あきらめる / Resign

少し前、仕事をしている時のわたしは 車を運転しているのと同じだった 常時、全方向に警戒して 何かに遭遇するたび、優先順位を考えて対応して 判断することが多すぎて 息を吸って吐くように できる人もいる一方で わたしはそれだけで クタクタになってしまう もうできない。 そう思って、決死の思いで手放したら 世界はなんて静かなんだろう そして振り返ったなら なんて、必死の形相で無茶してたんだろう 頭で考えて、がんじがらめで 「そうは言ってもやらなくちゃ」って 心が悲鳴を上げるまで

荷を降ろす / Unload

責任感がない、って 自分を責めてた 負いきれない荷物は下ろしたらいいよ。 それもまた、責任のとりかた。 わたしにしか 背負えない荷物なんて そんなにない 数え切れるほどしか ほんとうは ないんだ。 Photo by anja. on Unsplash 自分が過去の日記に 何気なく書き散らした文章が 巡り巡って、自分を自由にしてくれた日。

嗅ぐ / Smell

金木犀の香りを嗅ぐと 高校生の頃を思い出す 文化祭が終わって、気が抜けて どこか荒涼とした、さびしい 誰かとつながっていたようで また一人に帰って来た そんな思い出に 無意識下で、ずっと つなぎ止められている それが香りの持つ魔力。 もう忘れたと思った ずっと好きだったけど もう完全に過去になったと思った すごく魅力的で、知りたくて だけどわたしとは決定的に、違う。 一緒に生きていく相手ではないんだと 心底思った、その人。 ほんとうに久しぶりに、居酒屋の軒先で

取り戻す / Regain

取り戻すために、 いったん失う必要があったのだ。 「ヒーローズ・ジャーニー」 物語のはじまりは いつも 何かを失うところから あるいは 何かが抑圧されて 見えなくなった状態から。 自分の選んだもので つながり直すために ひとりぼっち、宙ぶらりんで 孤独を味わって 自分の選んだ視点で 世界を観るために 疑って、否定して 反対側を走って そんなふうに 後から振り返って 意味があったのかもしれない そう思っていたい気持ち。 いやいやそんなの いらない 本当は 何も 誰も

なぞる / Trace

いつの頃からか、わたしが生きてきた道のりは まっすぐに長く のびた道ではなく いくつもの弧を つなげたような 螺旋の形をしていると、思い描いている。 元いた場所から、ずいぶん遠く離れて 歩いてきたような気がしていても ある時、戻ってきた と思う あの場所、 あの時の感情をもう一度 味わいたくて あの時、 かけてもらった言葉を 次は 誰かに伝えたくて いつからか はぐれた自分を もう一度 迎えにいこうとして まっすぐに長く続く 一本の線ではなく 同じところを 何度もな

見つめる / Gaze

わたしたちは、一人ひとり 別の世界を生きている きっと、一生をかけても お互いの世界のすべてを 見ることはできない それは決して、悲しいことじゃない 理解できないことと 愛していることは、両立するから けれど そのうえで、思う 「あなたの世界に何が見えるかを知りたい」。 この言葉を聞くたび 2人が並んで、同じ方向を見つめている姿を ずっと思い浮かべていた だけど、もしかしたら 「あなた」の見つめるものが何かを知っていたなら その人が大切にしたいものを 自分も守っ

刺繍する / Embroider

誰かと出会って、一緒に過ごして 心と つながったと思えるとき その人が見ている「世界」が ほんの少しだけ見えたような気がする それはまるで、自分に見える「世界」に 新しい模様の 刺繍をしていくようだと思っている。 誰かと出会うたび、一針、一針 広げた布に 緻密な彩りを重ねていく 人が生きていくということは そうして歩いていくことは 終わらない刺繍をしていくようだったらいい。 そしてわたしがいなくなった後 宇宙のどこかに、その模様がひっそりと 記憶されたあとで 消え

誇る / Be proud of

うつむかず 背すじをのばして 前を見て まっすぐに 笑っている そういうのでいい ほしいのは、そういう やわらかくて 素朴な 誇り。 おそれる自分、噛みつく自分 過去を切り離せない自分 見つけて、出会って もういいよ、ぜんぶ一緒にいこう その先に行こう 受け止めて、 そこから一歩 外に向かおうと 決めて 選んだ 誰にも知られなくていい ただ自分だけ その歩みの、欠かせなさを ずっと覚えている 抱えて眠ろう 一緒にいこう 砂漠に隠れた井戸みたいに これからの歩みを