あるひとを鼓舞したい

でなんで青八木だよと
でなんでBLだよとw
まーいーじゃん
これは初期の初期
2014年ころのものですww


囚人アオヤギ〔腐二次創作弱虫ペダル。手嶋目線〕


 初めて見た時、どきっとした。
 なんて美しい子だろう。
 こんな子が、どんな罪を犯したというんだ。
 けど…私情は禁物。
 この就職難の時代、仮にも公務員になれたんだ。
 失職する訳にはいかない。

 三日持たなかった。
 あの子はデカいやつの専属にされてしまった。
 まあ72は気は優しい方だから、しばらく様子を見よう。

 下克上があった。
 5が72を出し抜いた。
 寵愛のあの子も引き継いだ。
 5は4に心酔してる。
 上納されたらことだ。
 介入した方がいいのか?
 同僚の古賀はほっとけという。
 ああいうのがいると、房内のトゲトゲした雰囲気が少し和らぐからって…
 でも…

 やはりあの子は上納されてしまった。
 5から4に渡り、4が1に貸している。
 1はナニが激デカい。
 きっとつらいに違いない。
 何かしてやれることはないのだろうか。

 夜半、見回っていたら、なんと古賀があの子を抱いていた!
 踏み込む度胸なくて、あとで古賀に詰め寄った。
「かわいくてな…つい…」
 全然悪びれてなかった。
 悲しくなったが、見回りは続けなきゃならない。
 ふた周り目に、あの子の房の前を通ると、格子の前にあの子がいた。
「就寝時間だ。ベッドに入れ」
 心を鬼にして強く言ったが、ただ黙ってこちらを見ている。
 そして一言だけ言った。
「僕…無実です」

 無実です。
 耳について離れない。
 だよねっ。
 態度もまじめだし、どっちかっていうときまじめすぎるくらいだ。
 あんな子が冤罪うけるなんて、ひどい世の中だ。
 僕に強力なコネとかあったら、すぐに助けてあげるのに。
 でも僕は一介の公務員で、話を開くのがせいいっぱいで…
 僕には心を開いてくれたのか、あの子はぽつぽつ身の上を語ってくれた。
 生まれてすぐ、親に捨てられたこと。
 拾い親が良い人だったので、あたたかい家庭で育ったこと。
 自転車が好きなこと。
「僕も好きだ。前キャノンデールとか持ってた」
「すごいですね。僕はコラテック、好きです。本でしか、見てないけど」
 少し、遠い目になった。
「乗りたいな」

 給料日。
 少し高かったけど写真集を買った。
 自転車のカタログみたいな写真集。
 このピエール何とかって写真家は、自転車の写真ばっか撮ってる人なんだ。
 喜ぶかな、なんてひとりで浮かれながら職場へ行くと大騒ぎだった。
 脱獄があったのだ。
 逃げたのは、1と4と5と…あの子だった。

 フェンスのところであの子とかち合った。
 下に掘られた穴から、表に出ようとしていた。
 かれは僕をじっと見て言った。
「養い親、末期ガンなんです。ひと目だけ、会いたい」
 そして僕に、触れるキスした。
 かれが逃げおおせてしまうまで、僕はその場から動けなかった。

 看守から囚人へ。
 立場はまるっと変わった。
 僕もそこそこイケてるから、やつらの恰好の餌食だ。
 72~5の脱獄で、もとの地位に返り咲いていた~の庇護下に置かれ、元看守のわりには良い待遇をうけている。
 今はすべて知っている。
 あの子の言った話のほとんどが嘘だったことも、ぜんぜん無実じゃなかったことも。
 ときどき思う。
 あのまなざしにたぶらかされなければ良かったのだろうかと。
 でも…
 いいんだ。
 これが運命だったんだ。
 多分…

 十六か月後、再逮捕されたあの子が戻った。
 同じ服になった僕を見て、かれは黙ってにこっと笑った。

それでも地球は回っている